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翌朝、隣でモゾモゾと動く気配に目を開けた。
「すまない。起こしてしまったか」
「……んぁ、いえ」
ロクに開かない口で何とか答えて、寝転がったまま視線を巡らせる。
窓から差し込む光はまだ薄暗く、明け方だということが窺えた。
「……もうおしごとですか」
「ああよい。まだ寝ていなさい」
ぼんやりした頭で起き上がろうとするのをカダが制止する。
そう言われても、この後宮の主がこれから働こうとしているのに、仕えるべき人間がオチオチ寝ているわけにもいかない。
なんとか上半身だけを起こして、あくび混じりに「おはようございます」と挨拶をした。
「ああおはよう。とても気持ちのいい目覚めだ。シアの働きに感謝する」
明るい声が言って、喜びを表現するように私の身体を抱きしめる。
眠気が一瞬で吹き飛んだ。
「おかげで仕事によく集中できそうだ。頭も身体もとても軽い」
弾む声が耳元で聞こえる。
よほど嬉しかったのだろう、私が身を固くするのにも気付かず腕に力が込められた。
この人の声が好きだな、と気付いて、それから少し体温が上がった。
「……いえ。お役に立てたなら、良かったです」
形だけとは言え、一応セックスまで済ませている間柄だというのに、不覚にもドギマギとしてしまって上手く言葉が紡げなかった。
雑に抱きしめられているだけだと言うのに、機械的な性行為よりよっぽど気持ちいいと感じるのは何故なのか。
「その、えっとじゃあ、お仕事頑張って、ください」
「ああ。シアのためにも早く国を良くしなくてはな」
動揺を誤魔化すように言うと、爽やかに返されて顔を覆いたくなった。
なんだかキラキラしている。
誰だこいつ。キャラ違うじゃん。
睡眠足りるとネジ跳ぶのか。
心の中で毒づいて、うっかり顔が赤くならないように思考回路を無理やり遮断した。
ようやく離れてくれたカダが、遠慮がちに笑みを浮かべる。
「また眠れなくなったらここに来てもいいか」
「……ふはっ、そんなの、王様なんですから好きにしてくださいよ」
呆れて思わず笑いが漏れた。
カダという人は、とことん私の知る王様像とはかけ離れているようだ。
「邪魔に思われて寝首を搔かれてはたまらんからな」
「実家を潰してくれるまでは我慢してさしあげます」
茶目っ気を含んだ物言いに、ニマッと笑って返す。
薄暗闇の中で軽やかな笑いが弾けて、カダが出ていった後もその明るい空気が私の部屋に残された。
早朝から彼の勢いに圧倒されてしまったが、なんだか気分が良くて二度寝をしようという気分にはなれなかった。
それ以来カダはちょくちょくこの部屋を訪ねてきては、昼寝をしたり泊っていったりするようになった。
自室で寝るときも少しずつ深く眠れる時間が増えているらしく、嬉しそうに報告してくる。
来るたびに入念なマッサージをしていた甲斐もあって、カダの身体の変化は如実に表れ始めた。
肌にはハリ、髪にはツヤが出始め、顔を出すたびに年相応になっていくのが面白い。
施術を始めてから寝落ちまでの時間も少し伸びて、比例するようにお喋りをする時間が増えていく。
カダと話をするのは楽しかった。
彼は思慮深く、聡明で、豊富な知識を持ち、無知な私を馬鹿にもせず丁寧にいろんなことを教えてくれた。
本格的にマッサージを始めて以来私とのセックスは中断していたけれど、身体を繋げるよりよほど彼のことを知ることが出来ている気がする。
それがなんとなく嬉しく、そして誇らしく思えた。
もう後宮に来てから、三ヵ月が過ぎていた。
「すまない。起こしてしまったか」
「……んぁ、いえ」
ロクに開かない口で何とか答えて、寝転がったまま視線を巡らせる。
窓から差し込む光はまだ薄暗く、明け方だということが窺えた。
「……もうおしごとですか」
「ああよい。まだ寝ていなさい」
ぼんやりした頭で起き上がろうとするのをカダが制止する。
そう言われても、この後宮の主がこれから働こうとしているのに、仕えるべき人間がオチオチ寝ているわけにもいかない。
なんとか上半身だけを起こして、あくび混じりに「おはようございます」と挨拶をした。
「ああおはよう。とても気持ちのいい目覚めだ。シアの働きに感謝する」
明るい声が言って、喜びを表現するように私の身体を抱きしめる。
眠気が一瞬で吹き飛んだ。
「おかげで仕事によく集中できそうだ。頭も身体もとても軽い」
弾む声が耳元で聞こえる。
よほど嬉しかったのだろう、私が身を固くするのにも気付かず腕に力が込められた。
この人の声が好きだな、と気付いて、それから少し体温が上がった。
「……いえ。お役に立てたなら、良かったです」
形だけとは言え、一応セックスまで済ませている間柄だというのに、不覚にもドギマギとしてしまって上手く言葉が紡げなかった。
雑に抱きしめられているだけだと言うのに、機械的な性行為よりよっぽど気持ちいいと感じるのは何故なのか。
「その、えっとじゃあ、お仕事頑張って、ください」
「ああ。シアのためにも早く国を良くしなくてはな」
動揺を誤魔化すように言うと、爽やかに返されて顔を覆いたくなった。
なんだかキラキラしている。
誰だこいつ。キャラ違うじゃん。
睡眠足りるとネジ跳ぶのか。
心の中で毒づいて、うっかり顔が赤くならないように思考回路を無理やり遮断した。
ようやく離れてくれたカダが、遠慮がちに笑みを浮かべる。
「また眠れなくなったらここに来てもいいか」
「……ふはっ、そんなの、王様なんですから好きにしてくださいよ」
呆れて思わず笑いが漏れた。
カダという人は、とことん私の知る王様像とはかけ離れているようだ。
「邪魔に思われて寝首を搔かれてはたまらんからな」
「実家を潰してくれるまでは我慢してさしあげます」
茶目っ気を含んだ物言いに、ニマッと笑って返す。
薄暗闇の中で軽やかな笑いが弾けて、カダが出ていった後もその明るい空気が私の部屋に残された。
早朝から彼の勢いに圧倒されてしまったが、なんだか気分が良くて二度寝をしようという気分にはなれなかった。
それ以来カダはちょくちょくこの部屋を訪ねてきては、昼寝をしたり泊っていったりするようになった。
自室で寝るときも少しずつ深く眠れる時間が増えているらしく、嬉しそうに報告してくる。
来るたびに入念なマッサージをしていた甲斐もあって、カダの身体の変化は如実に表れ始めた。
肌にはハリ、髪にはツヤが出始め、顔を出すたびに年相応になっていくのが面白い。
施術を始めてから寝落ちまでの時間も少し伸びて、比例するようにお喋りをする時間が増えていく。
カダと話をするのは楽しかった。
彼は思慮深く、聡明で、豊富な知識を持ち、無知な私を馬鹿にもせず丁寧にいろんなことを教えてくれた。
本格的にマッサージを始めて以来私とのセックスは中断していたけれど、身体を繋げるよりよほど彼のことを知ることが出来ている気がする。
それがなんとなく嬉しく、そして誇らしく思えた。
もう後宮に来てから、三ヵ月が過ぎていた。
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