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31.痴女じゃないです

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抱き着きながら言い合っていると、アランが羨ましそうな目をした。

「えーいいな。オレももっと鍛えとけばよかった」

わかる。この肉体美いいよね。
私も男だったらこれくらいになりたかった。
ボディビルダーとかの観賞用の筋肉じゃなくて、なんかこう、いかにも実用的ですって感じの。

「やめとけ。痴女に襲われるぞ」
「失礼ね、アランは良い子だからこんなはしたないことしないわ」
「どういう意味だこのやろう」
「ウィルはこういうこと慣れてるでしょ。爛れた生活送ってそうだもの」
「まぁそうだね。陸に上がるととっかえひっかえ」
「アランてめぇ余計なこと言うな」
「だと思った。いやらしいわぁ」
「そのいやらしい男にいつまで抱きついてんだ。そろそろ離れろ視線が痛い」

ぱちりと目を開けてウィルの身体から離れる。そうして周囲を見渡せば、作業の手を止めた船員たちが私たちを見ていた。

「あらやだ」
「アホ」

今更恥ずかしくなって、誤魔化すように周囲に愛想笑いする私に、ウィルが呆れた口調で言う。
そうして素早くシャツを着込んだ。

「レーナ、次は俺に抱き着くかい?」

すかさずアルが寄ってきて、私の目の前に片膝をついて両手を広げる。
どこか芝居がかった仕草で、ニコニコと期待に満ちた目をしている。
ありがたい申し出だけど、苦笑して首を振った。

「ううん、やめとくわありがとう」
「そう? 俺はいつでも大歓迎だけど」
「初めてのことで舞い上がっちゃったけど。次からは本当に好きな人とだけにしとくわ」
「それは残念。じゃあ早く俺を好きになってね」
「賢明な判断だな。あっちこっちでやってたら完全に痴女で捕まる」
「馬鹿な事言ってないでさっさとメシにするぞ。腹減ったわ」

確かにもうだいぶ遅い時間だ。
今から食事の準備をするとなると、みんな空腹で倒れかねない。

「誰かさんの手当てのせいで厨房に行くのが遅れててすみません」

少しも詫びる気持ちのないまま澄ました顔で言うと、ウィルが笑った。

「どっかの変態のせいで晩飯食いっぱぐれちまう。みんな手分けして手伝うぞ!」
「うーっす」
「もちろん手伝わせていただきますとも」
「誰が変態よ」
「別にレーナとは言ってないだろ」
「船長いいなぁ」
「レーナ、オレも結構鍛えてるから抱き着きたくなったらいつでも言って」
「俺も!」

みんなで軽口を言い合いながら、ゾロゾロと連れだって厨房へ向かう。
なんだかまた少しみんなとの距離が縮まった気がして嬉しかった。


食堂に入ると、テーブルにはすでに料理が用意されていて驚く。

「レーナが頑張ってたから、俺らはこっちを頑張っといたよ」

丁度配膳を終えたテオが、私たちに気付いてにっこり笑う。
どうやら応急処置と自分の持ち場を終えたメンバー達から順に食堂にきて、夕飯の準備をしてくれていたらしい。

「ありがとう! すごく嬉しい!」

私は感激して、テオを初めとする夕飯お手伝い組に心から礼を言った。

そうして席について、全く美味しくない夕飯をみんなで涙を堪えながら食べたのだった。
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