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8.大きな未練
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正賓室は、ボルドーを基調とした調度品で揃えられていた。部屋に入るなり、スープのいい香りが漂ってくる。
「いい匂い~」
思わず声に出してしまうと、セレスティが冷ややかな視線を向けてきた。
「どうぞ、お席へ」
フィンが慣れた手付きで他の使用人に指示を出しているのが見えた。普段は、このおかしな#品評会の戦利品____#であるダニエル・ガーランド王子の従者をしているらしい。なんでもダニエル王子が最も信用している人物が、フィンだそう。
ますますどうして、ロイドと繋がりがあるのかしら。
それにしても、彼の動きを観察していると大変勉強になる。令嬢たちの動きをよく見ながら、使用人への指示も動線も完璧。小さな薬入れを隠すように持っていたセレスティに、周りに気付かれないようにそっと水を差し出していた所なんて惚れ惚れしてしまった。
ロイドがフィンに何やら小さく耳打ちをするのが見えた。フィンは頷くと、すっと部屋を出て行ってしまった。
全員が席に着いた所で、次々に温かい食事が運ばれてくる。湯気の立ったスープは野菜がごろごろと入っている。それに、大きな皿に盛られた魚のフライ。綺麗な編み目が美しい大きな蓋つきのパイが二つ。どちらかは、きっとチキンね。いい匂いがしている。
「美味しそ「失礼、皆様」」
ロイドのよく通る声が響く。
「どうかしました?」
ケイティが心配そうに訊ねた。
「ジゼル様は体調が優れないようなので、食事は部屋で頂きます」
「……なんですって?」
聞き間違いかと、思わずロイドを見てしまう。これから、チキンのパイを食べようとしていたのに?
「大丈夫ですか……私の肩に掴まって」
有無を言わせない態度に、私は仕方なく諦めてロイドの手を取った。
「やだ、涙目になるまで我慢することないでしょう。早く言いなさいよ」
ローラはきつい口調ながらも気遣ってくれているようだった。優しいところもあるじゃない。
「いえ……ごめんなさい。これから楽しいお食事の時間なのに……うぅっ……」
涙声になってしまったのは演技ではない。本当に、これから楽しい食事になるはずだったのに……。
チキンのパイをしっかり目に焼き付ける。きっとこれが最後ではないわ。いつかまた会える。
重厚な扉を開けて、ロイドは足早に私を連れ出そうとする。勢いがなければ、私がチキンのパイに引き戻されてしまうのが分かっているのね。
「ジゼル様、食事は今後別室で食べることになります」
「そんな……どうしてよ」
「その方が安全だからです」
「毒味はしてあるんでしょう?」
城には毒味係がいると聞いている。あの料理だってきちんと毒味がされているはずだ。
ロイドは一瞬苦い顔をして、私たちに用意された部屋を開けた。
「……フィン以外、誰も信じるなと言っただろう」
「そうだけど……美味しそうだったなぁ」
「この仕事が終わったら好きなだけ食わせてやるよ」
息を吸い込むと、部屋中にラベンダーのいい香りがしている。ふかふかの広すぎるほどの大きなベッドには、いくつものクッションが並べられている。丁寧に手入れされた部屋だ。当然だが埃の気配すらない。
「ベッドって、ひとつかしら? 」
確かフィンが、中は区切られていると言っていた。ぐるっと見渡すと、大きな扉がいくつかある。パタパタと開けて回ると、浴室がひとつ、応接室がひとつ、クローゼットルームがひとつ、何もない部屋がひとつ……多分荷物を置いておくところね。スプリング家で住み込みで働く前に一人で住んでた家よりずっと広い。
だが、どう見てもベッドルームはひとつしかないようだった。
「一緒に寝る?」
「なっ……!? 」
ロイドの頬はたちまち紅潮していき、とうとう耳まで赤く染めてしまった。
「冗談よ、何で決める? コイン?」
「俺が応接室で寝る……」
「あら、紳士ね。ありがとう」
なんて、ロイドが応接室で寝ると言ってくれるのは分かっていた。でお礼にきるだけふかふかのクッションを後で持っていってあげよう。応接室のソファがベッド並みにふかふかそうで本当に良かったわ。そうでなければ、申し訳ない。
「お腹空いたわね」
ご馳走を食べ損なったことを責めているわけではない。それに、ロイドもまだ何も食べていない。
「そうだな……そろそろだと思うんだが」
ロイドが視線を向けた瞬間、見計らったように扉がノックされた。ロイド、と呼ぶ声がする。
「ちょうど、だな」
待ってましたと言わんばかりに、ロイドが重い扉を開いた。
「いい匂い~」
思わず声に出してしまうと、セレスティが冷ややかな視線を向けてきた。
「どうぞ、お席へ」
フィンが慣れた手付きで他の使用人に指示を出しているのが見えた。普段は、このおかしな#品評会の戦利品____#であるダニエル・ガーランド王子の従者をしているらしい。なんでもダニエル王子が最も信用している人物が、フィンだそう。
ますますどうして、ロイドと繋がりがあるのかしら。
それにしても、彼の動きを観察していると大変勉強になる。令嬢たちの動きをよく見ながら、使用人への指示も動線も完璧。小さな薬入れを隠すように持っていたセレスティに、周りに気付かれないようにそっと水を差し出していた所なんて惚れ惚れしてしまった。
ロイドがフィンに何やら小さく耳打ちをするのが見えた。フィンは頷くと、すっと部屋を出て行ってしまった。
全員が席に着いた所で、次々に温かい食事が運ばれてくる。湯気の立ったスープは野菜がごろごろと入っている。それに、大きな皿に盛られた魚のフライ。綺麗な編み目が美しい大きな蓋つきのパイが二つ。どちらかは、きっとチキンね。いい匂いがしている。
「美味しそ「失礼、皆様」」
ロイドのよく通る声が響く。
「どうかしました?」
ケイティが心配そうに訊ねた。
「ジゼル様は体調が優れないようなので、食事は部屋で頂きます」
「……なんですって?」
聞き間違いかと、思わずロイドを見てしまう。これから、チキンのパイを食べようとしていたのに?
「大丈夫ですか……私の肩に掴まって」
有無を言わせない態度に、私は仕方なく諦めてロイドの手を取った。
「やだ、涙目になるまで我慢することないでしょう。早く言いなさいよ」
ローラはきつい口調ながらも気遣ってくれているようだった。優しいところもあるじゃない。
「いえ……ごめんなさい。これから楽しいお食事の時間なのに……うぅっ……」
涙声になってしまったのは演技ではない。本当に、これから楽しい食事になるはずだったのに……。
チキンのパイをしっかり目に焼き付ける。きっとこれが最後ではないわ。いつかまた会える。
重厚な扉を開けて、ロイドは足早に私を連れ出そうとする。勢いがなければ、私がチキンのパイに引き戻されてしまうのが分かっているのね。
「ジゼル様、食事は今後別室で食べることになります」
「そんな……どうしてよ」
「その方が安全だからです」
「毒味はしてあるんでしょう?」
城には毒味係がいると聞いている。あの料理だってきちんと毒味がされているはずだ。
ロイドは一瞬苦い顔をして、私たちに用意された部屋を開けた。
「……フィン以外、誰も信じるなと言っただろう」
「そうだけど……美味しそうだったなぁ」
「この仕事が終わったら好きなだけ食わせてやるよ」
息を吸い込むと、部屋中にラベンダーのいい香りがしている。ふかふかの広すぎるほどの大きなベッドには、いくつものクッションが並べられている。丁寧に手入れされた部屋だ。当然だが埃の気配すらない。
「ベッドって、ひとつかしら? 」
確かフィンが、中は区切られていると言っていた。ぐるっと見渡すと、大きな扉がいくつかある。パタパタと開けて回ると、浴室がひとつ、応接室がひとつ、クローゼットルームがひとつ、何もない部屋がひとつ……多分荷物を置いておくところね。スプリング家で住み込みで働く前に一人で住んでた家よりずっと広い。
だが、どう見てもベッドルームはひとつしかないようだった。
「一緒に寝る?」
「なっ……!? 」
ロイドの頬はたちまち紅潮していき、とうとう耳まで赤く染めてしまった。
「冗談よ、何で決める? コイン?」
「俺が応接室で寝る……」
「あら、紳士ね。ありがとう」
なんて、ロイドが応接室で寝ると言ってくれるのは分かっていた。でお礼にきるだけふかふかのクッションを後で持っていってあげよう。応接室のソファがベッド並みにふかふかそうで本当に良かったわ。そうでなければ、申し訳ない。
「お腹空いたわね」
ご馳走を食べ損なったことを責めているわけではない。それに、ロイドもまだ何も食べていない。
「そうだな……そろそろだと思うんだが」
ロイドが視線を向けた瞬間、見計らったように扉がノックされた。ロイド、と呼ぶ声がする。
「ちょうど、だな」
待ってましたと言わんばかりに、ロイドが重い扉を開いた。
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