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11.景色

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「……明るいうちに町を歩くのは久し振りだわ」

 穏やかな潮風が、コレットの髪を優しく巻き上げた。日差しが暖かくて気持ちがいい。

「そうだろう、天気もいいからさ。海を見に行こう」

 景色の良い場所を見つけたんだ、とレミがにっこりと笑う。パン屋から海までは歩いてすぐだ。レミは慣れたような足取りで海の方へ向かって行く。

「大丈夫?」

 この少し急な坂道を登ったら、向こうは海だ。ゴツゴツとした岩ばかりの階段は足元が悪い。レミがそっと手を差し出す。その手を掴むと、レミはコレットが歩きやすい道へと誘導してくれる。

「さすがね、レミ」

 この道は地元の人間はほとんど使わないだろう。少し遠回りしたところにもっと歩きやすい道がある。

「ああ、何度も来たからね」

 知らないようなら後でさりげなく教えてあげよう、コレットは荒い息を吐きながらそう心に決めていた。

「まぁ、なんて素敵なの……」

 険しい坂を登った先に、どこまでも大きな海が広がっていた。穏やかな波がきらきらと反射していて美しい。

「この道を通らないと、こんな高い位置から見渡せないんだ、綺麗だろう?」

 レミはどちらの道も知っていたのだ。コレットはほっと胸を撫で下ろした。

「ええ、本当に綺麗だわ。永遠に見ていられる」

「俺もそう思う」

 二人は顔を見合わせて笑った。

「海を見にきたのは久し振りよ。こんなに近くに住んでるのにね」

「いつでも俺が連れてくよ」

「まあ、ありがとう」

 コレットは嬉しそうに笑ったが、本気にしていないことをレミは知っていた。

「気持ちいいわね」

「……リアム•アトウッドとは恋人同士なの?」

「そうね……」

 "恋人"らしいことはほとんどしていない。

「俺なら君にそんな表情させたりしないよ」

「ええ、そうかもね。貴方は優しい人だから」

ーーコレット、俺は本気なんだ。

 そう言えたら、彼女は少しは俺との未来を考えてくれただろうか。

「そろそろ行かなくちゃ」

「ああ、送ってくよ」

「いいのよ。少し歩きたいから」

 レミが何かを言いかけたけど、コレットはそれを見ないふりをした。これ以上一緒にいたら、言わなくてもいいことまで言ってしまいそうだった。

 あの美しく広い海を彼と見たかった。

 行きとは別の平坦で綺麗な道を歩いて店に戻る。少し遠回りしたくて大通りに出た。町は賑わっている。
 煌びやかなドレスを着て、若い男女が腕を組んで歩いている。

ーー失敗したかしら。

 華やかな町並みを見ると、コレットは余計に虚しくなった。

 人混みの中に、よく見知った顔が見えた。一際高い背が目立つ。一緒に歩いている女性は柔らかそうな栗色の髪をふわふわと揺らして楽しそうに笑い合ってる。

「……リアム?」

 腕をしっかり組んでいる。女性を見つめるリアムの顔は優しそうだ。

ーー私には怒ってばかりなのに。

 二人はとてもよくお似合いの恋人同士のようだった。
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