【完結】追放令嬢は海賊生活を謳歌する

当麻リコ

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46.悪党

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制圧は速やかだった。


船員たちの何か言いたげな目線を黙殺し、ウィルのあとについて商船に乗り込んだ。

不思議な船だった。

大雨でびしょぬれになりながら侵入した商船は思っていたより小さく、こちらの海賊船よりも見劣りするものだった。
護衛艦もつけず、商会の宣伝になるような装飾もなく、不自然なほどに目立たない。
その上、消耗品や日用品などの一般的な商品ではなく、高価な美術品や宝石類が大量に積み込まれていた。

どうにも私の知る商船とは掛け離れているように思える。
どこか地味なその船は、まっとうな商船なのだろうかと疑問が沸いてくるほどだ。

まるで何かから隠れるみたいだ。

もちろん、海賊を警戒してあえてそうしているのかもしれない。
それでも違和感を拭い去ることは出来なかった。

ウィルは見たこともないような高圧的な態度でと威圧的な口調で略奪の口上を述べた。
商船の船長は抵抗らしい抵抗も見せずに屈し、すぐに降伏と恭順の意を示した。
一応船内には護衛らしき屈強な男が数人いたが、こちらの人数を見ると戦意を喪失したようだ。
武装してはいたが、真っ当な護衛官には見えなかった。
まるでそこらのゴロツキでも雇ったみたいだ。
どこか荒んだ雰囲気を持つその男たちは、船員を守る使命感のようなものが一切感じられなかった。
おかげで一度も戦闘にはならなかった。

小さな商会なら、節約を兼ねて護衛も船も費用をケチったのだと言われて納得できる。
だが、乗せている物の額が桁違いに高いのに、果たしてそんなことをするだろうか。
疑問は次々に沸いてきたが、誰も何も気にした様子はなかった。
そのことにも強い違和感を覚えた。

船内のめぼしいものをあらかた回収し、追跡できないようにか計器類を壊して自船に引き上げる。
港からそう遠くない場所らしいから、この時化を乗り越えればいずれどこかに辿り着けるだろう。

最初から最後まで迷いのない動きだった。
手慣れた手順なのだろう。

だが、食糧の類には一切手をつけなかった。

そうして誰一人殺さず、脅しつけるだけで全てを成し遂げたのだ。

そのことに少なからずホッとする。
思っていたよりずっとひどいことにはならなかった。

けれど何の罪もない人たちから財産を奪ったことは紛れもない事実だ。
おかしな商船ではあったが、だからと言って略奪されていい理由にはならない。

いくら人が好さそうに見えても、彼らはやはり悪人なのだ。
そのことを再度肝に銘じる必要があった。


ウィル達と一言も交わさぬまま、略奪の成果も確かめずにひとり部屋に戻る。
アランはついてきたそうな素振りを見せたが、目を合わせないようにしていたせいでやめたようだった。
罪悪感のようなものはあったが、今は一人になりたかった。

全身が濡れそぼっていて、髪からも服からも雨水が滴っていた。
ベッドに横になることも出来ずにぼんやりと立ち尽くす。

たった一時間ほどの出来事だ。
まだ昼食の時間にさえ遠い。
起こったことが現実だったのかさえ疑わしくなるほどの、スムーズな犯罪だった。

頭が上手く働かない。
それでも考える。

全て受け入れて自分も染まるべきか。
怖気づいて船から逃げ出すべきか。

後者を選んでも彼らはそれを許してくれる気はした。
それどころかきっと最寄りの港まで丁重に送り届けてくれて、その後は一切関与しないでくれるのだろう。

本当なら、そうすべきなのかもしれない。
海賊なんて今すぐやめて、一般市民としての暮らしを手に入れる。

今ならそれが出来るだろう。
彼らの配慮のおかげで、私はいまだに手を汚さない立場でいられているから。

もしかしたらそれはこういう日が来た時のために、彼らが守ってくれたものではないのだろうか。

そう気付いてぎゅっと手を握り締める。

少しは役に立てていると思っていたのは自惚れでしかなかったのだ。
私は今も守られるだけのお姫様でしかない。

廊下に気配を感じて顔を上げる。
ウィルだろうか。
いや、ウィルならば気配なんて感じさせずに入ってくる。
この足音はそう。

「レーナ。入るよ」

ノックの後で扉が開く。
テオが立っていた。
彼は心配そうな顔をしていた。
この表情はきっと演技なんかではないだろう。
それくらいは見抜ける。
見抜けると信じたかった。

「そのままだと風邪ひくよ」

大きなタオルを頭からかぶせて、優しく労わるように髪を拭いてくれる。
それなのに見上げる表情には、何を聞いても答えてくれないだろう頑なな意思が見えた。

「……説明はしてくれないのね」

諦めの感情を載せて言うと、テオが困ったように眉根を寄せた。

「ごめんね」

そう言ってタオルごと私の冷え切った身体を抱きしめた。

説明する必要も謝る理由もないのに律儀な人だ。
少しだけ笑って肩に頭を預ける。

だって海賊なのだ。
本来なら略奪なんて日常のことだろう。
それを私なんて異分子がいたせいで控えていただけ。

「……わかったわ」

すぐに引き下がったからか、テオは困った顔のまま私から離れた。

「ちゃんと拭いて着替えるんだよ」

優しくそう言って、彼は部屋を出ていった。

残された私は、言いつけを守って着替えをしてから、ベッドの上でじっと考え続けることしか出来なかった。
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