【完結】貴族令嬢(かませ犬)を演じれば借金帳消しって本当ですか?

桐野湊灯

文字の大きさ
23 / 30

23.フィンの対ロイド用の交渉術(フィン視点)

しおりを挟む
「体はもう大丈夫なのか?」

「ああ、もう大丈夫だ。さすがはフィン」

 腕を大きく回して、「体が軽い!」と笑っている。あの時は、彼が死んでしまうのではないかと本当に怖かった。なんだかんだと言っても、私にとってロイドは数少ない大切な友人だ。

 ところで、話ってなんだ? と、ロイドは先を促す。

「妃候補について、だ」

「ああ、安心しろよ。ジゼルも本気で妃になれると思って参加してない」

 ロイドは何を勘違いしているのか、気を遣わせて悪いな、なんて言っている。

「そうじゃない。私はジゼル様にダニエル王子の妃になってほしい」

「……冗談だろう」

「まさか、私はいつでも本気だ」

 失礼な奴だ。私は真面目に話している時に冗談など言わない。

「約束と違う。俺とジゼルは元々は人数合わせ、そのはずだろう?」

 確かに、最初はそうだった。

「それを言うなら、ダニエル王子に迷惑が掛からぬように確かな家柄のご令嬢を紹介してほしいと言ったはずだ」

 薄々は気付いていた。サマー姓はこの国でも多い名字だ、遡れば遠いどこかで繋がりがあってもおかしくないほどで、調べ上げるには途方もない時間が掛かる。一番誤魔化しやすい。

「と言うことは、ジゼルがアリシア・サマーとは全く無関係なことを知っているだろう。ああ、そうだ……以前、あのスプリング家の使用人をしていたということは?」

「……生まれなど、どうにでもなる」

 自分でも矛盾したことを言っているとわかっている。だが、本気になればどうにか出来るというのも本当だ。

 それにしても、アリシア・サマーと無関係なのは気付いていたが、まさかスプリング家の使用人をしていたとは思わなかった。少しばかり厄介なことだが、これも頑張れば何とか出来ないこともない。

 とにかく必死だった。ジゼル・サマーを逃してしまったら、もう二度と彼の妃に相応しいと思える人物が現れないような気がしていた。
 
「だめだ」

 ロイドは頑固な父親のように、頑なに首を縦に振らない。一体こいつは彼女の何なのだろう。

「ジゼル様の本心はどうだ? 彼女はお前のものじゃないだろう」

「そうだが……」

 ロイドがグッと言葉に詰まったのが分かった。畳み掛けるように言葉を繋ぐ。反論する隙を与えないのがコツだ。

「ジゼル様が妃になった暁には、今のままお前が彼女に
付いていてやればいい」

 ロイドの肩を掴んで、しっかりと目を合わせる。城での生活を想像したのか、瞳が僅かに揺らいだ。ああ、そうだ。報酬は多いが怪しいなんていう仕事を受けることもないぞ。

「ダニエル王子には、彼女のような女性が必要なんだ。優しくて、強い」

 彼女がいてくれたら安心だ。

「こんな世界で、彼より早く死んでしまうような女性ではダメなんだ」

 これが何より重要なポイントだった。彼を一人にさせないような、強くて逞しい女性。それでいて、少し頼りない彼を優しく包み込んでくれる存在。

「ロイド……」

 訴えかけるように名前を呼ぶと、ロイドはとうとう薄い瞼を閉じて熟考タイムに入ったようだった。もうひと押しだ。

「敵に対して怯まずに立ち向かう、特にセレスティ様に対しての、金髪をむしってやる宣言にはグッと来た」

「……もっと他にもグッとくるポイントはあっただろう」

 ロイドの目がぱちりと開いた。

「食事をばくばく食べるところ……、何でも食べる女性でなくてはダメだ。有事の際に生き残れない」

 私のグッとポイントに、ロイドは片っ端からケチをつけていく。そういえば、昔から好みも合わなかった。

「……それに、彼女は可愛い」

 これも大事なポイントだった。むしろ、これが最大の決め手。

「知ってる」

 ロイドは呆れたように笑った。やっと意見が一致した。

「……だめだ、だめだ! ジゼルは嫁にはやらない」

「どうして? 彼女に幸せになってほしくないのか?」

「なってほしいさ、だからダメなんだ」

「……あいつにはもっと自由でいてほしい」

「お前が彼女を妻にしたいというなら諦める。だが、そうでないなら、彼女に提案することを許して欲しい」

 だめと言ってもするつもりだ。当然、そのことはロイドにもバレているのだろう。
 
「いいだろう……だが、まず俺が聞く。いいか?」

「ああ、いいだろう」
 
 交渉成立、と差し出した手を、ロイドが掴んだ瞬間だった。壁に何かがぶつかるような音と、パンッと乾いた音が聞こえた。

「ジゼルの部屋からだ……!」




 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
【全16話+後日談5話:日月水金20:00更新】 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

処理中です...