精霊の使い

野上葵

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こちらはシェルター村です。

いや、ここどこ?

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無音だ。音が聞こえない。目も開かない。

「あー。あー。あ、声は出るんだな」

はっきりと覚えてる。俺は通り魔に刺され、ほぼ確実に死んだ。
だから多分死後の世界だ。

ゲームとかだったらここで、「ゲームオーバー」の文字が画面いっぱいに書き出されていることだろう。
が、残念ながらここはゲームの世界ではない。現実世界なのだ。超絶美少女もいなければ、ゲームオーバーもない。

一つ一つ、出来ること、考えられることを探しながらようやく目を開けることに成功した。

「は?どこだよ。ここ……」

俺の目にうつっていたものはありえない世界だった。

普通の街のような、村のような。
しかし、日本ではないということははっきりと分かる。
どちらかというと、ドイツの民族的な村みたいな……中世のヨーロッパ的な雰囲気が流れている。

「人間じゃなくね?あいつら」

ワニのような顔(説明しにくいんだ)の奴や戦闘モノのコスプレのようなものをしている奴。
なんか分からないけど「召喚!」とか言ってる奴もいるし……。

本当に色々な人間(?)や設定で俺の思考回路はシャットダウンをしていた。

因みに、俺はというと、町にあるベンチに座って、ポテチとコーラを大切そうに抱えている。

……なんだ。なんなんだ。これ。

とりあえず今起きていることを整理したいのだが、生憎思考回路がシャットダウン改めログアウトしているのでとてもではないが考えられない。

「異世界召喚ってやつか?」

ようやく動き出したと思った脳はもう正常な判断が出来なくなっていた。
いや、異世界召喚!?確かに現実味を帯びてないしありえないかなとは思う。

しかし、先ほども言ったようにここは死後の世界だ。ありえなくもないかもしれない。

「すみません。ここの国ってなんて言う名前ですか?」
「あぁ?なんだぁ。兄ちゃん、旅人かぁ?」
「え、いや。まあ、そんなとこです」

ひとまず聞き込みを開始した。言葉は日本語で通じるらしい。でも、見渡す限りは日本語表記のものはない。
……読めない。ここから先結構困る気がする。

商店街にあった果物屋の店主にまず話を聞いてみた。

「ここはシェルター村だよ。世界の果てとも言われている」

店主は気さくな人らしく、丁寧に答えてくれた。

「シェルター村……」
「あぁ。シェルター村だよ。兄ちゃんはどっから来たんだ?」

え。これって日本です。って言って通じるやつ?それとも通じないやつ?
え、どうしよう。とりあえず言ってみるか……。自殺行為じゃん。

「に、日本です」
「は?日本?聞いたことねぇ村だな」

あ。やっぱり通じなかった。今更ながら後悔する。俺が硬直していると、店主は続けた。

「それかどっか小さな島みてぇなとこか?」
「あ、島です。小さい島」
「そうか。そんなとこからわざわざシェルターまで。長旅だっただろうな」

いや。長旅も何も死んで来たので。自分ではそんな長旅じゃなかったっす。……とはさすがに言えず。

丁寧に答えてくれた店主にお礼をいうと、どってことはない。
とにこやかに返してくれた。良い人だ。
立ち去ろうとすると、おい!と店主に呼び止められた。

「なんすか?」
「これは忠告つーかなんつーか。注意しろよって話なんだけどよ。ここらで道化師ピエロが出たって噂があるんだ。気をつけろよ」
「ピエロ?」
「あぁ?兄ちゃんそんなんもしらねぇで来たのか」

いやだから、目開けたらここだったんだよ。シェルター村とか意味分かんない村に飛んでたの!
その怒りを店主にみられないように必死に抑えた。

道化師ピエロつーのは、人の腹わたをえぐったり、首を狩ったりする捻くれ者だ。特に夜は出歩くな。気をつけたほうがいいぜ」

腹わたって……。物騒すぎるだろ。シェルター村。もう少し心穏やかに過ごせないのか。
しかし、困った。夜出歩くなと言われても家などないし、泊まれる場所も見当たらない。

「ここって泊まれる場所とかないんですか?」
「あぁ。ないぜ」
「……は?」
「だから、泊まれる場所はねぇんだよ。仕事して家建てるか、テントか。でも道化師ピエロはテントの中にいても入ってくるからな。まあ、兄ちゃん早めにこの村を出ることだな」

いや、そう言われても。どっから帰ればいいか分からないし。そんな適当過ぎる返答ならなんで呼び止めたんだよ。

「分かりました。ご忠告、ありがとうございます」

礼をして、果物屋を後にした。

てか、もう夕方じゃねぇか。送られてきた時間がどうやら昼過ぎだったらしい。ピエロとかなんとかにやられるかも……。これはガチでやばい。

「ねぇ、そこのお兄さん。少しマジックを見ていかないかい?」

あ、死亡フラグたった。

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