【完結】追放令嬢は海賊生活を謳歌する

当麻リコ

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50.最悪の事態

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「絶対部屋から出ないで」
「ダメよアラン!」

私を部屋に押し込むようにして入れると、アランが甲板へと向かってしまう。

いつでもアランは私とここで待っていてくれたのに。
それだけでもう異常事態だ。

大人しく待っていられるわけもなく、すぐに部屋を出てアランのあとを追うように甲板への通路を急ぐ。
途中、何度も船が大きく揺れた。
容赦のない砲撃に、焦燥と疑問がとめどなく頭の中を溢れる。
停船命令もなく、誰何もなく、いきなりの攻撃なんてありえないはずだ。
私が産まれた国だけではない。
海に面したどの国も、まずは国籍と運航目的を尋ね、身分を確かめ、許可証などの書類を確かめる。
それで怪しいところがあれば尋問されて、しかるべき手順を踏んで拘束、連行の流れとなるのに。

かなり乱暴なやり方だ。
これは本当に海軍なのだろうか。
海軍を騙った新手の海賊なのではないか。

そんな馬鹿なことを思ってしまうくらいに、私の知る海軍の行動とはかけ離れていた。

甲板に繋がる扉の前に身を顰め、息を殺して外の様子を窺う。

「来るぞ! 全員配置に着け!」

怒声のようなウィルの指示が聞こえてびくりと肩が竦む。
船員たちが硬い声で応え、互いに声を掛け合っている。

そっと扉を開け、隙間から覗き見る。
思わず息を呑む。
ちょうど海軍の船が接舷し、移乗攻撃を仕掛けてくるところだった。

こちらの倍はいるだろうか。
軍服に身を包んだ男たち数十人が、不安定な足場をものともせずに乗り込んでくる。

向こうの船に残った男が片手を上げた。
おそらくあの船の指揮官なのだろう。

その男が口を開いた。緊張が走る。

「皆殺しにしろ!」

憎しみさえ感じる声だった。
やはりおかしい。
なんの前口上もなく皆殺し?
これでは正義もなにもあったものではない。
こちらが何者かも確かめず殺せなんて、これではただの虐殺行為だ。

「やれるもんならやってみやがれ」

フンと鼻で笑って、ウィルが不敵に笑う。
何故こうも落ち着いていられるのか。
何故理由を問わずにいられるのか。

まるでこれが自分たちに対する正当な扱いだとでもいうように。

「行くぞ野郎ども!」

扉越しにもビリビリと振動が伝わるほどの大音声に身体が震える。

「おう!」

呼応するように船員達も地響きのようなドスをきかせた声を上げる。

甲板は一気に戦場と化した。

激しい胸騒ぎに、扉に触れている手が震えた。
人数差はいつもの海賊相手では話にもならない程度のものだ。
けれど今回は相手があまりにも悪い。

近くで制服を見てすぐに分かった。
あれは私の母国の海軍だ。

国土の半分が海に面しているせいか、海軍の強さは近隣の国の中で随一だった。
それを思うと皆かなり善戦してはいると言っていいだろう。
それでもそこらの木っ端海賊とは違う、統率の取れた動きに、数の多さに苦戦しているのが明らかだった。

ウィルもよく立ち回ってはいるが、数人を相手に旗色が悪そうだ。

戦闘は激化していく一方だ。
倒す数よりは少ないが、仲間が一人また一人と傷付き動けなくなっていく。

ドキンドキンと心臓の音がうるさい。
呼吸が浅くなって、口の中がカラカラだ。

堪えきれず細く開けた扉をもう少し開いた瞬間、

「女がいるぞ!」
「きゃあっ!」

声と共に扉が勢いよく開き、三つ編みになっている髪を思い切り掴み上げられる。
強引に甲板へと引きずり出され、血の気が引く。

最悪の事態になったのは明らかだった。
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