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#5 精霊の森での穏やかな日々

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 キャンプ場で大きな地震に巻き込まれたはずが、どういうわけか異世界に聖女として召喚されてしまってから、一月ほどが経過した。

 追放された聖女として野心のために追われる身となって、一時はどうなることかと思ったけれど。

 心優しいルーカスさんのお陰と、偶然にもこちらの気候も同じく春だったことで、世界は違えど過ごしやすい環境に恵まれている。

 向こうの世界では、教育熱心な両親の所為で、厳しい門限や、口うるさい干渉があったけれど、それもなく、意外にも快適な暮らし心地だ。

 最初こそ、スマホどころか、電気も水道もないこの異世界の暮らしの不便さを嘆いたりもしたが、住めば都。

 優しいルーカスさんと陽気な小妖精とのんびりまったり田舎暮らしを満喫していた。

 といっても、ただお世話になっているのも肩身が狭い。

 なので聖女として召喚されたお陰で備わっていたらしいいわゆるチートな能力を利用し、現在私はフェアリーと一緒に薬草探しに勤しんでいるところだ。

  ルーカスさん曰く、聖女に召喚された際、授かっていたらしいチートな能力がまだまだ備わっているらしいが、それもここぞというときに発揮されるか、自然に目覚めるかのどちらからしい。

 少々まどろっこしい気もするがわくわくもしている。

 一体どんなパワーが秘められているのか、メチャクチャ楽しみだ。

 これまで平々凡々どころか勉強一色だったので、自分にそんなファンタジーなことが起こるなんて楽しみでしかない。

 とまぁ、そんな感じで、こちらでの暮らしをエンジョイしていた。

 今だって、薬草を探すのにもドキドキわくわくの連続だ。

「……なんだろう。濃い紫色のどんよりとした影のようなものが見えるから、毒草とかかな?」

 精霊の森に入ってすぐのところにあるルーカスさんの山小屋風の小さな家の近くには、綺麗な湖がある。

 その畔には、大きなモミの木があり、その根元には可憐な花々や多種多様な植物が自生している。

 名前などはわからないが、その草花からは、様々な色を放つオーラのようなものが放たれているように見えるのだが……。

 どうやら、その色がダークなものには毒性があり、明るく綺麗な色のものは、良薬または料理に重宝されているハーブの類いのものであるという区別ができるので、とても重宝している。

 そしてその精度が百発百中と非常に優れているので、樵だけでなく薬草を売って生計を立てているルーカスさんの助けになることができることが、居候の身としてはとても嬉しかった。

 ルーカスさんは、慣れない異世界なので、そんなことはしなくていいと言ってくれているのだが、いつまでも甘えてなどいられない。

 働かざる者食うべからず。

 ーーしっかり働いてルーカスさんの負担にならないようにしなくちゃ。

 とまぁ気合は充分だが……。

 今いる精霊の森は、邪妖精や魔物が棲んでいると聞いたためか、夜になるとうっそうと生い茂っている木々がざわめき、怪しい雰囲気を醸し出していて、見ているだけで怖さすら覚える。

 その様は、まるで富士山麓にある、自殺の名所として知られる富士樹海のようだ。

 けれど昼間は、そんな雰囲気など一切感じられない。

 召喚される間際までいたキャンプ場のような気がしてしまうほどに、とっても静かでのどかな場所だ。

 時折、旅人や商人が珍しい薬草を求めてやってくることもあるそうだが、無心になって薬草を探しているうち森の奥へと迷い込んで帰ってこられなくなる者もいるらしい。

 よって私もそんなことにならないようにということで、精霊の森に詳しいフェアリーととともに薬草探しに没頭しているのだった。

「ご名答。この薬草は邪妖精にとっては万能の薬草なんだけど、人には害になるの。さっすが聖女様~」

「もう、フェアリーったら、その聖女様っていうのやめてよ」

「ごめんごめん。そうだったわねぇ。ノゾミン」

「なになに? 二人してずいぶん楽しそうにして。ずるーい。僕も仲間に入れておくれよ~」

「なーにいってんのよ? 私たちはお仕事してるのよ。ピクシーの分担は薪割りでしょう? 働かざる者食うべからず。ちゃんと仕事しないと夕飯抜きにするわよ」

「……ケーチ。わかったよ」

 一月もすれば、ここの暮らしにも慣れて、小妖精のフェアリーやピクシーともすっかり打ち解けていた。

 特に同性であるフェアリーとは親友のような間柄となっている。

 そこへ、家の裏手で薪割りに勤しんでいた寂しがり屋のピクシーが加わったことで一気に賑やかになった。

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