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48.今は何も知らないまま
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夕食の後片付けを終えて、シャワーを浴び部屋に戻る。
夜のストレッチをしていると、いつも通り気配もなくウィルが入ってきた。
「よう。調子はどうだ」
「まぁまぁね」
誤魔化すこともせず、やめることもせずストレッチを続けながら答える。
この程度ならまぁいいだろう。
「身体柔らけぇなおまえ」
「毎日やってるから。ウィルは硬いの?」
聞きたいことは沢山あったけど、ウィルがいつも通りだから私もいつも通りに接する。
テオやアラン達みたいな気遣いや様子伺いなんてみじんも感じない。
それが彼なりの優しさや気遣いだということももう知っている。
「普通じゃね? そんなにべったり床にくっつけるのは無理だ」
「ウィルも毎日やったら? 柔らかい方が怪我が減るわよ」
「……別に今もそんな大怪我するようなことはしねぇ」
「結構無茶な戦い方してるって聞いたけど。無茶したいなら柔軟ちゃんとした方がいいよ」
お節介なアドバイスを遠慮なく続ける。
怪我をしてほしくないのは本心だし、柔軟が大切なのも本当だ。
だけど今までこういう戦闘に関することを言ったことがないから、ウィルが戸惑っているのが面白い。
「これからも襲ったり襲われたりで大変でしょう? 少しでもリスク減らさないと」
「…………剣の腕なら毎日鍛えてる」
「腕力ばかり鍛えても限界がくるわ。体幹と柔軟は絶対やっておいた方がいい」
少し意地悪なことをしている自覚はある。
たぶん、商船の話題を避ける気満々できたのだろう。
そのことに触れなければ、私が何も聞かないであろうという予測の上で。
だけど直接的に質問するならまだしも、暗に示唆するようなことをチクチク言われるから、当てが外れて困っているのだろう。
「っだぁー! くそっ!」
根負けしたのか、ウィルが頭をガシガシ掻き毟ってドカッと椅子に腰を下ろした。
それを見て私もストレッチをやめベッドに座る。
ウィルがじっと私の目を見る。少し迷うような間があったあと、意を決したように口を開いた。
「……これからも商船を襲うことは、ある」
「そう」
短く答えると、ウィルが眉を顰めた。
「それだけか」
「それだけよ」
真っ直ぐ目を見返しながら言う。
真意を探るような視線だ。私の中の怯えや非難を読み取ろうとしているのかもしれない。
だけど残念ながら、もうそんなものはいくら探したってないのだ。
「またついていくから次からは隠さないでね」
「……ああ」
きっぱりした口調で言うと、意志が固いことを理解したのかウィルが苦々しい顔で頷いた。
「聞きたいことはそれだけか」
頷こうとしたが、ひとつだけ聞いておきたいことがあったので口にする。
「ああいう商船を襲うことに何か理由があるの」
答えてくれないだろうなと思いつつ、ダメもとで聞いてみる。
一般的に襲われやすいのは、売り払いやすい商材をたくさん乗せた船だ。ありふれているものだから、どこで売っても足が付きにくい。国によっては別の国の名産品を高く買い取ってくれる。その国にとって必要なものであれば、出所を調べられることはまずないだろう。
そういうのとは別の、どこか特殊な船。
美術品も貴金属類も、足が付きやすく、国を超えての罰則がある。
うまく売りさばくことが出来ればもちろん実入りはいいが、リスクが高すぎてそういう物に手を出す海賊は少ないのだ。
あの船には違和感がいくつもあった。
船の仕様。乗せている商品。乗組員の態度。それに護衛の男たち。
しかも行き当たりばったりに襲ったのではなく、少なくとも前日にはその船の情報をどこからかは知らないが入手していた。
「理由はある。だがおまえには言わない」
予想外の答えに面食らう。
そんなものない、襲いたかったから襲っただけだ。
そう言われても頷くつもりでいたから。
もちろん答えにはなっていないし、普通ならば到底納得できるものではない。
けれど変な言い訳もしない、誤魔化しもしない、開き直りのようなその返答に、むしろそれでいいやと思えた。
「そう。じゃあもう何も聞かない」
嘆息交じりに言う。
この話はこれでおしまいだ。
いつか信頼を勝ち取って教えてくれる日が来るかもしれないが、それは今ではない。
「……降りるか」
「なにから?」
脈絡なく、ウィルが問う。
思いつめた顔をしているように見えるが、本当のところはよく分からない。
「この船だ」
「なんでよ。降りないわよ」
びっくりして不機嫌に答える。なんでそんなことを聞かれなくてはいけないのだ。
意外そうな顔をされたって、降りる気なんてさらさらない。降りろと言われたって拒絶する。
彼らがどんな行為をしたって、もう嫌いにはなれないのだ。
三ヵ月一緒に暮らして、ずっと騙されていたのだとは思えない。
それに今日一日いつも通りに接して、改めて思った。
船長も船員も、根っからの悪人にはどうしても見えない。
商船を襲ったことへの言い訳を、誰一人してこないのに、それを出来ないでいることへの申し訳なさそうな顔や態度はありありと伝わった。
ウィルの言う通り、何か理由があるのだろう。
それだけ分かればもういい。
「海賊は犯罪者なんだぞ」
「言われなくても知ってるわ」
覚悟はもう決まった。
私はここで海賊として生きる。
そうしていつかちゃんと話してもらえるように努力をしよう。
「……変な女」
「ほっといて」
今度こそ本当の覚悟だ。
流されてではなく、これからは自分の意思で。
夜のストレッチをしていると、いつも通り気配もなくウィルが入ってきた。
「よう。調子はどうだ」
「まぁまぁね」
誤魔化すこともせず、やめることもせずストレッチを続けながら答える。
この程度ならまぁいいだろう。
「身体柔らけぇなおまえ」
「毎日やってるから。ウィルは硬いの?」
聞きたいことは沢山あったけど、ウィルがいつも通りだから私もいつも通りに接する。
テオやアラン達みたいな気遣いや様子伺いなんてみじんも感じない。
それが彼なりの優しさや気遣いだということももう知っている。
「普通じゃね? そんなにべったり床にくっつけるのは無理だ」
「ウィルも毎日やったら? 柔らかい方が怪我が減るわよ」
「……別に今もそんな大怪我するようなことはしねぇ」
「結構無茶な戦い方してるって聞いたけど。無茶したいなら柔軟ちゃんとした方がいいよ」
お節介なアドバイスを遠慮なく続ける。
怪我をしてほしくないのは本心だし、柔軟が大切なのも本当だ。
だけど今までこういう戦闘に関することを言ったことがないから、ウィルが戸惑っているのが面白い。
「これからも襲ったり襲われたりで大変でしょう? 少しでもリスク減らさないと」
「…………剣の腕なら毎日鍛えてる」
「腕力ばかり鍛えても限界がくるわ。体幹と柔軟は絶対やっておいた方がいい」
少し意地悪なことをしている自覚はある。
たぶん、商船の話題を避ける気満々できたのだろう。
そのことに触れなければ、私が何も聞かないであろうという予測の上で。
だけど直接的に質問するならまだしも、暗に示唆するようなことをチクチク言われるから、当てが外れて困っているのだろう。
「っだぁー! くそっ!」
根負けしたのか、ウィルが頭をガシガシ掻き毟ってドカッと椅子に腰を下ろした。
それを見て私もストレッチをやめベッドに座る。
ウィルがじっと私の目を見る。少し迷うような間があったあと、意を決したように口を開いた。
「……これからも商船を襲うことは、ある」
「そう」
短く答えると、ウィルが眉を顰めた。
「それだけか」
「それだけよ」
真っ直ぐ目を見返しながら言う。
真意を探るような視線だ。私の中の怯えや非難を読み取ろうとしているのかもしれない。
だけど残念ながら、もうそんなものはいくら探したってないのだ。
「またついていくから次からは隠さないでね」
「……ああ」
きっぱりした口調で言うと、意志が固いことを理解したのかウィルが苦々しい顔で頷いた。
「聞きたいことはそれだけか」
頷こうとしたが、ひとつだけ聞いておきたいことがあったので口にする。
「ああいう商船を襲うことに何か理由があるの」
答えてくれないだろうなと思いつつ、ダメもとで聞いてみる。
一般的に襲われやすいのは、売り払いやすい商材をたくさん乗せた船だ。ありふれているものだから、どこで売っても足が付きにくい。国によっては別の国の名産品を高く買い取ってくれる。その国にとって必要なものであれば、出所を調べられることはまずないだろう。
そういうのとは別の、どこか特殊な船。
美術品も貴金属類も、足が付きやすく、国を超えての罰則がある。
うまく売りさばくことが出来ればもちろん実入りはいいが、リスクが高すぎてそういう物に手を出す海賊は少ないのだ。
あの船には違和感がいくつもあった。
船の仕様。乗せている商品。乗組員の態度。それに護衛の男たち。
しかも行き当たりばったりに襲ったのではなく、少なくとも前日にはその船の情報をどこからかは知らないが入手していた。
「理由はある。だがおまえには言わない」
予想外の答えに面食らう。
そんなものない、襲いたかったから襲っただけだ。
そう言われても頷くつもりでいたから。
もちろん答えにはなっていないし、普通ならば到底納得できるものではない。
けれど変な言い訳もしない、誤魔化しもしない、開き直りのようなその返答に、むしろそれでいいやと思えた。
「そう。じゃあもう何も聞かない」
嘆息交じりに言う。
この話はこれでおしまいだ。
いつか信頼を勝ち取って教えてくれる日が来るかもしれないが、それは今ではない。
「……降りるか」
「なにから?」
脈絡なく、ウィルが問う。
思いつめた顔をしているように見えるが、本当のところはよく分からない。
「この船だ」
「なんでよ。降りないわよ」
びっくりして不機嫌に答える。なんでそんなことを聞かれなくてはいけないのだ。
意外そうな顔をされたって、降りる気なんてさらさらない。降りろと言われたって拒絶する。
彼らがどんな行為をしたって、もう嫌いにはなれないのだ。
三ヵ月一緒に暮らして、ずっと騙されていたのだとは思えない。
それに今日一日いつも通りに接して、改めて思った。
船長も船員も、根っからの悪人にはどうしても見えない。
商船を襲ったことへの言い訳を、誰一人してこないのに、それを出来ないでいることへの申し訳なさそうな顔や態度はありありと伝わった。
ウィルの言う通り、何か理由があるのだろう。
それだけ分かればもういい。
「海賊は犯罪者なんだぞ」
「言われなくても知ってるわ」
覚悟はもう決まった。
私はここで海賊として生きる。
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