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60.駆け引きスキルゼロ
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船を修理して島に停泊している間、ウィルからはずっと違う女性の匂いがしている。
前は平気だったのに、恋心を自覚している今は耐えられなかった。
ラナとは最初の一夜だけだったらしく、せめて彼女だったらと思ってしまうのも嫌だった。
女として完全に負けているから。彼女に参っているというのなら納得できるから。
そういう次元の話ではないのに、そう思うことで自分を慰められたのに。
それさえもさせてくれないのだ。
もう一週間が経つが、今回の停泊期間は修理が大掛かりなせいでまだ長い。
船の中ではないせいか、夜の逢瀬は減っていた。
私自身、意識してウィルと距離を取るようにしているのもあって、顔を合わせる時間自体が少なくなっていた。
外に出れば嫌でもウィルと女性たちが一緒にいるのを目にするから、必然的に部屋に閉じこもることが多くなる。
たまにラナが訪ねてきて、髪や肌のお手入れアイテムをくれて話をしてくれるのがせめてもの救いだ。
何故かラナにはウィルが好きだということが一瞬でバレていて、恥ずかしかったが冷やかされたり無謀だと諭されることはなかった。
それどころか「あんた可愛いんだからイケると思うよ」なんて気を遣われる始末で、逆に居た堪れない気分になったりもした。
そうやって逃げ続けて、一週間まともに顔を合わせていなかったから。
「よう。元気か」
心配してくれたらしいウィルが、夜に宿の部屋を訪ねてきた。
嬉しい反面、こうやって気を引いてここに来るように仕向けた気がして、自分の浅ましさに嫌悪感が募る。
貴族生活をしていた頃はこういう手練手管を自慢げに披露する女性が多かった。
そんな話には興味がなかったはずなのに、無意識にそれを実践してしまっていたのかもしれない。
「元気よ。ウィルも元気そう」
「まーな。あんま外出てねぇみたいだがこの島は退屈か?」
「ううん。刺激的で楽しいわ。ラナもよくしてくれるし」
「ずいぶん気に入られてんなぁ。あいつ押し強ぇから迷惑だったらちゃんと言えよ」
「迷惑だなんて。いろいろ美容に役立つ知識教えてもらったりしてありがたいよ」
「ふぅん? そういや肌ツヤが良くなったか」
そう言っていつもの距離から私の頬に手を伸ばす。
ふわりと化粧品の香りが漂って、反射的に身体を強張らせる。
ウィルの手が私に触れる寸前でぴたりと止まった。
「……悪い、つい」
「あ、ち、違うの!」
ウィルが手を引こうとするのを慌てて掴んで止める。
触られるのを嫌がったわけではない。むしろ触れてほしいくらいだ。
この一週間どんなに避けたって、どんなに目を逸らしたって、会いたい気持ちは強くなる一方だった。
自分で選んだことなのに、ウィルと話せないのが寂しくて仕方なかった。
ウィルは少し困った顔をしている。
私の支離滅裂な行動に戸惑っているのだろう。
私だって自分の突飛な行動に混乱している。
どうしたらいいのかわからない。
でもこのまま固まっているよりはと、思い切って掴んだままのその手の平に頬をくっつけた。
「……どう? 少しはマシになってる?」
すり、と猫のように擦り付けウィルを見ると、予想外だったのかウィルの表情が固まっていた。
それを見て私も固まる。
自分から触るのは躊躇ないくせに、人に触らせられるのは慣れていないらしい。
そりゃそうだろう。こんな馬鹿なことをする女、ウィルの周りにはいないだろうから。
完全にやらかした。
これじゃあまた痴女扱いされてしまう。
内心パニック寸前でいると、するりとウィルの指が動いた。
「わっ、……う、」
「……うん。悪くねぇ」
「そ、そう? 髪もほら、」
なんとか会話が繋がったことにホッとして、これ以上変な間が生まれないように焦って続ける。
ウィルは髪にこだわりがあるみたいだから、短くなっても髪質が良くなれば多少は喜んでくれるかもしれない。
そんな期待も込めて少し俯きながら言った。
久しぶりにきちんと会話をするから、舞い上がっている自覚はあった。
そう、自覚はあったのだ。
なのに私は気を引き締めるということを怠ってしまった。
前は平気だったのに、恋心を自覚している今は耐えられなかった。
ラナとは最初の一夜だけだったらしく、せめて彼女だったらと思ってしまうのも嫌だった。
女として完全に負けているから。彼女に参っているというのなら納得できるから。
そういう次元の話ではないのに、そう思うことで自分を慰められたのに。
それさえもさせてくれないのだ。
もう一週間が経つが、今回の停泊期間は修理が大掛かりなせいでまだ長い。
船の中ではないせいか、夜の逢瀬は減っていた。
私自身、意識してウィルと距離を取るようにしているのもあって、顔を合わせる時間自体が少なくなっていた。
外に出れば嫌でもウィルと女性たちが一緒にいるのを目にするから、必然的に部屋に閉じこもることが多くなる。
たまにラナが訪ねてきて、髪や肌のお手入れアイテムをくれて話をしてくれるのがせめてもの救いだ。
何故かラナにはウィルが好きだということが一瞬でバレていて、恥ずかしかったが冷やかされたり無謀だと諭されることはなかった。
それどころか「あんた可愛いんだからイケると思うよ」なんて気を遣われる始末で、逆に居た堪れない気分になったりもした。
そうやって逃げ続けて、一週間まともに顔を合わせていなかったから。
「よう。元気か」
心配してくれたらしいウィルが、夜に宿の部屋を訪ねてきた。
嬉しい反面、こうやって気を引いてここに来るように仕向けた気がして、自分の浅ましさに嫌悪感が募る。
貴族生活をしていた頃はこういう手練手管を自慢げに披露する女性が多かった。
そんな話には興味がなかったはずなのに、無意識にそれを実践してしまっていたのかもしれない。
「元気よ。ウィルも元気そう」
「まーな。あんま外出てねぇみたいだがこの島は退屈か?」
「ううん。刺激的で楽しいわ。ラナもよくしてくれるし」
「ずいぶん気に入られてんなぁ。あいつ押し強ぇから迷惑だったらちゃんと言えよ」
「迷惑だなんて。いろいろ美容に役立つ知識教えてもらったりしてありがたいよ」
「ふぅん? そういや肌ツヤが良くなったか」
そう言っていつもの距離から私の頬に手を伸ばす。
ふわりと化粧品の香りが漂って、反射的に身体を強張らせる。
ウィルの手が私に触れる寸前でぴたりと止まった。
「……悪い、つい」
「あ、ち、違うの!」
ウィルが手を引こうとするのを慌てて掴んで止める。
触られるのを嫌がったわけではない。むしろ触れてほしいくらいだ。
この一週間どんなに避けたって、どんなに目を逸らしたって、会いたい気持ちは強くなる一方だった。
自分で選んだことなのに、ウィルと話せないのが寂しくて仕方なかった。
ウィルは少し困った顔をしている。
私の支離滅裂な行動に戸惑っているのだろう。
私だって自分の突飛な行動に混乱している。
どうしたらいいのかわからない。
でもこのまま固まっているよりはと、思い切って掴んだままのその手の平に頬をくっつけた。
「……どう? 少しはマシになってる?」
すり、と猫のように擦り付けウィルを見ると、予想外だったのかウィルの表情が固まっていた。
それを見て私も固まる。
自分から触るのは躊躇ないくせに、人に触らせられるのは慣れていないらしい。
そりゃそうだろう。こんな馬鹿なことをする女、ウィルの周りにはいないだろうから。
完全にやらかした。
これじゃあまた痴女扱いされてしまう。
内心パニック寸前でいると、するりとウィルの指が動いた。
「わっ、……う、」
「……うん。悪くねぇ」
「そ、そう? 髪もほら、」
なんとか会話が繋がったことにホッとして、これ以上変な間が生まれないように焦って続ける。
ウィルは髪にこだわりがあるみたいだから、短くなっても髪質が良くなれば多少は喜んでくれるかもしれない。
そんな期待も込めて少し俯きながら言った。
久しぶりにきちんと会話をするから、舞い上がっている自覚はあった。
そう、自覚はあったのだ。
なのに私は気を引き締めるということを怠ってしまった。
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