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注目を集めてエステルが目を泳がせる。
まさか一つも思いつかないとは言わないわよね?
プレッシャーをかけるように可愛いお顔を下から覗き込むようにすると、エステルの頬がひくりと引き攣った。
「……たっ、たくさんあります! 優しいですし、男らしいお顔も素敵ですし、家柄も立派だし、お友達が多いところとか、……えっと、だからそのとっても優しいです!」
やばい、予想以上に浅かった。
リアクションとりづらいぞこれ。
「とにかくっ、トリスタンはそこにいるだけで私を幸せにしてくれるんですぅ!」
「エステル……!」
勢いで誤魔化す気満々のエステルに、トリスタンが感激の目を向ける。
どうやら私には理解出来ない何かが心に響いてしまったらしい。
「僕もエステルの優しさと愛らしさに心を動かされたんだ。そうだ、そうなんだよ。イルゼとは合わないとずっと思っていた。いつも僕を馬鹿にした目で見るし。それに比べてエステルは何をしても褒めてくれる。僕が求めていたのは彼女だったんだ!」
気力を取り戻したのか、トリスタンが憤然と言う。
「え、あんなのでいいんだ」
「何しても褒められるって三歳児までよね」
「でもなんか立ち直ったみたいだよ」
「三歳児だから単純なのよ」
手を取り見つめ合い盛り上がる二人をよそに、白けた顔でヨシュアと囁きを交わす。
「わかってくれて嬉しいわトリスタン!」
「やはり僕にはキミしかいない。最初から解っていた。エステル、僕と付き合ってくれるかい?」
「ああトリスタン……! いつかこんな日が来るって信じてたわ」
ひしっと抱き合って涙をこぼす。
このまま放っておいたら突然歌いだしてミュージカルが始まってしまうのではないか。
自分に酔っている人種ってめんどくさい。
真顔で眺めていると、妙にキリッとした顔でトリスタンがこちらを見た。
「――イルゼ。キミには申し訳ないが、婚約は破棄させてもらう。僕は真実の愛を見つけてしまったんだ」
「いやだからもう破棄してるんだっつの」
こいつのこういうところが大嫌いだ。
改めて思った瞬間、これまでのこいつとの忍耐の日々が思い出されて切れそうになる。
「お嬢」
思わず地が出てヨシュアにつつかれる。
いけないいけない。私ってば貴族の御令嬢だった。
慌てて上品な笑みを貼り付ける。
「もういいの。気にしないで。私は全然本当に全く大丈夫だから。あなた達ってとっっってもお似合いだもの。私なんかが入り込む余地はないわ。気に病む必要は1ミリもないから。私のことなんて忘れて愛に生きるといいわ。本当に。綺麗に忘れて、二度と私に関わらないで」
掛け値ない本音に思わず力が入ってしまう。
二人がくっつけばこの先私が煩わされることはないだろう。
姑に当たるこいつの母親に、目の前でいびられまくっても一切庇ってくれなかったこと。
必死の努力で実家を立て直せてきたと報告したときに「顔がいい女は得だよね」と笑顔で言い放ったこと。
勉強も当主教育もサボって遊び歩くのをそれとなく注意して「何もしなくても当主になれるのになんで?」と心底不思議そうに言われた時に、私はこいつを諦めた。
そんな日々がもう終わるのだ。
「どうぞお幸せに」
会心の笑みを浮かべて心から彼らの幸せを願う。
それから優雅に礼をして、その場を後にした。
これで後顧の憂いを断つことができた。
足取りも軽く、上機嫌で廊下を歩いてハタと気付く。
「あれ? 私全然悪役じゃなくない?」
「完全に恋のキューピッドだったね」
「……まぁいっか。邪魔者の排除ってことで。ふはははは!」
「取ってつけたような悪者感だなぁ」
結果的には善行を働いてしまったけれど、気分はスッキリしているから良しとしよう。
そう割り切って幸せな気持ちに浸った1ヵ月後。
ようやく取り戻した私の平穏な日常をぶち壊す出来事が起きた。
なんと、エステルとトリスタンが別れたという衝撃のニュースが耳に飛び込んで来たのだった。
まさか一つも思いつかないとは言わないわよね?
プレッシャーをかけるように可愛いお顔を下から覗き込むようにすると、エステルの頬がひくりと引き攣った。
「……たっ、たくさんあります! 優しいですし、男らしいお顔も素敵ですし、家柄も立派だし、お友達が多いところとか、……えっと、だからそのとっても優しいです!」
やばい、予想以上に浅かった。
リアクションとりづらいぞこれ。
「とにかくっ、トリスタンはそこにいるだけで私を幸せにしてくれるんですぅ!」
「エステル……!」
勢いで誤魔化す気満々のエステルに、トリスタンが感激の目を向ける。
どうやら私には理解出来ない何かが心に響いてしまったらしい。
「僕もエステルの優しさと愛らしさに心を動かされたんだ。そうだ、そうなんだよ。イルゼとは合わないとずっと思っていた。いつも僕を馬鹿にした目で見るし。それに比べてエステルは何をしても褒めてくれる。僕が求めていたのは彼女だったんだ!」
気力を取り戻したのか、トリスタンが憤然と言う。
「え、あんなのでいいんだ」
「何しても褒められるって三歳児までよね」
「でもなんか立ち直ったみたいだよ」
「三歳児だから単純なのよ」
手を取り見つめ合い盛り上がる二人をよそに、白けた顔でヨシュアと囁きを交わす。
「わかってくれて嬉しいわトリスタン!」
「やはり僕にはキミしかいない。最初から解っていた。エステル、僕と付き合ってくれるかい?」
「ああトリスタン……! いつかこんな日が来るって信じてたわ」
ひしっと抱き合って涙をこぼす。
このまま放っておいたら突然歌いだしてミュージカルが始まってしまうのではないか。
自分に酔っている人種ってめんどくさい。
真顔で眺めていると、妙にキリッとした顔でトリスタンがこちらを見た。
「――イルゼ。キミには申し訳ないが、婚約は破棄させてもらう。僕は真実の愛を見つけてしまったんだ」
「いやだからもう破棄してるんだっつの」
こいつのこういうところが大嫌いだ。
改めて思った瞬間、これまでのこいつとの忍耐の日々が思い出されて切れそうになる。
「お嬢」
思わず地が出てヨシュアにつつかれる。
いけないいけない。私ってば貴族の御令嬢だった。
慌てて上品な笑みを貼り付ける。
「もういいの。気にしないで。私は全然本当に全く大丈夫だから。あなた達ってとっっってもお似合いだもの。私なんかが入り込む余地はないわ。気に病む必要は1ミリもないから。私のことなんて忘れて愛に生きるといいわ。本当に。綺麗に忘れて、二度と私に関わらないで」
掛け値ない本音に思わず力が入ってしまう。
二人がくっつけばこの先私が煩わされることはないだろう。
姑に当たるこいつの母親に、目の前でいびられまくっても一切庇ってくれなかったこと。
必死の努力で実家を立て直せてきたと報告したときに「顔がいい女は得だよね」と笑顔で言い放ったこと。
勉強も当主教育もサボって遊び歩くのをそれとなく注意して「何もしなくても当主になれるのになんで?」と心底不思議そうに言われた時に、私はこいつを諦めた。
そんな日々がもう終わるのだ。
「どうぞお幸せに」
会心の笑みを浮かべて心から彼らの幸せを願う。
それから優雅に礼をして、その場を後にした。
これで後顧の憂いを断つことができた。
足取りも軽く、上機嫌で廊下を歩いてハタと気付く。
「あれ? 私全然悪役じゃなくない?」
「完全に恋のキューピッドだったね」
「……まぁいっか。邪魔者の排除ってことで。ふはははは!」
「取ってつけたような悪者感だなぁ」
結果的には善行を働いてしまったけれど、気分はスッキリしているから良しとしよう。
そう割り切って幸せな気持ちに浸った1ヵ月後。
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なんと、エステルとトリスタンが別れたという衝撃のニュースが耳に飛び込んで来たのだった。
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