【完結】ヒロインの女が死ぬほど嫌いなので悪役令嬢を全うします

当麻リコ

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「うわ出た」
「いつもどっから湧いてくるのこの子」
「あのポーズって何か意味あるのかな」
「小動物感を出して男どもの庇護欲をそそるために必要なのよ」

露骨に嫌な顔をする私達に構いもせずに、エステルはトリスタンの元に走り寄る。
それからトリスタンの袖をついと掴んで、上目遣い全開でトリスタンを慰め始めた。

「俺やっぱめっちゃ似てたね?」
「一瞬あんたが言ったのかと思ったわ」

二人の世界を作るエステルたちに冷めた視線を送りつつ、ヨシュアと笑い合う。
それが気に食わなかったのか、エステルが涙目のままキッと睨んで来た。

「これ以上トリスタンを傷付けないでください! 彼はずっと悩んでたんですぅ!」
「今日の夕飯何かなとか、そういう悩み?」

何せ脳味噌の容量が少ない男だ。
さぞ底の浅い悩みだったに違いない。

「違いますぅ! イルゼさんが冷たいからいつか見返してやりたいって!」
「その手段があの茶番劇ですの?」
「茶番劇だなんてひどぉい!」
「ひどぉい!」

物真似のコツを掴もうとしているのか、ヨシュアが小声で繰り返す。
笑うからやめてほしい。ポーズまで真似するな。

「トリスタンはイルゼさんに見下されるような人じゃないんです! こんなに素晴らしい方なのに!」
「エステル……!」

全力で無根拠に肯定してくれるエステルを見て、トリスタンが感極まったように呟いた。
素晴らしいのは肩書と外側だけで、中身はスカスカの麩菓子なんだけど。

「公衆の面前で婚約破棄を言い渡すのが、素晴らしいお方のされることですか?」
「うっ、そ、それは……」

トリスタンが馬鹿正直に怯む。
今日までに散々父親にお説教されたことだろう。目立つことはするなと。

今だって学校の廊下だ。好奇の目はあちこちから向けられている。
エステルの声のボリュームが無駄に大きいせいで、物見高い生徒はわざわざ遠くから寄ってきて見物している始末だ。

もちろんエステルは注目を集めることを目的としてやっているのだろう。
自分に向く視線が増えるほど悲劇のヒロインぶりに熱が入る仕組みだ。

「そもそも婚約者のある身でありながら他の女性と二人きりでお悩み相談とは、信義に悖る行為ではなくて?」
「べっ、別にやましいものでは……」
「そちらの杜撰な捏造証拠とは違ってこちらにはきちんと証人がおります。随分親密な雰囲気だったそうではないですか」

うっすら微笑みながら言うと、トリスタンとエステルが同時にたじろいだ。

なるほど。今のこの顔が悪人面というわけね。
気付いて確認のためヨシュアを見ると、「最高です」と囁いて深く頷いた。
何かが彼の琴線に触れるらしい。

「ただお友達としてお話しをしていただけですぅ! どぉしてそんな言い方するんですかぁ!?」
「指を絡めて見つめ合うお友達とは? 肩に頭を乗せてどんなお話を?」
「なっ、ど、どうしてそれをっ」

淡々と事実を話すと、トリスタンが明らかに動揺した。
目撃証言なんて、せいぜい誰もいない教室で二人きりでいたとかその程度だと思っていたのだろう。

まさかわざわざ知り合いの目を避けて遠出した先での密会を、偶然親戚の家に行っていた生徒に見られていたなんて、考えもしなかったに違いない。

「人違いだもんっ! 私、教会跡になんて行ってないもん!」
「そそそうだ! メーアティスになど誰が!」

いやお似合いの馬鹿。
語るに落ちるとはこのことか。

「お嬢、この二人と話してると自分たちまで馬鹿になってくる気しない?」
「する。早急に離脱したいわ」

こいつら相手にする価値って本当にあるのかしら。

やる気の萎えかけた私の肩を、慰めるようにヨシュアの手がポンと叩いた。
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