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33 シロリンと一緒に③~五日目
しおりを挟む五日目の早朝。
マリサは、シロリンが牽引するロバジイの荷車にロバジイと共に乗り、フルゥピュアの農地に向かっていた。
護衛を兼ね、ケビンとテオは公爵家管理のワイバーンで先導している。マリサ達の後ろから、魔術師二名と騎士三名が騎獣にて、更に村の長と司祭ミシェール、農地を管理する村人達が騎馬にて追いかけていく形だ。
今回のフルゥピュアの農地の視察(討伐後の農地の状態確認とマリサの浄化)任務にライアンは同行していない。
◇◇◆◇◇
昨夜、ロバジイ、ケビン、テオと話し合った後、皆で教会に戻ったライアンに提案をしたのだ。我々だけで農地を周らせて欲しいと。
ケビンとテオとロバジイは、ライアンの疲労を心配していた。
この世界に来て間もないマリサは、自分のこととシロリンのことだけで精一杯だった。だが、よく考えれば、ライアンは南の領地へ送る物資の手配のため、北の領地を駆けずり回っていたのだ。
マリサの呪文で治療と癒しを施してはいるが、精神的な休息はまた別の話だ。
『マリサ嬢はそれでいいのか?』
ライアンの探る様な金の瞳に一瞬焦ったが、この後、南の国境付近の戦地へ赴くライアンに、少しでも休んでほしいとマリサも思った。
『はい。ライアン様と皆さんのおかげで、フルゥピュア周辺の討伐は粗方済んだとのことですし、シロリンもいますから、差ほど不安はありません』
ロバジイが加勢する。
『まあ心配することはない。昨日はこの四人と一匹で、ここまで無事に辿り着けたんだ。それより、お前さんは働き過ぎだ。心配する部下のためにも、ちったぁ頭を空っぽにして休んだ方がいい』
過剰な魔素が瘴気となる。その魔素を生む元凶となる、ポイズンバッタを駆除したため、今後は、毒化により凶暴化した魔物の出ることはほぼなくなるだろう。
マリサは、直接の任務に関することに口出しすることは控えたが、僅かでも、ライアンに休んでもらいたかったし、モモの願いも叶えたかった。
『差し出がましいですが、どうか、少しでも休まれてください!』
テオが深々と頭を下げれば、
『お願いしますっ!』
ケビンも腰から直角に礼の姿勢をとった。
マリサも頷いた。
最後は、テオとケビンの懇願にライアンが折れる形となったのだった。
また、農地の視察を終えた後、ロバジイと共にマリサは北へ戻ることとなった。
⦅胸の奥が、なんだかちょっと重たいのはなぜかしら……⦆
その理由は分からないが、養護施設のモモとの約束は叶えられたのだ。
朝、モモが朝食を運んでくるなり、はち切れんばかりの笑顔を見せてくれた。
『いまね、ライアンさま、しせつのみんなと、いっしょにあさごはんたべるっていったの!』
『そう、じゃあ急がなきゃね』
『うん! マリサおねえさん、ありがとう。じゃあね!』
心の底からほっとして嬉しかったマリサだった。
マリサはそれでよしとして、考えるのをやめにした。
◇◇◆◇◇
一行は、最初に一番広大な農地へとやってきたところだった。見渡す限り何もない。モノクロの映画でも観ているような色のない世界だった。
「ああっ……」
畑に両手両膝をついた村人の肩が震えている。この農地を管理する者だという。
「なんてこった……」
「くそっ!」
他の村人達も、天を仰いだり、拳を地面に叩きつけたり、嗚咽を漏らす者もいた。
村長は苦い顔をしつつ、村人達を気遣うように宥めている。
司祭は一瞬険しい顔になったが、すぐさま膝をつき祈り始めた。
畑に足を踏み入れた年長の魔術師が、革手袋越しに、色褪せ乾ききった土を掬うが、パラパラと儚くこぼれ落ちる様に顔を曇らせた。
「ここが一番広大な農地です。昨日ポイズンバッタと共にやむなく畑も燃やしていますが、いやはや……」
テオもしゃがみ、端に僅かに燃え残っていた枯れたカミナリコムギを根元から抜いてマリサの元に戻ってきた。
「マリサ様、いかがでしょう?」
受け取ったマリサは手を翳し、
(オープン!)
と、念じてステータスを見た。
『不検出(品質)・カミナリコムギ イネ科・登熟期~成熟期 サイズ・並 毒化、立ち枯れ・収穫?済み』
「もうすぐ収穫だったのですね……」
皆、俯き押し黙ったままだ。
マリサは自分の言葉が少々虚しく響いてしまったことに気付き、気を取り直してぐっと手を握り締めた。
「さあ、浄化を始めましょう!」
昨日、女神に祈らずに、教会を中心にして、ほぼ村全体を浄化してしまったが、ここは郊外で、やらかし浄化の効果は薄いとマリサは感じていた。
悲惨な畑の状態からして複数の呪文が必要だろう。
マリサはまず浄化の女神サルースへ土壌の浄化を唱え、大地の女神オプスに、弱りきった大地へ活力を目覚めさせることを願い、水の女神ユートゥルナに、乾いた畑へ水の供給を祈った。
マリサが祈りを捧げる度に、畑がとりどりに輝いた。
皆や、慣れているであろうケビンとテオまで、干天の慈雨かのごとく打ち震え、拳を上げたり歓声をあげた。
パチパチパチパチ……。
拍手をしながらロバジイがマリサの元へやって来てニヤリと笑う。
「嬢ちゃん、魔力切れをおこすなよ」
(う……)
マリサは「そうですよねー」と、棒読みでアイテムボックスから魔力ポーションを取り出した。すると、今までロバジイの荷車前で寝そべっていたシロリンが「ワホッ」と立ち上がってやってきた。
目をキラキラさせて、ぐいぐいとマリサの脇を鼻先で押してくる。
「おっと……」
倒れそうになりぐっと両足を踏ん張る。
「ワフワフッ、ワフッ!」
「わかった、わかったよ」
シロリンの脇腹をポンポンして宥める。アイテムボックスから出すのはほとんどが食料なので、おやつを出したと思われたらしい。
期待するシロリンの瞳に弱いマリサは、火炎フレイム山鳩ダブの干し肉を取り出す。昨夜ロバジイからお裾分けに貰ったのだ。
たちまちシロリンがにっこり顔になる。
「はい、どうぞ」
マリサの方は、やけくそ気味にぐいっと魔力ポーションを飲み干した。
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