12 / 13
12.
しおりを挟む
ーー本当にいいのか?
町まで共に下りていくと言って聞かないレオを振り切って、レックスはそっと屋敷を出た。
あれほど心配するレオも珍しい。ギリギリまでレックスの後ろをついて歩いていたので、レックスは気が気ではなかった。ヴァンダー家の隠し部屋の秘密が明るみにでるのも、いずれ時間の問題かもしれない。それはきっといいことなのだろう。
「デイジー様、おはようございます」
扉を優しくノックしてから声を掛けると、部屋の奥から快活な声で返事をするのが聞こえた。
ドアを開くと、デイジーの支度はすっかり終わっていた。部屋は出るばかりになっていて、ベッドも綺麗に片付けられている。
「おはよう、レックス。支度は出来てるわ」
彼女の足元を見ると、持ってきた荷物がコンパクトに収められていた。
「お早いですね、流石です。気分は落ち着きました?」
レックスは心配そうに訊ねる。
「ええ、何から何まで本当にありがとう」
デイジーはさっぱりした顔で笑った。
「いいえ、では家に帰りましょう。レオ様がお待ちです」
「……彼、怒っているかしら」
「いいえ、でもとても心配しています」
手紙を見つけるや否や取り乱していたこと、一時間毎に迎えに行こうと言い出すことをこっそり教えると、デイシーは照れたように笑った。
「帰ったらレオとちゃんと話をするわ。手紙を書いてみたけど、渡さないままかもしれない。みんな口で言ってしまいそうだもの」
握られた手紙は、内容までは読み取れなかったが、何度も書き直した跡があるようだった。
「良いのです、紙に書き出すことで気持ちが落ち着くと言いますからね」
これはシャーリーン夫人からの受け売りだ。私生活でレックスも真似ているが効果がある。
デイジーは再び、持っていた手紙に目を遣った。シャーリーン夫人のお気に入りだった小さな青い花が散らされている。
「……シャーリーン夫人、お会いしてみたかったわ」
細い傷が薄く残る机を撫でて、デイジーは呟いた。
「この紙に字を書いているとね、不思議と誰かに暖かく見守られているような、そんな気持ちになるのよ」
デイジーはシャーリーンが見守ってくれていたのではないかと言う。
「きっと、すぐにお二人は親しくなったでしょうね」
お世辞でも何でもなく、レックスは心からそう思っていた。二人はとても気が合っただろう。それを微笑ましそうに見守る旦那様の優しいお顔が目に浮かぶ。
「帰りましょう」
はっとレックスが顔を上げると、デイジーは穏やかに笑っていた。
町まで共に下りていくと言って聞かないレオを振り切って、レックスはそっと屋敷を出た。
あれほど心配するレオも珍しい。ギリギリまでレックスの後ろをついて歩いていたので、レックスは気が気ではなかった。ヴァンダー家の隠し部屋の秘密が明るみにでるのも、いずれ時間の問題かもしれない。それはきっといいことなのだろう。
「デイジー様、おはようございます」
扉を優しくノックしてから声を掛けると、部屋の奥から快活な声で返事をするのが聞こえた。
ドアを開くと、デイジーの支度はすっかり終わっていた。部屋は出るばかりになっていて、ベッドも綺麗に片付けられている。
「おはよう、レックス。支度は出来てるわ」
彼女の足元を見ると、持ってきた荷物がコンパクトに収められていた。
「お早いですね、流石です。気分は落ち着きました?」
レックスは心配そうに訊ねる。
「ええ、何から何まで本当にありがとう」
デイジーはさっぱりした顔で笑った。
「いいえ、では家に帰りましょう。レオ様がお待ちです」
「……彼、怒っているかしら」
「いいえ、でもとても心配しています」
手紙を見つけるや否や取り乱していたこと、一時間毎に迎えに行こうと言い出すことをこっそり教えると、デイシーは照れたように笑った。
「帰ったらレオとちゃんと話をするわ。手紙を書いてみたけど、渡さないままかもしれない。みんな口で言ってしまいそうだもの」
握られた手紙は、内容までは読み取れなかったが、何度も書き直した跡があるようだった。
「良いのです、紙に書き出すことで気持ちが落ち着くと言いますからね」
これはシャーリーン夫人からの受け売りだ。私生活でレックスも真似ているが効果がある。
デイジーは再び、持っていた手紙に目を遣った。シャーリーン夫人のお気に入りだった小さな青い花が散らされている。
「……シャーリーン夫人、お会いしてみたかったわ」
細い傷が薄く残る机を撫でて、デイジーは呟いた。
「この紙に字を書いているとね、不思議と誰かに暖かく見守られているような、そんな気持ちになるのよ」
デイジーはシャーリーンが見守ってくれていたのではないかと言う。
「きっと、すぐにお二人は親しくなったでしょうね」
お世辞でも何でもなく、レックスは心からそう思っていた。二人はとても気が合っただろう。それを微笑ましそうに見守る旦那様の優しいお顔が目に浮かぶ。
「帰りましょう」
はっとレックスが顔を上げると、デイジーは穏やかに笑っていた。
0
あなたにおすすめの小説
狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。
汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。
元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。
与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。
本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。
人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。
そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。
「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」
戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。
誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。
やわらかな人肌と、眠れない心。
静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。
[こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]
伝える前に振られてしまった私の恋
喜楽直人
恋愛
第一部:アーリーンの恋
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
第二部:ジュディスの恋
王女がふたりいるフリーゼグリーン王国へ、十年ほど前に友好国となったコベット国から見合いの申し入れがあった。
周囲は皆、美しく愛らしい妹姫リリアーヌへのものだと思ったが、しかしそれは賢しらにも女性だてらに議会へ提案を申し入れるような姉姫ジュディスへのものであった。
「何故、私なのでしょうか。リリアーヌなら貴方の求婚に喜んで頷くでしょう」
誰よりもジュディスが一番、この求婚を訝しんでいた。
第三章:王太子の想い
友好国の王子からの求婚を受け入れ、そのまま攫われるようにしてコベット国へ移り住んで一年。
ジュディスはその手を取った選択は正しかったのか、揺れていた。
すれ違う婚約者同士の心が重なる日は来るのか。
コベット国のふたりの王子たちの恋模様
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
ヒュントヘン家の仔犬姫〜前世殿下の愛犬だった私ですが、なぜか今世で求愛されています〜
高遠すばる
恋愛
「ご主人さま、会いたかった…!」
公爵令嬢シャルロットの前世は王太子アルブレヒトの愛犬だ。
これは、前世の主人に尽くしたい仔犬な令嬢と、そんな令嬢への愛が重すぎる王太子の、紆余曲折ありながらハッピーエンドへたどり着くまでの長い長いお話。
2024/8/24
タイトルをわかりやすく改題しました。
十回目のお見合いは、麗しの伯爵令息がお相手です。
小桜
恋愛
トルメンタ伯爵家に居候として身を置く『元』子爵令嬢フィーナ。幼い頃に両親を亡くした彼女は、早く結婚をして自分の家族を持つことが願いであった。
そのために何度も見合いを繰り返し、断られ続けて九人目。次、十回目の縁談こそ成立させてみせると意気込む彼女の前に見合い相手として現れたのは、なぜか居候先のトルメンタ伯爵家嫡男カミロ・トルメンタ。
「ご、ご冗談を……」
「冗談ではない。本気だ」
早く結婚したくて見合いを繰り返すフィーナと、無自覚の初恋を拗らせていた堅物なカミロのお話。
私を簡単に捨てられるとでも?―君が望んでも、離さない―
喜雨と悲雨
恋愛
私の名前はミラン。街でしがない薬師をしている。
そして恋人は、王宮騎士団長のルイスだった。
二年前、彼は魔物討伐に向けて遠征に出発。
最初は手紙も返ってきていたのに、
いつからか音信不通に。
あんなにうっとうしいほど構ってきた男が――
なぜ突然、私を無視するの?
不安を抱えながらも待ち続けた私の前に、
突然ルイスが帰還した。
ボロボロの身体。
そして隣には――見知らぬ女。
勝ち誇ったように彼の隣に立つその女を見て、
私の中で何かが壊れた。
混乱、絶望、そして……再起。
すがりつく女は、みっともないだけ。
私は、潔く身を引くと決めた――つもりだったのに。
「私を簡単に捨てられるとでも?
――君が望んでも、離さない」
呪いを自ら解き放ち、
彼は再び、執着の目で私を見つめてきた。
すれ違い、誤解、呪い、執着、
そして狂おしいほどの愛――
二人の恋のゆくえは、誰にもわからない。
過去に書いた作品を修正しました。再投稿です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる