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34.陸上生活③
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他の船員はそれぞれ数人ずつ同部屋で泊まるらしいが、さすがに私は個人の部屋を手配してくれたらしい。
防犯のためだと言って、隣の部屋はウィル達年長組四人で、逆隣は特に私と仲の良いテオやアルを含む五人を配置してくれた。
「そんじゃ俺は飲みに行くからな。鍵ちゃんと閉めろよ」
「はいはいわかってますって。ウィルこそ綺麗なお姉さんに骨抜きにされてお財布スられないようにね」
「生意気」
「ふぎゅっ」
意地悪く言うと、鼻をつままれて変な声が出た。
向こう脛を蹴ってやろうとしたら、ひらりと躱されて腹が立つ。
「おとなしく蹴られなさいよ」
「やなこった」
べっ、と舌を出してささっと逃げていく。
ウィルに危険な魅力なんてないかもしれない。
速攻で前言撤回したくなりながら、廊下を軽い足取りで去っていく大人げない大人の背中を見送った。
中に入り、言いつけ通り部屋の鍵を閉めて、ベッドに腰掛け一息つく。
風のない穏やかな夜だった。
港町だというのに、海辺から少し離れたこの宿では波の音は聞こえない。
どこか落ち着かない気分だ。
モソモソと寝間着に着替えて、簡素なベッドに身体を横たえる。
もう夜も遅い。それに明日は大量の買い出しが待っている。
さっさと寝てしまおう。
硬いマットももう慣れた。
薄っぺらい毛布でも、黴臭くも潮臭くもない、良く干された匂いがして快適だ。
けれど眠気はなかなかやってこなかった。
身体は疲れているのに、妙に頭が冴えている。
揺れないベッドではなかなか寝付けず、ずいぶんと船上暮らしに馴染んだものだと、ひとり静かに笑いを漏らした。
しんと静寂が部屋の中を支配する。
何時間も寝付けないまま暗闇の中でひとり目を閉じていると、廊下からちらほらと足音が聞こえ始めた。
船員たちが酒なり女なりに満足して帰ってきたのだろう。
それもしばらくすると、再び静かになった。
睡魔はまだやってきそうにない。
喉の渇きを覚えて起き上がる。
水をもらいに行こう。
確か階段を降りたところにセルフサービスの水差しがあったはす。
思い出して部屋を出ると、隣の部屋で寝ているはずのウィルが向こうから歩いてくるところだった。
「お、なんだなんだ、子供はさっさと寝ろよ」
時間に配慮した静かな声で、機嫌よく言われてムッとする。
そのまま無視して脇を通り過ぎようとして、すれ違いざまにウィルから白粉の匂いを感じて思わず足を止めた。
ウィルを見上げると、きょとんした顔で首を傾げた。
女を抱きに行った帰りなのだとすぐにわかった。
お酒の匂いなど少しもしなかった。
宿を出る前の言葉は嘘だったのだろう。
きっと処女に気を遣ってくれたのだ。
たぶんそうなのだろうなとは思っていたが、実際に生々しい現実を突きつけられると、どうしてだかひどく胸が痛んだ。
「トイレか? 場所覚えてるか」
「……大丈夫」
妙に乾いた声だった。
そういえば水を飲もうとしてたんだった。
どこかぼんやりとした頭で思い出す。
「廊下暗いからついてってやろうか」
「……大丈夫だってば」
過保護なことを言うウィルに、笑おうとしたのに上手く笑えなかった。
変に表情が歪みそうになって、とっさに顔を伏せて歩き出す。
「水取りに行くだけよ。すぐ戻るわ」
「そうか。部屋に戻ったらちゃんと」
「わかってる。鍵かければいいんでしょ」
軽い調子で応えてさっさと階段へと向かう。
廊下が暗くて良かった。
こんな強張った顔は見られたくなかった。
防犯のためだと言って、隣の部屋はウィル達年長組四人で、逆隣は特に私と仲の良いテオやアルを含む五人を配置してくれた。
「そんじゃ俺は飲みに行くからな。鍵ちゃんと閉めろよ」
「はいはいわかってますって。ウィルこそ綺麗なお姉さんに骨抜きにされてお財布スられないようにね」
「生意気」
「ふぎゅっ」
意地悪く言うと、鼻をつままれて変な声が出た。
向こう脛を蹴ってやろうとしたら、ひらりと躱されて腹が立つ。
「おとなしく蹴られなさいよ」
「やなこった」
べっ、と舌を出してささっと逃げていく。
ウィルに危険な魅力なんてないかもしれない。
速攻で前言撤回したくなりながら、廊下を軽い足取りで去っていく大人げない大人の背中を見送った。
中に入り、言いつけ通り部屋の鍵を閉めて、ベッドに腰掛け一息つく。
風のない穏やかな夜だった。
港町だというのに、海辺から少し離れたこの宿では波の音は聞こえない。
どこか落ち着かない気分だ。
モソモソと寝間着に着替えて、簡素なベッドに身体を横たえる。
もう夜も遅い。それに明日は大量の買い出しが待っている。
さっさと寝てしまおう。
硬いマットももう慣れた。
薄っぺらい毛布でも、黴臭くも潮臭くもない、良く干された匂いがして快適だ。
けれど眠気はなかなかやってこなかった。
身体は疲れているのに、妙に頭が冴えている。
揺れないベッドではなかなか寝付けず、ずいぶんと船上暮らしに馴染んだものだと、ひとり静かに笑いを漏らした。
しんと静寂が部屋の中を支配する。
何時間も寝付けないまま暗闇の中でひとり目を閉じていると、廊下からちらほらと足音が聞こえ始めた。
船員たちが酒なり女なりに満足して帰ってきたのだろう。
それもしばらくすると、再び静かになった。
睡魔はまだやってきそうにない。
喉の渇きを覚えて起き上がる。
水をもらいに行こう。
確か階段を降りたところにセルフサービスの水差しがあったはす。
思い出して部屋を出ると、隣の部屋で寝ているはずのウィルが向こうから歩いてくるところだった。
「お、なんだなんだ、子供はさっさと寝ろよ」
時間に配慮した静かな声で、機嫌よく言われてムッとする。
そのまま無視して脇を通り過ぎようとして、すれ違いざまにウィルから白粉の匂いを感じて思わず足を止めた。
ウィルを見上げると、きょとんした顔で首を傾げた。
女を抱きに行った帰りなのだとすぐにわかった。
お酒の匂いなど少しもしなかった。
宿を出る前の言葉は嘘だったのだろう。
きっと処女に気を遣ってくれたのだ。
たぶんそうなのだろうなとは思っていたが、実際に生々しい現実を突きつけられると、どうしてだかひどく胸が痛んだ。
「トイレか? 場所覚えてるか」
「……大丈夫」
妙に乾いた声だった。
そういえば水を飲もうとしてたんだった。
どこかぼんやりとした頭で思い出す。
「廊下暗いからついてってやろうか」
「……大丈夫だってば」
過保護なことを言うウィルに、笑おうとしたのに上手く笑えなかった。
変に表情が歪みそうになって、とっさに顔を伏せて歩き出す。
「水取りに行くだけよ。すぐ戻るわ」
「そうか。部屋に戻ったらちゃんと」
「わかってる。鍵かければいいんでしょ」
軽い調子で応えてさっさと階段へと向かう。
廊下が暗くて良かった。
こんな強張った顔は見られたくなかった。
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