28 / 47
28.勝負
しおりを挟む
思わず声を上げると、アルベルトはその美しい唇の前に人差し指を押し当てて見せた。
「一回だけだから」と、囁くような声は子どものように弾んでいた。
「さぁさぁ、うちのブレイデンと戦いたい勇者はいませんかー?」
マイルズのはしゃいだような声が聞こえる。どうやら司会は彼の仕事らしい。さすがに近衛隊長は参加していならしい。小隊長は椅子に腰掛け優雅に微笑んでいた。この雰囲気を楽しんでいるらしい。
「さぁさぁ、どなたでも!どなたの挑戦もブレイデンは待ってるぞー!」
「私が行こう」
アルベルトは深々とフードを被ったまま、大きく手を上げた。
ざわざわと周囲がどよめく。王子だから、ではない。なんだか怪しいからだ。
ネイトは額に手を当てて深く溜息を吐いた。
「……お戻りください。こんな所にいていいのですか? チャーリーは……」
「チャーリーは……撒いてきた」
あぁ、とネイトは眩暈がした。青筋を立てながら血眼になって彼を探すチャーリーの姿を容易に想像出来る。
「ブレイデン・ウォーレス、手加減は要らない」
ブレイデンに挑発するように囁く、途端にブレイデンの出す空気がピリッと変わった。
「最初からそのつもりです。これ、無礼講が売りですからねぇ」
「……面白い奴だ。これが本物の"試合"でなくて良かったな」
二人は不穏な空気を纏ったまま舞台に上がる。ネイトは一人ハラハラしていた。
「ブレイデン・ウォーレスと勝負がしたい」
アルベルトがなんとも爽やかな声で再びマイルズに申し出た。
「はいはい、そこの怪しいお兄さん!お名前を教えて頂けますかー? 」
何も知らないマイルズはハイテンションのまま進行を進める。
ーー怪しいって言っちゃったよ……。
ブレイデンが少しは止めるかと様子を伺うが、涼しい顔をしたまま用意された椅子に腰掛けて既に勝負を待っている。子どもたちも参加するような朗らかな大会のはずなのに、とにかく殺気がすごい。
「アル……チャーリーだ」
「アル・チャーリー!いい名前だね、勇者にぴったりの名前だ」
咄嗟にチャーリーの名前を騙ったものの、不意に出た本名と混じって上手く偽名になっていた。
それにしても、勇者にぴったりな名前とはなんだろう。マイルズって結構適当なことを言うんだな、とネイトは呆れと尊敬の入り混じった眼差しを送っていた。
アルベルトとブレイデンが、お互いにしっかりと固く手を握り合った。得体の知れない男に連勝を止められたりはしないか、観客も緊張しているようだった。ネイトも祈るように二人を見つめた。
「それじゃあ、構えて」
ーー瞬殺だった。
「ああ、アル・チャーリーさん。ここにお名前を書いて頂ければ敗者復活戦もありますよ」
「結構だ……」
マイルズがにこやかに案内するが、アルベルトはより一層フードを深く下に下げると逃げるようにネイトの元に戻ってきた。
幼い子どものように落ち込むアルベルトを、ネイトはあやすように励ました。フードにすっぽりと隠された頭に触れると、ほんのり暖かい。
「元気出してください……。あと、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう。でも、今それを言うか……?」
「本調子でなかったのでしょう?」
そうは言ってもあまりの瞬殺っぷりに思い出すと笑ってしまう。ブレイデンはなんだか力が入っていたようだったし、余裕も無かったのだろうが、随分と容赦がなかった。
「あんまり笑うな……」
「だって、あまりに一瞬で……ふっ、すみません」
「まあ、君が楽しそうなら満足だ」
僅かにフードを持ち上げて、アルベルトはホッとしたように笑った。
「それにしても……今日の君は一段と美しい」
アルベルはネイトと向き合うように立つと、肩に手を触れ上から下までじっくりと見た後、満足そうに笑った。
それから、ゆっくりとネイトの頬に手を伸ばした。優しく触れる手がじんわりと温かい。
「素敵な服をご用意してくださり、ありがとうございます」
ネイトが深々と頭を下げるのを、アルベルトはやんわりと制した。
「礼を言うのは私の方だ、私の為に着飾ってくれているのだろう?」
自信に満ちた物言いに、ネイトはまた胸が昂った。妄想の遥か上をいく破壊力に、思わずよろめいてしまう。
「おい、大丈夫か……」
「アルベルト王子!」
声の方を向くと、鬼の形相のチャーリーが立っていた。
「ああ、チャーリー。まさか、はぐれてしまうなんて……」
白々しく言って退けると、チャーリーは僅かに眉を顰めた後、にっこりと笑った。
「ええ、本当に。卓上格闘技大会に出場されなかったら見つけられませんでしたよ」
さあ、戻りますよ。とチャーリーは乱暴にアルベルトを連れ戻そうとした。
「やれやれ、行かなくては」
「ええ、あまりチャーリーを困らせないでください」
そう言うと、アルベルトは諦めたように笑った。チャーリーはアルベルトの腕を、今度ははぐれないようにしっかり掴むと、ネイトの方を振り返り"ありがとう"と、パクパクと口を動かしている。それに応えるように手を振った。
「さて、俺もそろそろ戻るか……」
賑やかな喧騒に少しだけ後ろ髪を引かれながら、ネイトは再び歩き出した。
「一回だけだから」と、囁くような声は子どものように弾んでいた。
「さぁさぁ、うちのブレイデンと戦いたい勇者はいませんかー?」
マイルズのはしゃいだような声が聞こえる。どうやら司会は彼の仕事らしい。さすがに近衛隊長は参加していならしい。小隊長は椅子に腰掛け優雅に微笑んでいた。この雰囲気を楽しんでいるらしい。
「さぁさぁ、どなたでも!どなたの挑戦もブレイデンは待ってるぞー!」
「私が行こう」
アルベルトは深々とフードを被ったまま、大きく手を上げた。
ざわざわと周囲がどよめく。王子だから、ではない。なんだか怪しいからだ。
ネイトは額に手を当てて深く溜息を吐いた。
「……お戻りください。こんな所にいていいのですか? チャーリーは……」
「チャーリーは……撒いてきた」
あぁ、とネイトは眩暈がした。青筋を立てながら血眼になって彼を探すチャーリーの姿を容易に想像出来る。
「ブレイデン・ウォーレス、手加減は要らない」
ブレイデンに挑発するように囁く、途端にブレイデンの出す空気がピリッと変わった。
「最初からそのつもりです。これ、無礼講が売りですからねぇ」
「……面白い奴だ。これが本物の"試合"でなくて良かったな」
二人は不穏な空気を纏ったまま舞台に上がる。ネイトは一人ハラハラしていた。
「ブレイデン・ウォーレスと勝負がしたい」
アルベルトがなんとも爽やかな声で再びマイルズに申し出た。
「はいはい、そこの怪しいお兄さん!お名前を教えて頂けますかー? 」
何も知らないマイルズはハイテンションのまま進行を進める。
ーー怪しいって言っちゃったよ……。
ブレイデンが少しは止めるかと様子を伺うが、涼しい顔をしたまま用意された椅子に腰掛けて既に勝負を待っている。子どもたちも参加するような朗らかな大会のはずなのに、とにかく殺気がすごい。
「アル……チャーリーだ」
「アル・チャーリー!いい名前だね、勇者にぴったりの名前だ」
咄嗟にチャーリーの名前を騙ったものの、不意に出た本名と混じって上手く偽名になっていた。
それにしても、勇者にぴったりな名前とはなんだろう。マイルズって結構適当なことを言うんだな、とネイトは呆れと尊敬の入り混じった眼差しを送っていた。
アルベルトとブレイデンが、お互いにしっかりと固く手を握り合った。得体の知れない男に連勝を止められたりはしないか、観客も緊張しているようだった。ネイトも祈るように二人を見つめた。
「それじゃあ、構えて」
ーー瞬殺だった。
「ああ、アル・チャーリーさん。ここにお名前を書いて頂ければ敗者復活戦もありますよ」
「結構だ……」
マイルズがにこやかに案内するが、アルベルトはより一層フードを深く下に下げると逃げるようにネイトの元に戻ってきた。
幼い子どものように落ち込むアルベルトを、ネイトはあやすように励ました。フードにすっぽりと隠された頭に触れると、ほんのり暖かい。
「元気出してください……。あと、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう。でも、今それを言うか……?」
「本調子でなかったのでしょう?」
そうは言ってもあまりの瞬殺っぷりに思い出すと笑ってしまう。ブレイデンはなんだか力が入っていたようだったし、余裕も無かったのだろうが、随分と容赦がなかった。
「あんまり笑うな……」
「だって、あまりに一瞬で……ふっ、すみません」
「まあ、君が楽しそうなら満足だ」
僅かにフードを持ち上げて、アルベルトはホッとしたように笑った。
「それにしても……今日の君は一段と美しい」
アルベルはネイトと向き合うように立つと、肩に手を触れ上から下までじっくりと見た後、満足そうに笑った。
それから、ゆっくりとネイトの頬に手を伸ばした。優しく触れる手がじんわりと温かい。
「素敵な服をご用意してくださり、ありがとうございます」
ネイトが深々と頭を下げるのを、アルベルトはやんわりと制した。
「礼を言うのは私の方だ、私の為に着飾ってくれているのだろう?」
自信に満ちた物言いに、ネイトはまた胸が昂った。妄想の遥か上をいく破壊力に、思わずよろめいてしまう。
「おい、大丈夫か……」
「アルベルト王子!」
声の方を向くと、鬼の形相のチャーリーが立っていた。
「ああ、チャーリー。まさか、はぐれてしまうなんて……」
白々しく言って退けると、チャーリーは僅かに眉を顰めた後、にっこりと笑った。
「ええ、本当に。卓上格闘技大会に出場されなかったら見つけられませんでしたよ」
さあ、戻りますよ。とチャーリーは乱暴にアルベルトを連れ戻そうとした。
「やれやれ、行かなくては」
「ええ、あまりチャーリーを困らせないでください」
そう言うと、アルベルトは諦めたように笑った。チャーリーはアルベルトの腕を、今度ははぐれないようにしっかり掴むと、ネイトの方を振り返り"ありがとう"と、パクパクと口を動かしている。それに応えるように手を振った。
「さて、俺もそろそろ戻るか……」
賑やかな喧騒に少しだけ後ろ髪を引かれながら、ネイトは再び歩き出した。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。
明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。
新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。
しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…?
冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話
須宮りんこ
BL
【あらすじ】
高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。
二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。
そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。
青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。
けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――?
※本編完結済み。後日談連載中。
【8話完結】恋愛を諦めたおじさんは、異世界で運命と出会う。
キノア9g
BL
恋愛を諦め、ただ淡々と日々を過ごしていた笠原透(32)。
しかし、ある日突然異世界へ召喚され、「王の番」だと告げられる。
迎えたのは、美しく気高い王・エルヴェル。
手厚いもてなしと優しさに戸惑いながらも、次第に心を揺さぶられていく透。
これは、愛を遠ざけてきた男が、本当のぬくもりに触れる物語。
──運命なんて、信じていなかった。
けれど、彼の言葉が、ぬくもりが、俺の世界を変えていく。
全8話。
異世界転生した俺の婚約相手が、王太子殿下(♂)なんて嘘だろう?! 〜全力で婚約破棄を目指した結果。
みこと。
BL
気づいたら、知らないイケメンから心配されていた──。
事故から目覚めた俺は、なんと侯爵家の次男に異世界転生していた。
婚約者がいると聞き喜んだら、相手は王太子殿下だという。
いくら同性婚ありの国とはいえ、なんでどうしてそうなってんの? このままじゃ俺が嫁入りすることに?
速やかな婚約解消を目指し、可愛い女の子を求めたのに、ご令嬢から貰ったクッキーは仕込みありで、とんでも案件を引き起こす!
てんやわんやな未来や、いかに!?
明るく仕上げた短編です。気軽に楽しんで貰えたら嬉しいです♪
※同タイトルを「小説家になろう」様でも掲載しています。
【8話完結】僕の大切な人はBLゲームの主人公でした。〜モブは主人公の幸せのためなら、この恋も諦められます〜
キノア9g
BL
転生先は、まさかのBLゲームの世界。
モブであるリセルは、恋を自覚した瞬間、幼馴染・セスがこの世界の“主人公”だと気づいてしまう。
このまま一緒にいても、いつか彼は攻略対象に惹かれていく運命——それでも、今だけは傍にいたい。
「諦める覚悟をしたのに、どうしてこんなにも君が愛おしいんだろう」
恋の終わりを知っているモブと、想いを自覚していく主人公。
甘さと切なさが胸を締めつける、すれ違いから始まる運命の物語。
全8話。
追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」
身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。
死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。
カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。
「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」
献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。
これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。
【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる
ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。
そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。
「一緒にコラボ配信、しない?」
顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。
これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。
※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる