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8.私、脱いだらショボいんです

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「お前の部屋に案内する」

来い、と腕を掴まれ、視線の集中砲火を浴びるなか船内へと引っ張られる。
なんとか足は動いたが、頭の中はメチャクチャだった。

ぼんやりと、引かれるままに辿り着いた簡素なドアが開かれる。
広くはない船内だというのに、どんな道順でここに来たかもう分からない。
ひたすらこれから訪れる最悪な未来への絶望が、思考を鈍らせていた。

「使ってない部屋だったからカビ臭くてすまんな。あとで箒とか持ってきてやるから自分でなんとかしてくれ」

私が一言も発さないままでいることを気にした様子もなく、男が淡々と言う。
ノロノロと視線を巡らせると、狭い船室には粗末なベッドと小さな丸窓がひとつあるきりだった。
チェストもクローゼットも、小さなテーブルさえもなかった。

まぁセックスするためだけの部屋ならベッド以外必要ないか。
どこか投げやりな気持ちで思う。

抵抗して逃げ出したい気持ちはもちろんある。
だけどここは海のど真ん中で、今私が持っている武器は護身用の短剣がひとつのみ。
この海賊団がどれほどの戦闘力を持っているのかは知らないが、さすがにちっぽけな小刀ひとつで十何人も相手にして、無事で済むとは思えない。仮に全て倒せたとしても、陸地まで泳ぎ着けるとは到底思えなかった。

何より目の前のこの男だ。
小さな明かりの下でも、鍛え上げらえた身体だというのがよく分かる。
そのうえ全体的に雑な動きをしているようで、全く隙がない。
余裕綽綽に見えて、その実、油断なく全身に神経を張り巡らせているのがわかる。
船長と呼ばれているのは伊達ではないのだ。

「よし、とりあえず脱げ」

ストレートに言われて血の気が引く。
なるほど、船長特権でまずはこいつの相手をしなきゃならないのか。
目の前が暗くなった。

手が震える。
それでも殺されるよりはと、緩慢な動作でドレスを脱いでいく。

男は焦れた様子もなく、腕組みをしながらそれを待った。

バサッと音を立ててドレスが床に落ちる。
掃除の行き届いていない床に埃が舞った。

なぜこんなところでストリップをしなければならないのか。
現世で嫌われ者だったにしても、ここまでひどい罰を受けるほどのものだろうか。

なんとか気持ちを奮い立たせて、コルセットに手を掛けたところで「ふむ」と短く言って男が近寄る。
ビクッと肩が跳ねた。

近い距離でじっくり身体を検分する、無遠慮な視線を感じる。

これから地獄が始まるのだ。
そう覚悟して、せめてもの抵抗でぎゅっと目を閉じた。

「ちょっと待ってろ」

言って男がくるりと反転して部屋を出ていった。

「……へ?」

扉の閉まった部屋で、一人呆然と立ち尽くす。

なんだろう。なんだかよくわからないが助かったのだろうか。

よくわからぬままに自分の身体を見下ろしてみる。
歳のわりに貧相な身体をしているから興覚めして出ていったのだろうか。
ふくよかな肢体をもつ女性がモテる世界だ。
さぞがっかりしたことだろう。
剣技を極めるために鍛えていたから、確かに男の求める豊満さとは掛け離れている。

なるほど、好みのスタイルではなかったのか。
さすがに犯罪者といえど、女ならばなんでもイケるというわけではないのだな。

安堵で気が抜けそうになる。
それにしてもこのまま放置はひどくないか。せめてやる気が失せたとかなんとか言って試合終了の合図をしてくれないか。

いやちょっと待てよ。あいつなんか待ってろとか言ってなかったか。
てことはもしやこれで終わりじゃなくて、私みたいな痩せっぽちでも興奮するとかいう奇特な趣味を持った部下を連れてくる気では……?

にわかに焦り始めた瞬間、ガチャっとドアが開いた。
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