【完結】王子、"それ以上"なんておこがましいことは申しません!〜素直になれない二人は今夜もすれ違う〜

桐野湊灯

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28.勝負

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 思わず声を上げると、アルベルトはその美しい唇の前に人差し指を押し当てて見せた。

 「一回だけだから」と、囁くような声は子どものように弾んでいた。

「さぁさぁ、うちのブレイデンと戦いたい勇者はいませんかー?」

 マイルズのはしゃいだような声が聞こえる。どうやら司会は彼の仕事らしい。さすがに近衛隊長は参加していならしい。小隊長は椅子に腰掛け優雅に微笑んでいた。この雰囲気を楽しんでいるらしい。

「さぁさぁ、どなたでも!どなたの挑戦もブレイデンは待ってるぞー!」

「私が行こう」

 アルベルトは深々とフードを被ったまま、大きく手を上げた。

 ざわざわと周囲がどよめく。王子だから、ではない。なんだか怪しいからだ。

 ネイトは額に手を当てて深く溜息を吐いた。

「……お戻りください。こんな所にいていいのですか? チャーリーは……」

「チャーリーは……撒いてきた」
 
 あぁ、とネイトは眩暈がした。青筋を立てながら血眼になって彼を探すチャーリーの姿を容易に想像出来る。

「ブレイデン・ウォーレス、手加減は要らない」

 ブレイデンに挑発するように囁く、途端にブレイデンの出す空気がピリッと変わった。

「最初からそのつもりです。これ、無礼講が売りですからねぇ」

「……面白い奴だ。これが本物の"試合"でなくて良かったな」

 二人は不穏な空気を纏ったまま舞台に上がる。ネイトは一人ハラハラしていた。

「ブレイデン・ウォーレスと勝負がしたい」

 アルベルトがなんとも爽やかな声で再びマイルズに申し出た。

「はいはい、そこの怪しいお兄さん!お名前を教えて頂けますかー? 」

 何も知らないマイルズはハイテンションのまま進行を進める。

ーー怪しいって言っちゃったよ……。

 ブレイデンが少しは止めるかと様子を伺うが、涼しい顔をしたまま用意された椅子に腰掛けて既に勝負を待っている。子どもたちも参加するような朗らかな大会のはずなのに、とにかく殺気がすごい。

「アル……チャーリーだ」

「アル・チャーリー!いい名前だね、勇者にぴったりの名前だ」

 咄嗟にチャーリーの名前を騙ったものの、不意に出た本名と混じって上手く偽名になっていた。
 それにしても、勇者にぴったりな名前とはなんだろう。マイルズって結構適当なことを言うんだな、とネイトは呆れと尊敬の入り混じった眼差しを送っていた。

 アルベルトとブレイデンが、お互いにしっかりと固く手を握り合った。得体の知れない男に連勝を止められたりはしないか、観客も緊張しているようだった。ネイトも祈るように二人を見つめた。

「それじゃあ、構えて」
 

ーー瞬殺だった。


「ああ、アル・チャーリーさん。ここにお名前を書いて頂ければ敗者復活戦もありますよ」

「結構だ……」

 マイルズがにこやかに案内するが、アルベルトはより一層フードを深く下に下げると逃げるようにネイトの元に戻ってきた。
 幼い子どものように落ち込むアルベルトを、ネイトはあやすように励ました。フードにすっぽりと隠された頭に触れると、ほんのり暖かい。

「元気出してください……。あと、お誕生日おめでとうございます」

「ありがとう。でも、今それを言うか……?」

「本調子でなかったのでしょう?」

 そうは言ってもあまりの瞬殺っぷりに思い出すと笑ってしまう。ブレイデンはなんだか力が入っていたようだったし、余裕も無かったのだろうが、随分と容赦がなかった。
 
「あんまり笑うな……」

「だって、あまりに一瞬で……ふっ、すみません」

「まあ、君が楽しそうなら満足だ」

 僅かにフードを持ち上げて、アルベルトはホッとしたように笑った。

「それにしても……今日の君は一段と美しい」

 アルベルはネイトと向き合うように立つと、肩に手を触れ上から下までじっくりと見た後、満足そうに笑った。
 それから、ゆっくりとネイトの頬に手を伸ばした。優しく触れる手がじんわりと温かい。

「素敵な服をご用意してくださり、ありがとうございます」

 ネイトが深々と頭を下げるのを、アルベルトはやんわりと制した。

「礼を言うのは私の方だ、私の為に着飾ってくれているのだろう?」

 自信に満ちた物言いに、ネイトはまた胸が昂った。妄想の遥か上をいく破壊力に、思わずよろめいてしまう。

「おい、大丈夫か……」

「アルベルト王子!」

 声の方を向くと、鬼の形相のチャーリーが立っていた。

「ああ、チャーリー。まさか、はぐれてしまうなんて……」

 白々しく言って退けると、チャーリーは僅かに眉を顰めた後、にっこりと笑った。

「ええ、本当に。卓上格闘技大会に出場されなかったら見つけられませんでしたよ」

 さあ、戻りますよ。とチャーリーは乱暴にアルベルトを連れ戻そうとした。

「やれやれ、行かなくては」

「ええ、あまりチャーリーを困らせないでください」

 そう言うと、アルベルトは諦めたように笑った。チャーリーはアルベルトの腕を、今度ははぐれないようにしっかり掴むと、ネイトの方を振り返り"ありがとう"と、パクパクと口を動かしている。それに応えるように手を振った。

「さて、俺もそろそろ戻るか……」

 賑やかな喧騒に少しだけ後ろ髪を引かれながら、ネイトは再び歩き出した。
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