【完結】追放令嬢は海賊生活を謳歌する

当麻リコ

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53.すっきりさっぱり

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一通り片づけと手当てを終える頃にはもう月が輝き始めていた。
今日の功労者ということで、一番風呂特権をもらい着替えをもってシャワー室へと向かう。

身体中に浴びた血はパリパリに乾いて、赤黒く染まったワンピースはもう着れそうにない。
頭から水を被って、血を洗い流す。
固まった毛先をほぐすために髪に指を通そうとして、短くなってしまったことを思い出す。
長さはバラバラで、無造作ヘアにもほどがある。
あまりのひどさに笑いがこみ上げてきた。
こんなに短いのは、子供の頃に勝手に切って死ぬほど叱られて以来初めてだ。
母があんなにこだわっていた私の髪は、いまや見る影もない。
なんとなくそのままにしていたが、いざなくなると惜しむ気持ちどころかむしろすっきりしてしまった。
まるで過去ごと断ち切ってしまったかのようだ。


水が透明になったのを見て温度を上げる。
身体も頭も冷え切っていた。
じわじわと体温が戻って、ホッと息を吐く。

手早く全身を洗ってシャワーを終えた。
早く出なければ後がつかえてしまう。
乾いた服に着替えて通路へ出る。


「テオ!」

ちょうど後ろ姿を見つけて声を掛けると、テオが振り返り足を止めてくれた。

「レーナ。今日は本当にお疲れ様。さっぱりしたかい?」
「おかげさまで。あの、いま大丈夫? もし良かったら髪の毛どうにかするのを手伝ってほしいんだけど……」
「もちろん喜んで。切るなら甲板行こうか」

テオに促され、ハサミを持って甲板に出る。

血はほとんど洗い流されていたが、砲弾で開いた穴や剣戟による損傷など、そこかしこに戦いの爪痕は残っていた。
補修作業で残っていた船員たちが、私たちに気付いて寄ってくる。

「レーナ。今他のやつらが晩飯の用意してるから」
「今日はもうゆっくりしてな」
「あとはメシ食って酒飲んで楽しもうぜ!」
「ええ、でも私も髪やってもらったら手伝いに行くよ」
「いいんだって。レーナのおかげでみんな生きてんだからよ」
「それはさすがに言い過ぎ。けど、足を引っ張らなくて済んで本当によかったわ」
「いや全然言いすぎじゃないと思うけど」
「むしろ最初に迷惑かけちゃってごめんね……」
「まぁさすがにレーナが引き摺りだされたときは肝が冷えたわ……」
「あの野郎レーナの髪引っ張りやがって」
「本当に。せっかく綺麗な髪だったのに」

言いながらテオが私の短くなった髪先に残念そうに触れる。
いつも私の髪をやってくれていたから、それなりに愛着を持ってくれていたのかもしれない。

「ごめんね……せっかく髪飾り買ってくれたのに」
「それはいいんだ。短くてもアレンジ次第で使えるし。レーナは悪くない」
「ホント⁉ まだ使えるの⁉ 良かったぁ!」

ごそごそとポケットから髪飾りを取り出す。
斬り落とした髪からしっかり回収しておいて良かった。

「見て、全然傷付かなかったの。気に入っていたから本当に良かった」
「……うん。それじゃあ、一番短いところに合わせて切るけど、アレンジしやすい髪型にしてみようか」
「ありがとう!」

明かりの下に座らされ、即席の青空美容室が開催される。
青空といってももう夜なのだけど、明かりが足りないわりにテオの手際はよく、迷いなくハサミが入れられていく。
正面に鏡があるわけではないから定かではないが、美容師と比べても遜色ないような気がする。

「テオは切るのも上手なのね。どうしてそんなにいろいろ出来るの?」
「昔取った杵柄ってやつかな」

感心しながら問うと、テオが手を止めずに機嫌よく答えた。

「昔? もしかして美容師さんだったとか?」
「まぁ、そんなとこ」

テオがさらりと答えると、カットを見物していた船員達から笑いが漏れる。

「一番得意なのは丸刈りだよな」
「主にエミリオのな」
「あいつの頭の形はもう見なくても描ける」

ため息交じりのテオに、周りがゲラゲラと笑い声をあげた。
もしかしたらエミリオはサボりで船首に吊るされる以外の罰を受けまくっているのだろうか。
ともかく、あまり楽しい話ではなさそうだ。
深くは追及しないことにしよう。

「……よし、こんなもんかな」

シャキ、と最後に一切りして私の正面からじっとバランスを見る。
ケープ代わりの古布を取り払い、顔に付いた毛を払ってくれたあとで満足そうにうなずいた。

「うん。かわいい」
「かわいい」
「似合う」
「最高」
「さすが女神」

テオが言った後で、囃し立てるようにみんなが続ける。
どう聞いてもからかわれているだけなのだが、慣れないせいで恥ずかしい。
頬が熱くなるのを、隠すように手で覆うとみんながニヤニヤと笑いだす。

「レーナ、髪飾り今ある?」
「う、うん!」
「じゃあもうちょっと時間ちょうだい」

そういって、前髪をざっくりした編み込みにして耳のうしろ辺りで髪飾りを留めた。

「ほら、こうすればもっとかわいくなった」
「超かわいい」
「ばっちりかわいい」
「死ぬほどかわいい」
「もうやめて!」

耐えきれずに叫ぶと、みんながドッと笑った。
まったく、悪乗りさせたら世界一だ。

赤い顔でむくれる私に、テオが「本心だよ」とすかさずフォローを入れてくれる。
彼は本当に紳士だ。
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