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「シア。私は君を守りたい。ほんの少しだって危険な目に遭わせたくないんだ」
「だけど、」
「国を良くするために必要なことだ。これからさらに大きな改革が起こるだろう。シアには安全なところにいてほしい。粛清前にレゾナント家には私から話しておこう。シアと養父殿を解放するようにと。元の生活に戻るが良い」
「待ってよ! じゃあカダ様は? あなたは誰が守ってくれるの?」
泣きそうになりながら問うと、カダが情けない顔で笑った。
「命を惜しんではいられない。ずっとその覚悟でやってきた。ただ、」
カダが私を抱き寄せる。息が詰まるほどの強さだった。
「大切なんだ。わかってくれ」
そんな言い方はズルい。
私だってカダが大切なのに。
「離れるのはつらいが仕方ない。シアの今後の生活のためにも頑張るから応援していてくれ」
ゆっくり離れながらカダが笑う。
その曇りない笑みに不安が募っていく。
「父は民衆にとって暴君だった。だから私は貴族に対しての暴君になろうと思う」
カダの決意は固い。
正妃でもなんでもない私が、これ以上王様が決めたことに口を挟めるわけもない。
きっと私と出会うずっと前から推し進めていたことなのだろう。
自分が彼を支える立場になれるわけもなく、この先一緒にいるという未来は最初からありえなかったのだ。
「出会えて良かった。シアのおかげで今の私がある」
吹っ切れたような明るい笑顔に、涙がぼたりと落ちた。
カダが困ったように笑って、指先で涙を拭ってくれた。
「愛してるよ、シア」
強く私を抱きしめて、熱を帯びた声が言う。
「私も、愛してる」
泣き声は震えて、それだけ言うのが精一杯だった。
後宮を出るまでの準備期間はほんの一週間しかなかった。
ここで暮らす女たちにとってはずいぶん急な話だっただろう。
リーシャは終始文句を言っては取り巻きたちに宥められていた。
彼女と会うことももうないのかと思うと少し寂しかった。
その間カダは毎晩私のもとへ訪れた。
これが最後なのだと思うと愛しさが増して、朝が来るのが恨めしかった。
後宮を去る日、カダは見送りには来なかった。
忙しいのだろう。
きっとカダが来たらみっともなく取り乱して縋りついただろうから、居なくて良かったとホッとした。
豪勢な馬車が私を出迎え、レゾナント家への帰路を急いだ。
窓の外を過ぎ去る景色をぼんやり眺める。
現実感を失ったまま、言葉もなく無為な時間を過ごした。
カダからどんな話がいったのかは知らないが、父も母も私と目も合わせずに「早く出ていけ、二度と関わるな」と言葉少なに告げた。
こっちのセリフだと思ったけれど、言い返す気力も湧かず、養父を軟禁しているという部屋へ急ぐ。
「シア!」
「じいちゃん!」
駆け寄ってきた養父と硬く抱き合って泣き崩れる。
ようやく無事を確認できた安堵から、じわじわと日常への帰還を感じ始めていた。
ここまで送り届けてくれた馬車は屋敷の門前で待っていてくれて、再び私と養父を乗せて走り出した。
正確な所在地を教えたわけでもないのに、御者は迷いもなく養父の店へ真っ直ぐに向かっている。貴族連中やその領地の調査をしていたというから、ついでにその場所を調べていてくれたのかもしれない。
カダの配慮に感謝しながら、町の少し手前で馬車を止めてもらい、久しぶりの貧民街へと足を踏み入れた。
懐かしい我が家だ。
レゾナント家の屋敷に戻った時よりも強くそう感じる。
煌びやかな生活とは無縁の、ボロくて質素な住まい。
養父と再び抱き合って、ホッと息を吐く。
私の住む世界はここなのだと、心から思えた。
後宮でのことは夢だと思おう。
そうするのが一番良い。
カダとは二度と会えない。あの日々はもう帰ってこない。
幸福な夢だった。
その夢だけできっとこの先も生きていける。
そう思った。
「だけど、」
「国を良くするために必要なことだ。これからさらに大きな改革が起こるだろう。シアには安全なところにいてほしい。粛清前にレゾナント家には私から話しておこう。シアと養父殿を解放するようにと。元の生活に戻るが良い」
「待ってよ! じゃあカダ様は? あなたは誰が守ってくれるの?」
泣きそうになりながら問うと、カダが情けない顔で笑った。
「命を惜しんではいられない。ずっとその覚悟でやってきた。ただ、」
カダが私を抱き寄せる。息が詰まるほどの強さだった。
「大切なんだ。わかってくれ」
そんな言い方はズルい。
私だってカダが大切なのに。
「離れるのはつらいが仕方ない。シアの今後の生活のためにも頑張るから応援していてくれ」
ゆっくり離れながらカダが笑う。
その曇りない笑みに不安が募っていく。
「父は民衆にとって暴君だった。だから私は貴族に対しての暴君になろうと思う」
カダの決意は固い。
正妃でもなんでもない私が、これ以上王様が決めたことに口を挟めるわけもない。
きっと私と出会うずっと前から推し進めていたことなのだろう。
自分が彼を支える立場になれるわけもなく、この先一緒にいるという未来は最初からありえなかったのだ。
「出会えて良かった。シアのおかげで今の私がある」
吹っ切れたような明るい笑顔に、涙がぼたりと落ちた。
カダが困ったように笑って、指先で涙を拭ってくれた。
「愛してるよ、シア」
強く私を抱きしめて、熱を帯びた声が言う。
「私も、愛してる」
泣き声は震えて、それだけ言うのが精一杯だった。
後宮を出るまでの準備期間はほんの一週間しかなかった。
ここで暮らす女たちにとってはずいぶん急な話だっただろう。
リーシャは終始文句を言っては取り巻きたちに宥められていた。
彼女と会うことももうないのかと思うと少し寂しかった。
その間カダは毎晩私のもとへ訪れた。
これが最後なのだと思うと愛しさが増して、朝が来るのが恨めしかった。
後宮を去る日、カダは見送りには来なかった。
忙しいのだろう。
きっとカダが来たらみっともなく取り乱して縋りついただろうから、居なくて良かったとホッとした。
豪勢な馬車が私を出迎え、レゾナント家への帰路を急いだ。
窓の外を過ぎ去る景色をぼんやり眺める。
現実感を失ったまま、言葉もなく無為な時間を過ごした。
カダからどんな話がいったのかは知らないが、父も母も私と目も合わせずに「早く出ていけ、二度と関わるな」と言葉少なに告げた。
こっちのセリフだと思ったけれど、言い返す気力も湧かず、養父を軟禁しているという部屋へ急ぐ。
「シア!」
「じいちゃん!」
駆け寄ってきた養父と硬く抱き合って泣き崩れる。
ようやく無事を確認できた安堵から、じわじわと日常への帰還を感じ始めていた。
ここまで送り届けてくれた馬車は屋敷の門前で待っていてくれて、再び私と養父を乗せて走り出した。
正確な所在地を教えたわけでもないのに、御者は迷いもなく養父の店へ真っ直ぐに向かっている。貴族連中やその領地の調査をしていたというから、ついでにその場所を調べていてくれたのかもしれない。
カダの配慮に感謝しながら、町の少し手前で馬車を止めてもらい、久しぶりの貧民街へと足を踏み入れた。
懐かしい我が家だ。
レゾナント家の屋敷に戻った時よりも強くそう感じる。
煌びやかな生活とは無縁の、ボロくて質素な住まい。
養父と再び抱き合って、ホッと息を吐く。
私の住む世界はここなのだと、心から思えた。
後宮でのことは夢だと思おう。
そうするのが一番良い。
カダとは二度と会えない。あの日々はもう帰ってこない。
幸福な夢だった。
その夢だけできっとこの先も生きていける。
そう思った。
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