【完結】追放令嬢は海賊生活を謳歌する

当麻リコ

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29.見惚れるほどの

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「結局血まみれじゃねぇか」

全員の手当てを終え、船内に戻ろうと一息ついたのを見計らってウィルが声を掛けてきた。
その声は呆れ成分を多く含んでいるようだった。

「せっかく汚れねぇように気ぃつかってやったのによ」

汚れないようにというのは、決して服や手だけのことを言っているのではないはずだ。
私自身がお綺麗でいられるように、彼なりの配慮をしてくれていたのはわかっている。
でも、それは絶対に口にしないのだろう。

「船長はご自分で手当てしてくださいね」

わかっていて、ツンと顔を逸らしてわざと冷たく言う。
気恥ずかしさを誤魔化すためだ。我ながら子供じみていると思う。

「冷てぇの」

それでもウィルは苦笑するだけだ。
自分との器の違いを感じてがっくりきてしまう。

「ま、大した怪我してねぇからいいけどよ」

疲れたように言って、ドカッと甲板に腰を下ろす。
見た感じ、確かに深い傷はなさそうだ。やはりこの人も、船長なだけあって相当な手練れなのだろう。

「それ貸してくれ」

私が持っている救急キットを指さして言う。

「本当に自分でやる気?」
「そう言ったのはレーナだろが。まったく船長の扱いひどすぎねぇ?」
「だって意地悪ばかり言うから……」

キットを渡して正面にしゃがみ込みながら、唇を尖らせていじけてみせる。

「んむっ」

腕の消毒をしていたウィルが、それに気付いてきゅっと唇をつまんできた。

「何すんのよ!」
「いやガキみてぇなツラしてたから」
「失礼ね!」

ぺちんと手を叩き落とすと、痛がった様子もなくカラカラと笑った。

「どっちがガキよまったく……」
「わりぃわりぃ」

ちっとも悪くなさそうに謝って、自分の手当てに戻る。
戦闘も怪我も日常茶飯事なのだろう。慣れた手つきで包帯を巻いていくのを、居心地悪く見守る。

「……肩の傷、手、届くの?」
「んぁ? んなとこ怪我してたか?」
「気付いてなかったの? 鈍すぎない?」

眉を顰めて言うと、ウィルが「冗談だよ」と笑って私の頬をつついた。

「……手伝ってあげようと思ったけどやっぱやめた」

頬を押さえながら恨めし気な目で睨んで言う。

「あーすまんすまん今のなし! 手伝ってください!」

慌てて謝りながら思い切り下手に出られて、思わず笑ってしまう。
両手を合わせて拝むように頭を下げながら、ちらりと上目遣いに私の機嫌を伺う仕草がなんだかかわいかった。

どうやら私に役目をくれるつもりらしい。

「しょうがない。やってあげるわよ」

冗談めかしてふんぞり返った偉そうな態度で言ってみせる。
ウィルは「ありがたき幸せ」なんて大袈裟に言って恭しく礼をした。

「うしろ向いて」
「はいよ」
「シャツ脱いで」
「えっち……いてっ」

素早く怪我のない右肩を無言でバシッと叩く。

「船長への敬意はどこにあるんだよ……」

ぶつぶつ言うウィルを無視してガーゼや包帯を出しながら、脱ぎ終わるのを待つ。

「ほらよ。あと頼んだ」

露わになった背中に、思わず感嘆のため息をこぼしそうになる。

惚れぼれしてしまうほど、鍛え抜かれた背中だ。
まるで美術館に展示される彫刻のような肉体美が目の前にあった。

無意識にそっと触れる。
全体的に、今までの戦闘の多さを物語るような傷跡が沢山ついていた。
けれどそれは彼の身体の美しさを損なうものではなく、それがあるからこそこんなにも心を揺さぶる。

「……おまえ俺のことをエロい目で見ているな?」
「えっ、あ! ごめんなさい!」

指摘されて慌てて手を離す。
危うく撫でまわすところだった。これじゃ痴女だ。
バレていたなんて恥ずかしい。急速に顔に熱が集まっていく。

「え、マジで?」

いやなんで言った本人が戸惑うの。
もしかしてからかうつもりだったの?

気付いてさらに赤くなる。
これじゃ自白損だ。無駄に恥をかいてしまったじゃないか。

最悪だ。
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