【完結】追放令嬢は海賊生活を謳歌する

当麻リコ

文字の大きさ
54 / 91

54.船上パーティー

しおりを挟む
綺麗に切りそろえられた髪に満足して立ち上がる。

「ありがとうテオ。動きやすくなったわ」
「良かった。長いのも似合ってたけど短いのもいいね」
「テオったらなんでも褒めてくれそう」

褒め上手ね、と笑うとテオが苦笑した。

「晩御飯の準備、やっぱり手伝ってくるね」
「そう? じゃあ俺も行こうかな」
「レーナ真面目だなぁ」
「エミリオにも見習ってほしいわ」
「つうかエミリオどこ行った」
「またサボってるに決まってんだろ」

エミリオの文句を言いながらみんなも自分の持ち場に戻っていく。
テオと厨房に向かおうとすると、前触れなく扉が開いて反射的に飛び退る。

「あっ、ごめん!」
「いいよ。いい反応速度だ」

後ろにいたテオにぶつかってしまったが、テオは文句も言わず笑って私の身体を受け止めてくれた。

「わぁ! ごめんレーナ! うわっ! すごいかわいい! 似合ってる!!」

大量の荷物を抱えたアランが、船内から飛び出してくるなり勢い込んでそんなことを言う。
キラキラした顔が眩しくて思わず目を細めてしまった。

「ありがとアラン、なんかすごい荷物だね?」
「これ全部ごはん! ていうかツマミ!」

テンション高く言って、積み重なる箱をドカッと床に置いた。

「オラどけアラン邪魔だ!」
「わっ!」

アランの身体を押しのけるようにしてうしろからウィルが出てくる。
こちらも荷物が大量で、主に酒瓶を抱えていた。

あとから続く他の船員達も、皆両手に食べ物やら食器やらを持ってきて、甲板はあっという間にピクニック会場のようになってしまった。

おしゃれなテーブルや椅子もなく、レジャーシートなんてものももちろんない。
それどころか甲板は今やあちこちの板がはがれてボロボロだ。
それでも誰も気にせず中央に集まって、地べたに座り祝勝会という名の宴会が始まる。

あと半月は航海する予定の食糧のうち半分はありそうだ。

「こんなに食べちゃって大丈夫なの?」

心配になって問うと、隣に座ったアランがニコッと笑った。

「今回の損傷が激しかったから進路変えるってさ」
「どこに?」
「海賊船でも修理してくれるところ。それに闇医者がわんさかいる」
「なんか明らかに怪しい場所ね……?」
「海賊しか入れない健全な島だよ」

いつの間にか逆隣に座っていたエミリオが得意げに言う。
全く健全ではないと思うが、それはそれとして今までどこでサボっていたのだろう。

「ここから一週間もしないで行けるんだ。だから今日は食糧大放出」
「酒もな」
「シャルロ様の許可が出たからな」
「あいつ切り詰めすぎなんだよいつも」
「節約家ってよりケチなんだよ、ケチ」
「聞こえてるぞ」
「ごめんなさい!」

近くにいた船員たちが口々に文句を言って、少し離れたところで飲んでいたシャルロに睨まれて一斉に口を噤んだ。
みんなシャルロには弱いらしい。
怒らせたら食事抜きになったりするからだろう。
確かにシャルロはかなりの倹約家だ。
船員たちが無事に航海できるようにという配慮ももちろんあるが、元々の気質もあると思っている。
でもそのシャルロが大丈夫と判断したのなら本当に大丈夫なのだろう。
だから安心して食事とお酒に手を付けることにした。

あまり強くないということは自覚していたが、気分が高揚しているのかペースが速くなる。
ほわほわと身体が温かくなって、楽しい気持ちだ。

食事もアランがメインで作ったらしく、簡単なものではあったが全体的においしい。
たまに誰が作ったのかひどいのも混じっていたが、それもまた話のタネになった。


月が高く昇って、酔いも回り始めたころ。
どこからか音楽が聞こえて視線を上げる。
怪我の少ない何人かが、いつの間にか楽器を手にして好きなように演奏を始めたところだった。
どこにしまっていたのか分からないが、それを操る手の的確さに驚いた。
ヴァイオリンにトランペット、アコーディオン。
そのバランスがどうなのかは私にはわからないが、腕はなかなかのようだ。
それに合わせて歌いだす者までいる。

「みんな上手なのね」

感心して呟くと、「俺も怪我してなきゃ聴かせてあげられたんだけどねぇ~」とほぼ無傷のエミリオが上機嫌で言った。

「エミリオも何か楽器出来るの?」
「え、カスタネットとか」
「阿呆」
「ワイアットは?」
「私は何も」
「フルートとか似合いそうなのに……アランは何か出来る?」
「オレは出来ないけど父さんはサックス吹けるよ!」
「へぇ!」

アランがまるで自分のことのようにミゲルのスキルを誇らしげに言う。

「聴いてみたいなぁ」
「オレも。でも船にサックスないんだよね」
「そっか残念……」

それにしても意外だ。
筋肉のしっかりついた体格のいいミゲルが楽器を奏でるなんて。
今演奏している彼らもそうだが、見るからに体育会系で血の気の多い武闘派の男たちが、楽器を弾きこなすというギャップがなんとも言えず魅力的に思える。

一体いつ頃、どんな経緯で覚えたのだろうか。
気にはなったが、なんとなく聞き出す気にはなれなかった。

テオの過去を少しだけ知って、みんなの演奏や歌を聞いて、今更ながらにそれぞれに過去があるのだと思い至る。
私の過去を聞かないでいてくれたのは、彼らも聞かれたくない過去があるからだろう。

「一曲いかがですかお嬢さん」

考え込みそうになった私の前に立ち、右手を差し出しながらアルフレッドが言う。
ダンスの誘いだろうか。
月に照らされたその立ち姿は、まるでどこぞの貴族のようだ。

酔った頭でぼんやりそんなことを思う。

ちょうどゆったりした曲が流れ始めていた。
私の好きな曲だ。

「喜んで」

だから微笑んでアルフレッドの手を取り立ち上がった。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。

秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。 「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」 第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。 着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。 「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。 行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。 「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」 「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」 氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。 一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。 慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。 しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。 「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」 これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。

鉄壁騎士様は奥様が好きすぎる~彼の素顔は元聖女候補のガチファンでした~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
令嬢エミリアは、王太子の花嫁選び━━通称聖女選びに敗れた後、家族の勧めにより王立騎士団長ヴァルタと結婚することとなる。しかし、エミリアは無愛想でどこか冷たい彼のことが苦手であった。結婚後の初夜も呆気なく終わってしまう。 ヴァルタは仕事面では優秀であるものの、縁談を断り続けていたが故、陰で''鉄壁''と呼ばれ女嫌いとすら噂されていた。 しかし彼は、戦争の最中エミリアに助けられており、再会すべく彼女を探していた不器用なただの追っかけだったのだ。内心気にかけていた存在である''彼''がヴァルタだと知り、エミリアは彼との再会を喜ぶ。 そして互いに想いが通じ合った二人は、''三度目''の夜を共にするのだった……。

グリモワールの塔の公爵様【18歳Ver】

屋月 トム伽
恋愛
18歳になり、結婚が近いと思われたプリムローズは、久しぶりに王都の邸にいる婚約者に会いに行っていた。 だけど、義姉クレアと婚約者ジャンのベッドインを目撃してしまい、婚約破棄されてしまったプリムローズ。 プレスコット伯爵家から追い出すための名目で、金持ちの子爵様に売られるも同然の後妻に入ることになったプリムローズ。 そんなある日、夜会で出会ったクライド・レイヴンクロフト次期公爵様から結婚をもうしこまれる。 しかし、クライドにはすでに親の決めた婚約者がおり、第2夫人でいいなら……と、言われる。 後妻に入るよりは、第2夫人のほうがマシかもとか思っていると、約束だ、と頬にキスをされた。 「必ず迎え入れる」と約束をしたのだ。 でも、クライドとのデートの日にプリムローズは来なかった。 約束をすっぽかされたと思ったクライドは、その日から一向にプリムローズと会うことはなかった。 時折出す手紙のやり取り。プリムローズがどうしたいのかわからないクライドは困惑していた。 そして、プレスコット家での現状を知り、クライドはプリムローズをプレスコット伯爵邸から連れ出し、グリモワールの塔に連れて行き……。 最初は、形だけの結婚のつもりかと思っていたのに、公爵様はひどく甘く、独占欲の固まりだった。 ※以前投稿してました作品を【18歳Ver】に書き直したものです。

【完結】王子から婚約解消されましたが、次期公爵様と婚約して、みんなから溺愛されています

金峯蓮華
恋愛
 ヴィオレッタは幼い頃から婚約していた第2王子から真実の愛を見つけたと言って、婚約を解消された。  大嫌いな第2王子と結婚しなくていいとバンザイ三唱していたら、今度は年の離れた。筆頭公爵家の嫡男と婚約させられた。  のんびり過ごしたかったけど、公爵夫妻と両親は仲良しだし、ヴィオレッタのことも可愛がってくれている。まぁいいかと婚約者生活を過ごしていた。  ヴィオレッタは婚約者がプチヤンデレなことには全く気がついてなかった。  そんな天然気味のヴィオレッタとヴィオレッタ命のプチヤンデレユリウスの緩い恋の物語です。  ゆるふわな設定です。  暢気な主人公がハイスペプチヤンデレ男子に溺愛されます。  R15は保険です。

「俺にしがみつくのはやめろ」と言われて恋が覚めたので、しがみつかずにリリースします。相容れないとほざくあなたは、今、私に捨てられましたわ

西野歌夏
恋愛
前世でフラれた記憶を思いだしたフローラ・ガトバンは、18歳の伯爵令嬢だ。今まさにデジャブのように同じ光景を見ていた。 エイトレンスのアルベルト王太子にまつわるストーリーです。 ※の付いたタイトルは、あからさまな性的表現を含みます。苦手な方はお気をつけていただければと思います。 2025.5.29 完結いたしました。

処理中です...