【完結】追放令嬢は海賊生活を謳歌する

当麻リコ

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49.海軍来襲

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「おはようテオ」
「おはようレーナ、アラン」
「おはよ~」

朝の厨房で軽く挨拶を済ませる。アランはまだ眠そうで、語尾にあくびが混ざっていた。

「今日は頭どうする?」
「編み込みでお願いします」
「了解」
「ふふっ」

いつものやり取りに、それを眺めていたアランが嬉しそうに笑う。

「どうしたの?」
「いやぁ、レーナがいてくれて良かったなって」
「えへへありがとう。でもアランもすっかり料理上手になったじゃない」
「そうじゃなくってさ。なんかこう、いいなぁって」
「ええ? どういうこと?」
「あはは、なんかちょっとわかるな」

テオの同意に、アランが嬉しそうに「でしょ!」とかわいらしく小首を傾げながら言った。

「朝ってさ、前は起きるの面倒だったしごはんはまずいしで憂鬱だったんだけどさ。今はレーナがいてくれるから楽しい」
「ご飯も美味しいしね」
「やっぱり料理のことなんじゃない」
「いやもちろん朝だけじゃなくてさ。レーナがいるとこう、張り合いが出るっていうの?」
「船長が言ってた通りになったな」
「ウィルの?」
「ああ! 花を添えるってやつ⁉ なるほどな~。オレ、あん時はピンと来なかったけど今すっげーわかるかも」
「へ⁉ いやそれはさすがに……」
「ね。立派に福利厚生になってる」

二人にニコニコしながら言われて戸惑う。
そういえば一番最初にそんなこと言われていたっけ。すっかり忘れていた。だってそんな大層な役割、果たせていないし果たせとも言われていない。
化粧品もないし髪も傷む一方、身体つきだって相変わらず密かに鍛えているから豊かさの欠片もない。
服だって華美なドレスではなくただのワンピースだ。
しかも今着ているのなんて、もともと白だったものが褪せてアイボリーになったみたいな感じのだ。
これで花だの福利厚生だの言われても、なんだか恥ずかしくなってしまう。

「はい、出来たよ」

どう返せばいいか悩んでいると、テオがポンと後ろ頭を軽く叩いた。

「あ、ありがとう」
「だいぶ伸びたよね。今度少し切ろうか?」

確かに髪が伸びた。ここに来たときは背中の半ばくらいまでだったのが、今は腰の辺りまである。
貴族暮らしの時は、三ヵ月もあれば三回は髪を切りそろえられていた。
ここまで長いのは、二度の人生で初めてかもしれない。

「切るのも出来るの? ホント器用よねテオって」
「傷の縫合は無理だけどね」
「料理の味付けもね、いてっ」

変な謙遜をするテオに、アランがしたり顔で付け足して小突かれる。
ほのぼのした光景に思わず微笑む。

ああなるほど。アランが「なんかいい」って言っていたのはこういうことか。それならわかる。仲良しなやり取りって、見てる方も和むもんね。

すっきり納得して椅子から立ち上がる。

「よし! 今日も気合い入れて作ろう!」
「おー!」

両手で握りこぶしを作ると、アランが乗ってくれた。
テオはそれを見て笑いながら、「楽しみだ」と言った。

「テオは今日お昼から見張りだっけ?」
「うん」
「じゃあお弁当豪華にしておくね」
「あはは。ありがとう。じゃあエミリオには内緒にしておかないと」

二人一組の交代で当番が回ってくる見張りで、その相棒に内緒も何もないのだけどテオは茶目っ気たっぷりにそう言った。

「エミリオはこの前サボってたからパンだけにしようかしら」
「それがいい。一番硬くなってるやつにしといて」
「文句言ってきたらお頭に吊るしてもらおう」

三人で悪だくみしながら朝食を作る。
実際にそんな意地悪はしないけれど、どんな悪戯をしようか話し合うのは楽しかった。


朝食を終えて、他の細々した仕事を積極的にこなしていく。
船内の掃除を丁寧にやって、また食事の準備に取り掛かる。
見張り台で食べるようにテオに持たせた弁当は宣言通り豪華にして、エミリオの分はそれより一品だけ減らしたものを作った。きっとエミリオはそれを目敏く見つけてテオにうるさく言うのだろう。
それを想像してアランと笑い合う。

テオとエミリオの見張りコンビを除いて、昼食は賑やかに進んだ。

私の仕事なのに、みんな積極的に片づけを手伝ってくれる。
いつも通りのことだけど、いつも本当にありがたくて嬉しい。

腹ごしらえを済ませて、さぁ午後の仕事に取り掛かろうとしたとき。

それは始まった。


「敵襲です」

食堂に駆け込んできたテオに注目が集まる。
また命知らずな海賊が実力差もわからず攻めてきたのか。
これもまたいつものことだ。
負け知らずの海賊団は、それくらいのことでは動じない。
けれど。

「海軍です、船長」

続く言葉にピリリと空気が変わった。
一気に不穏な気配が満ちる。
皆一様に厳しい表情になっていた。
当然だ。だって海軍だ。
海賊船だということがバレれば、捕まって処刑される。
どこの国の海軍だろうとそれは一緒だ。

身元を偽装して、航海理由を捏造して、言い逃れられる確率はどれだけあるだろう。
口頭での確認だけで済めばいい。だが船内をあらためられたら。
船倉には、半月前にあの不審な商船から奪った物品が積み上げられている。
それが見つかればただちに捕縛されるだろう。
むしろ、あの商船からの訴えで派遣された軍隊なのではないか。
だとしたら口頭尋問などで済まされるはずがない。

どうすればいいのだろう。
海軍がどれほどの規模で来たのかは分からないが、この船は速い。
今から船を旋回さえて全速力で逃げれば、逃げ切ることが可能だろうか。

様々な不安が頭の中をグルグル回る。

ちらりとウィルに視線を移すと、物騒な光を目に宿した凶悪な顔をしていた。
それは危機感や焦燥感とはかけ離れた表情だった。

「……全員武器を持って甲板に出ろ」
「はいよ」
「腕が鳴るわー」
「どうして⁉」

ウィルのありえない言葉に、全員が躊躇なく頷く。
武器なんて持って対したら、敵意ありと見なされて言い逃れをする間もなく実力行使に出られてしまう。
そうなったらもうおしまいだ。
素人の小娘でもそれくらいわかる。
なのに周りを見渡せば、全員が戦意に満ちた顔をして食堂を飛び出していくところだった。

「なんでそんな馬鹿なことを、だって、みんな捕まっちゃう」

焦る私に、ウィルが片眉を上げて表情を緩めた。

「ばーか安心しろって。いつもの海賊相手とそう変わんねーよ」
「変わるわよ! だって海軍なんでしょ⁉」
「ああ。海軍だな」

言ってウィルがにやりと笑う。
海賊相手の時よりもよほど楽しそうに。

「おまえは絶対に出てくるなよ」

ポンと頭に手を置いて、獰猛な笑みを浮かべながら食堂を出ていく。
その背に並々ならぬ気迫を感じて言葉を失う。

「行こう、レーナ」

アランが言う。
声は硬かった。いつもと違う事態に、アランも緊張しているのが分かる。
だけどウィルを止めてはくれなかった。
誰も止めてくれない。まるで海軍と戦うのが当たり前みたいに。

不穏な予感に、胸騒ぎがおさまる気配はなかった。
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