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34 シロリンと一緒に④~五日目
しおりを挟むマリサは、激ニガの魔力ポーションを、漢前に一気飲みした。
(うぐぐっ……。これ、一生慣れる気がしない)
マリサは、半ば強引に気を取り直して、アイテムボックスからライアンから預かっていたカミナリコムギの種を取り出した。蒔くのは、この種と、畑の端で燃え残り、浄化された種だ。
シロリンに跨ったマリサは、早速種を蒔きはじめる。
村人達が数本、兵士達が一人一本ほどの畝に種を蒔く間に、マリサはそれ以外の数十本の畝に蒔き終えていた。
瞬く間に蒔かれていく様子を目にした皆は、一瞬ポカンとした顔になり、その後ざわめきが広がった。
「本物だ」
「正に女神様の身業だ」
「女神様の申し子でいらっしゃるのだ」
ピューピューという口笛や拍手まで沸き起こっている。
(なんか、やりにくい……。けど、やるしかないわ)
マリサは広い農地の中央付近に佇んだ。
(よしっ、最後にもう一つ!)
そして、目を閉じて祈りを捧げた。
「豊穣の女神セレースさま、セレースさま、セレースさま、どうぞ、この畑全体に祝福をお与えください!」
マリサを中心にして、清涼なペパーミントグリーンの光のヴェールが、畑全体を包んでいった。
すると、畑の畝という畝が息をするようにじわじわもぞもぞと蠢きだした。
そして、淡い光がふっふっと弾けるように、黄緑色の芽が次々に顔を出していった。
「うわあっ、もう芽が出始めているぞ!」
「なんだこりゃ!」
「おおっ、女神様、ありがとうございます」
「マリサ様こそ、女神様なのではありませんか?」
村人達はそう言うなり跪き、マリサに向かって拝み始めた。
とっぴょうしもないことを言われ、その上拝まれて、慌てて首を横に振る。
「おやめください。私は、ただ女神様にお力添えいただいているだけですから!」
そう言いつつ、〝一方的に女神の力を借りている〟ことに改めて気付き、後ろめたさを覚えるマリサだった。
その時、真面目マリサが呆れ顔で出てきた。「まあ、今頃気付いたの? この先、女神様方の力が使える保障なんてないのに」次いで、新マリサが半目で呟く。「前に、女神様が見守って下さってるーなんて言ってたけど、それ、妄想入ってるヤバイやつじゃん。穴掘って今すぐ埋まった方がいいわ」
(ううっ……。なぜ、追い打ちをかけるようなことを……)
マリサはくらくらし始める。
(確かに、お前なんか知らないよってことも十分あるよね……)
直接女神から神託のようなものを受けた訳でも、声をかけられ、力を使うことの了解を得た訳でもないのだ。
(女神様方にしたら、ゲームの裏技という妙な呪文で勝手に力を使われちゃってるだけなのかも。天罰が下ったらどうするんだ、私……)
そろそろ女神達からお叱りを受けたり、力が使えなくなることが無いとも限らない。
マリサは自分の所業に、急に背筋が寒くなる。
遠い目をしていると、シロリンが心配げに顔を覗きこんでいた。
「……ごめんね、シロリン。あと少しだからね。浄化のお仕事が終わったら、一緒に帰ろうね」
シロリンにぎゅっと抱き着いて心を静めたマリサは、再び気を取り直して、伸び始めた芽に手をかざす。
(オープン!)
『-A(品質)・カミナリコムギ イネ科・出芽 サイズ・五分増し 光魔法(成長促進)により十四時間で収穫可能』
他の畝から顔を出した芽も、念のためにステイタス見をていくと、マリサは手を大きく振って合図した。
「皆さん、こちらに蒔いたものは、本日中に収穫ができます。品質は、いずれもAのマイナスとなります!」
せめて品質がマイナスは無しの「A」だったらと思っていると意外な声が上がった。
「おおーっ、ポイズンバッタの襲撃以前より品質が良くなってるじゃないか!」
「ありがたや」
「なんと! この畑は、B級の物しか収穫できなかったんですよ。しかも、蒔いたその日に収穫できるとは!」
村の長が頬を紅潮させ興奮気味に言った。
マリサはほっと息を吐いた。
この農地の視察兼、浄化が済めば、マリサはお役御免となって北の領地に戻ることになっている。
(せめて、今日の農地の浄化が済むまでは、女神様方、どうぞお力をお貸しください……)
切に祈るマリサだった。
「では、次に向かいましょう!」
マリサは声を張り上げた。
全員まだどよめいていたが、ライアン達が出立する時間までに、後三つほど農地を周らねばならない。
テオとケビンはこのままフルゥピュアに居残るが、他はライアンと共に南の領地へ赴くのだ。
(皆さん、戻って直ぐ出発じゃ大変だものね)
年長の魔術師が号令をかけ従魔に跨ると、皆も次々に従魔や馬に乗り、次の目的地へと動き出した。
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