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エステルはアピールのあと、同意を求めるように取り巻きたちに潤んだ瞳を向けた。

「ああ、嫉妬がひどいらしい。だから女子の輪に入っていけないのだろう?」

まんまとエステルを庇うように取り巻きその二が割り込む。
その得意げな顔は、エステルのことならなんでも知っているとでも言いたげだ。
自分がどれだけこの女の表層部分しか見えていないかも気付かずに。

「それにしても一人も女友達がいないなんてことあります?」
「それだけエステルが可愛いということだ。男に人気があるから、女子に迫害されるのだろう」

何も知らないくせにしたり顔でうざいなこいつ。
女子を舐めるのもいい加減にしてほしい。

「ではヘイワーズ様は?」

学年が一つ上の、学校一の美人の先輩の名を挙げる。
もちろんただ美人なだけではない。
人望厚く、女子からも男子からも慕われている素晴らしい女性だ。

「うっ、それは……」

取り巻きその二が早速言葉に詰まる。
なんて浅くて薄っぺらい男なのだろう。

「ポーラさんは? あんなに可愛らしいのにいつだって周りには女友達で溢れています。悪い噂を聞くこともありません」
「ぅぐっ」

怯む男に畳み掛けるように美少女たちの名を上げていく。
皆エステルと同等か、それ以上に顔もスタイルも整った人たちだ。

彼女たちは秀でた容姿を鼻にかけることもなく、女生徒たちの間でも人気者だった。

「女友達が一人もいない方なんて他にいますか? ジョーンズさん以外に例を挙げられますか?」
「それは……」

いるわけがない。
彼女たちは性別や家柄で判断せず、きちんとその人の中身を見て人付き合いをしている。
取り巻きだのファンだののミーハーな存在は、むしろ辟易してしまうと思う。

こいつらがエステルの取り巻きをやっていられるのは、エステルがそう仕向けているせいだ。
友達がいない分、女子が固まって男子が話しかけづらいということが一切ないというのもある。

「そもそも、顔が整っているというだけでつまはじきにするような程度の低い女子生徒はこの学校にはいませんわ。そんな中で同性の友達がいないって相当に不自然ではありませんこと? 性格が悪いという自負がある私でさえ女性の友人はたくさんいますのに」
「お嬢は性格悪いんじゃなくて気が強いだけだと思うけど」

ヨシュアが健気にもフォローを入れてくれる。
いいやつだ。

それはともかく、一人も女友達がいないなんてどう考えても相当やばいやつだろ。

女子のほとんどに嫌われているのは確かだけど、それを露骨に表に出す人はいない。
話しかけられれば笑顔で返すし、みんな大人の対応をしてくれている。
その優しさに対してクソ塩対応をするから余計に嫌われるのだ。

男と女の前で態度が違いすぎる女に、友達なんて出来るはずがない。

「あなた達だって男友達は多いでしょう? 男友達が一人もいなくて、女子にばかりちょっかいかけている人を見てどう思うのかしら」

取り巻きたちが顔を見合わせた。
それからハッとしたような表情を浮かべる。

ここまで言われないと気付かない辺り、所詮はエステルの取り巻きなのだ。

「ね。すこぉし不思議だなって、思うでしょう?」

目一杯の皮肉を含ませて、ヨシュアに大好評の悪人顔で笑う。

取り巻きたちにじわじわと動揺の気配が広がっていくのが愉快だった。
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