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20.新しい友情に
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「……遅い」
リチャードは苛々していた。窓の外と時計を交互に見比べては溜息を吐く。
本当だったらこっそり後を尾けようと思っていたのに、すんでの所でテレサに見つかってしまった。
どうにか誤魔化そうと試みたのだが、テレサにはリチャードのやろうとすることなんてお見通しだったのだ。挙句に、彼は紳士的だから大丈夫ですよ、なんて釘まで刺されてしまい、彼女もすっかりコールに騙されているようだ。
いてもたってもいられずに、リチャードはこっそりと外の門まで出てこうとした。すると、二つの影が揺れたのが見えた。
リチャードは慌てて物陰に隠れるた。姿は見えないが、かろうじて声だけは聞こえる。
「コール、やだわ。もう少し待って……」
どうやら向こうも声を潜めて話しているようだった。心なしか二人の距離感も縮まってるような気がする。くすくすと笑いながら、何やらすごく楽しそうだ。
「君って本当に大胆だよね」
ーー大胆?
リチャードは耳を疑った。
「あら、知らなかったの?」
「君みたいな女性は初めてだよ」
「私だってあんな……やだ、思い出しちゃったわ」
シェリーは何やら楽しそうに、またくすくすと笑っている。
「こんなに濡らして……リチャードに怒られるわ」
「……お嬢様!?」
耐えきれずに、リチャードが飛び出すと、目の前には頭の先から爪先までびしょ濡れの二人が立っていた。
(……雨も降っていないのに?)
これは一体どういう状況なのか考えあぐねていると、シェリーがおずおずと口を開いた。
「あの、怒らないでちょうだい……」
シェリーの願いも虚しく、二人はリチャードにはこっぴどく叱られることになった。
「……まったく、いい大人がどうしてこんなにびしょ濡れで帰ってくるんです?」
コールの服を乾かしながら、リチャードはぐちぐちと文句をこぼしていた。当のコールといえば、リチャードの服を我が物のように着こなしている。
「だって、彼女ってば大胆なんだ。川岸ぎりぎりから投げたんだよ。ほとんど川に入っていた、あれは反則だったと思う」
こうやって、とコールは興奮気味にジェスチャーを交えて訴える。
どうやら石切をしていたらしい。リチャードはほっと胸を撫で下ろした。一瞬でも馬鹿な妄想をした自分が恥ずかしい。
「貴方こそ、もっと大きな石でチャレンジしてみるなんていうから驚いたわ。そのせいでこうなったのよ」
シェリーはそう言うと、またそれを思い出して笑っている。こんなに大きいのよ、と無邪気にリチャードへ両腕を広げて見せた。
「こんなに刺激的なデートになるとは……まったく、君みたいな子は本当に初めてだ」
「でしょうね」
リチャードはすかさず同意した。初デートで石切りをして、全身びしょ濡れで帰ってきたという話なんて聞いたことがない。
「私もとても楽しかった。本当にありがとう」
二人は随分と親しげだった。目を合わせて、時折微笑み合っている。たった数時間でこうも仲が深まるものだろうか。
「……ほら、もう乾きましたよ」
「え、まだ少し濡れてない?」
リチャードはコールの服を乱暴に投げ渡した。まだ乾ききっていないことに気付いてはいたが、これ以上シェリーの近くに置いていては危険な気がする。
コールの不満そうな声は友人として申し訳ないが、聞こえなかったことにする。
「それじゃあ、シェリー。楽しかったよ、またね」
コールは素直に半乾きのシャツに着替え、素早く身支度を整えた
「ええ、私も楽しかった。またね」
コールはごく自然な素振りでシェリーの額にキスをした。彼女も戸惑う風でもなく、親しい友人として受け入れているようだ。
リチャードが二人の距離感を心配そうに見つめていた。
リチャードは苛々していた。窓の外と時計を交互に見比べては溜息を吐く。
本当だったらこっそり後を尾けようと思っていたのに、すんでの所でテレサに見つかってしまった。
どうにか誤魔化そうと試みたのだが、テレサにはリチャードのやろうとすることなんてお見通しだったのだ。挙句に、彼は紳士的だから大丈夫ですよ、なんて釘まで刺されてしまい、彼女もすっかりコールに騙されているようだ。
いてもたってもいられずに、リチャードはこっそりと外の門まで出てこうとした。すると、二つの影が揺れたのが見えた。
リチャードは慌てて物陰に隠れるた。姿は見えないが、かろうじて声だけは聞こえる。
「コール、やだわ。もう少し待って……」
どうやら向こうも声を潜めて話しているようだった。心なしか二人の距離感も縮まってるような気がする。くすくすと笑いながら、何やらすごく楽しそうだ。
「君って本当に大胆だよね」
ーー大胆?
リチャードは耳を疑った。
「あら、知らなかったの?」
「君みたいな女性は初めてだよ」
「私だってあんな……やだ、思い出しちゃったわ」
シェリーは何やら楽しそうに、またくすくすと笑っている。
「こんなに濡らして……リチャードに怒られるわ」
「……お嬢様!?」
耐えきれずに、リチャードが飛び出すと、目の前には頭の先から爪先までびしょ濡れの二人が立っていた。
(……雨も降っていないのに?)
これは一体どういう状況なのか考えあぐねていると、シェリーがおずおずと口を開いた。
「あの、怒らないでちょうだい……」
シェリーの願いも虚しく、二人はリチャードにはこっぴどく叱られることになった。
「……まったく、いい大人がどうしてこんなにびしょ濡れで帰ってくるんです?」
コールの服を乾かしながら、リチャードはぐちぐちと文句をこぼしていた。当のコールといえば、リチャードの服を我が物のように着こなしている。
「だって、彼女ってば大胆なんだ。川岸ぎりぎりから投げたんだよ。ほとんど川に入っていた、あれは反則だったと思う」
こうやって、とコールは興奮気味にジェスチャーを交えて訴える。
どうやら石切をしていたらしい。リチャードはほっと胸を撫で下ろした。一瞬でも馬鹿な妄想をした自分が恥ずかしい。
「貴方こそ、もっと大きな石でチャレンジしてみるなんていうから驚いたわ。そのせいでこうなったのよ」
シェリーはそう言うと、またそれを思い出して笑っている。こんなに大きいのよ、と無邪気にリチャードへ両腕を広げて見せた。
「こんなに刺激的なデートになるとは……まったく、君みたいな子は本当に初めてだ」
「でしょうね」
リチャードはすかさず同意した。初デートで石切りをして、全身びしょ濡れで帰ってきたという話なんて聞いたことがない。
「私もとても楽しかった。本当にありがとう」
二人は随分と親しげだった。目を合わせて、時折微笑み合っている。たった数時間でこうも仲が深まるものだろうか。
「……ほら、もう乾きましたよ」
「え、まだ少し濡れてない?」
リチャードはコールの服を乱暴に投げ渡した。まだ乾ききっていないことに気付いてはいたが、これ以上シェリーの近くに置いていては危険な気がする。
コールの不満そうな声は友人として申し訳ないが、聞こえなかったことにする。
「それじゃあ、シェリー。楽しかったよ、またね」
コールは素直に半乾きのシャツに着替え、素早く身支度を整えた
「ええ、私も楽しかった。またね」
コールはごく自然な素振りでシェリーの額にキスをした。彼女も戸惑う風でもなく、親しい友人として受け入れているようだ。
リチャードが二人の距離感を心配そうに見つめていた。
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