いじわるドクター

羽村美海

文字の大きさ
上 下
46 / 201
episodo:6

#2

しおりを挟む
***

休憩時間間際の更衣室



「なになに、寝不足?」



朝からの工場の巡回を済ませ、


会社の更衣室で着替えていると、


開発室で新しい商品の試作品を作っていたであろう……優も着替えるためにやって来た。



私が眠そうに大きなアクビをしたのを見て。



意味ありげにうっすらと笑みを浮かべて、


顔を覗き込むようにして声を掛けてきた。



「……え、うん。ちょっとね…」





***




今朝は、


あの後…


海翔さんの部屋でシャワーを浴びて。



戻ると…


海翔さんが朝食の用意をしてくれていた。



簡単なものしか作れないとか言いながら、


プレーンオムレツと野菜たっぷりのスープを作ってくれた。



料理なんてしないっていうより、


料理なんてできないって思っていたのに……。



テーブルに並べられたものは、


どれも美味しそうな見映えだけじゃなくって。



とっても美味しかったことに、


軽くショックを受けてしまった。



神様って不公平だよね?


『天は二物を与えず』なんてよく言うけれど、


海翔さんには、二物も三物も与えてるんだから……。


それに比べ、


私はというと…


せめて片付けぐらいはって、思っていたのに。



仕事に行くのが遅くなるからしなくていい……って言われてしまい。



結局なんにもさせては貰えなかった。



海翔さんは、


気にするな……って言ってくれたんだけど。



海翔さんに与えて貰うばっかりじゃなくって…。



海翔さんのために少しでも、何かをしてあげたいって思っていたのに……。



今夜は、何か作って持ってってあげようかなぁ?



美味しいって言ってくれるかな?



どうしようかなぁ?



やっぱり、やめとこーかなぁ?



海翔さんとアパートの前で別れてから、


そんなことばっかりが頭の中を行ったり来たりを繰り返している。



***



「ねぇ、芽依。

ここ、例の獣医さんにつけられたの?」


「……え?」


「だ・か・ら、こーこ。

キスマークのことっ!」


「へ?」



私は、


朝のことを色々考えていて、


優がニヤニヤしながら言ってきた言葉にすぐには気づけなくて。



もう一度、


聞き返された言葉でやっと理解することになり、


驚いて変な声をあげてしまった。



そんな私に、


とどめをさすように、


ここ、ここって……人差し指で、


緩く髪を結っている近くのうなじをツン…とつつかれて。



またまた驚いてしまった私は、


びくん…と肩が跳ね上がってしまった。



「びっくりしたぁ!

み、見えてたんだね…」



うわぁ…最悪。


主任とかにも見られちゃってたかも……。



「うん、だって、幾つもついてるし。すごいね?こっちが恥ずかしいじゃんっ。もう!」



何やら恥ずかしそうに、


身体をクネクネさせながら、


頬を赤く染めた優にバシッと背中を叩かれてしまったけど……。


イッター!


って……痛がってる場合じゃないんだってばぁ!!



「うそっ?!そんなについてんの?」


「うっそー。1つだけだよっ!」



驚いて聞き返した私に、


面白そうに笑いながら…


悪びれもせずに言ってくる優に、


すかさず冷たい視線を送っておいた。


優には、全然…こたえてないみたいだったけど……。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

今更、いやですわ   【本編 完結しました】

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:617pt お気に入り:4,625

【R18】引きこもりだった僕が貞操観念のゆるい島で癒される話

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:610pt お気に入り:12

乙女ゲーム関連 短編集

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,526pt お気に入り:155

悪役令嬢が死んだ後

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,108pt お気に入り:6,140

貴方の『好きな人』の代わりをするのはもうやめます!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:5,999pt お気に入り:1,776

処理中です...