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#1 ビッチVSクズ男!?
#3
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ただそう言って疑問を口にしただけだったのに。
「ええッ!? 二人って同じ医大でしかも同期で、仲のいい同僚なのに。そんなことも知らなかったのッ!?」
おじさんからは、喚くような声とわざとらしいほどのオーバーリアクションを返されてしまった。
尚も、オマケとばかりに、余計な一言まで付け加えられる羽目にも。
「……いや、でも、大抵の医者なら知ってると思うんだけど」
そんなこと言われたって、知らないんだからしょうがないじゃない。知ってたら訊いたりしないし。
ーーそんなことより、私と窪塚が『仲のいい同僚』って、何おかしなこと言ってくれちゃってんの? バカなの? うん、バカなのね。
驚愕な表情で私のことを二度見した後で、おじさんが私と窪塚のことを見比べるようにして見やっている様子を絶対零度の冷視線で見上げていると。
おじさんの代わりに窪塚の方から言葉が返ってきた。
「……親父と比べられたりするのが嫌だったんで、ずっと伏せてありましたから。高梨が知らないのも無理ないですよ。なので、これまで通り、親父のことは伏せておいて下さい。お願いします」
言葉のニュアンスから、父親が有名な外科医であるらしいことは窺えたし。
どうやらおじさんが以前にも窪塚から父親のことを伏せておくように頼まれていたらしいのに、スッカリ忘れちゃってるらしいことには、親戚として恥ずかしかったし、心底呆れちゃったけど。
もう、ここまで話しちゃってるんだから、誰かくらい教えてくれたっていいんじゃないだろうか。
胸中で毒づいて、おじさんに改まって頭なんか下げちゃってる窪塚の後頭部を見下ろしつつ。
ーー禿げてしまえ。
なんて、念を送っていると、不意にある医学雑誌の特集記事の見開きにデカデカと掲載されていた、ある男性外科医の写真が脳裏に浮かび上がってきた。
それは、つい数時間前まで珍しい症例のことを詳しく調べていた時に、たまたま目にしたモノだ。
その男性外科医というのは、脳神経外科の権威で、いわゆる『神の手』を持つ天才外科医と巷で取り沙汰されている、確か名前が"窪塚|圭一"って言ってたような気が……って。
ーーええッ!? まさか、あの『神の手』が窪塚の父親!?
確かに、知的な印象の切れ長の漆黒の双眸もそうだし、スッと通った鼻筋に、スッキリと引き締まった顔の輪郭とかもよく似ている、ような気がしてきた。
やっぱりそうなんだ。あの『神の手』が窪塚の父親なんだ。
だから大学の教授にまで一目置かれてた訳だ。
……へぇ、なるほど。そうだったんだぁ。
でも、どうして今まで気づかなかったんだろう?
苗字が一緒どころか、一文字減ってるだけじゃん!
なんて安直なネーミング……イヤイヤ、それは別に自由だけどさ。
ーー私のバカバカ。普通、気づくでしょうが。
否、まさか、こんな身近にそんな凄い人の息子が居るなんて思わないじゃない。
そりゃ、そんな優秀な遺伝子持ってるんじゃ敵いっこないわ。
なんかちょっと、今まで募りに募ってたものもまるごとひっくるめて、溜飲が下りた気がする。
あまりの驚きに、脳内で一人大騒ぎしていたせいで、私の反応は、数十秒は遅れてしまっていたのだろう。
私を置き去りにして、二人の話は既に落ち着いていたようだった。
「いやぁ、まさか知らないなんてさぁ。同期だし、当然知ってると思ってたよ。本当にごめんね」
「いえ。高梨とは結構長い付き合いだし、言いふらしたりするような人間じゃないってことは知ってるので。気にしないでください」
「鈴ちゃん先生が親戚なもんだからさぁ、うっかりしてたよ」
「あぁ、そういえば、そうらしいですね」
ついさっきまで頭を下げていたはずの窪塚と入れ替わるように、今度はおじさんの方が謝っていたようだ。
それから、これまたおじさんにより、私との関係性もバラされていたようだったこと。
そのことをなぜか窪塚は既に知ってた風な口ぶりだったことも。
もう窪塚の父親のことしか眼中にない私は、そんなこともなにもかも頭の隅に追いやって、いきなり大きな声をあげてしまうのだった。
「ちょっ、ちょっと窪塚ッ! あんたの父親って、あのッ、神のッーー」
あろうことか、窪塚の父親の名前を暴露しかけた私のことを二人がギョッとしたように凝視した眼と、私の吃驚眼とがかち合うこと、おそらく数秒。
その次の瞬間には、私の口は血相変えて迫ってきた窪塚のゴッドハンドによって見事に封じ込まれていたのだった。
さすがは『神の手』と呼ばれている天才外科医の息子だけあって、実に見事な仕事っぷりだった。
ただでさえこの前のことがあって、顔を合わせるのが嫌で接近を避けてたっていうのに。
あの夜以来の急接近、急密着に、私の心臓は尋常じゃないスピードでフル稼働を始めてしまっている。
現在の状況を詳細に説明すると。
大きな柱の側面に背を向けていた私は、窪塚の身体に正面から覆い被さるようにして側面に押しやられて、口を大きな掌で覆われている私は、ギロリと睨みを利かせた切れ長の漆黒の双眸に見据えられて動くことさえままならない有様だ。
「ええッ!? 二人って同じ医大でしかも同期で、仲のいい同僚なのに。そんなことも知らなかったのッ!?」
おじさんからは、喚くような声とわざとらしいほどのオーバーリアクションを返されてしまった。
尚も、オマケとばかりに、余計な一言まで付け加えられる羽目にも。
「……いや、でも、大抵の医者なら知ってると思うんだけど」
そんなこと言われたって、知らないんだからしょうがないじゃない。知ってたら訊いたりしないし。
ーーそんなことより、私と窪塚が『仲のいい同僚』って、何おかしなこと言ってくれちゃってんの? バカなの? うん、バカなのね。
驚愕な表情で私のことを二度見した後で、おじさんが私と窪塚のことを見比べるようにして見やっている様子を絶対零度の冷視線で見上げていると。
おじさんの代わりに窪塚の方から言葉が返ってきた。
「……親父と比べられたりするのが嫌だったんで、ずっと伏せてありましたから。高梨が知らないのも無理ないですよ。なので、これまで通り、親父のことは伏せておいて下さい。お願いします」
言葉のニュアンスから、父親が有名な外科医であるらしいことは窺えたし。
どうやらおじさんが以前にも窪塚から父親のことを伏せておくように頼まれていたらしいのに、スッカリ忘れちゃってるらしいことには、親戚として恥ずかしかったし、心底呆れちゃったけど。
もう、ここまで話しちゃってるんだから、誰かくらい教えてくれたっていいんじゃないだろうか。
胸中で毒づいて、おじさんに改まって頭なんか下げちゃってる窪塚の後頭部を見下ろしつつ。
ーー禿げてしまえ。
なんて、念を送っていると、不意にある医学雑誌の特集記事の見開きにデカデカと掲載されていた、ある男性外科医の写真が脳裏に浮かび上がってきた。
それは、つい数時間前まで珍しい症例のことを詳しく調べていた時に、たまたま目にしたモノだ。
その男性外科医というのは、脳神経外科の権威で、いわゆる『神の手』を持つ天才外科医と巷で取り沙汰されている、確か名前が"窪塚|圭一"って言ってたような気が……って。
ーーええッ!? まさか、あの『神の手』が窪塚の父親!?
確かに、知的な印象の切れ長の漆黒の双眸もそうだし、スッと通った鼻筋に、スッキリと引き締まった顔の輪郭とかもよく似ている、ような気がしてきた。
やっぱりそうなんだ。あの『神の手』が窪塚の父親なんだ。
だから大学の教授にまで一目置かれてた訳だ。
……へぇ、なるほど。そうだったんだぁ。
でも、どうして今まで気づかなかったんだろう?
苗字が一緒どころか、一文字減ってるだけじゃん!
なんて安直なネーミング……イヤイヤ、それは別に自由だけどさ。
ーー私のバカバカ。普通、気づくでしょうが。
否、まさか、こんな身近にそんな凄い人の息子が居るなんて思わないじゃない。
そりゃ、そんな優秀な遺伝子持ってるんじゃ敵いっこないわ。
なんかちょっと、今まで募りに募ってたものもまるごとひっくるめて、溜飲が下りた気がする。
あまりの驚きに、脳内で一人大騒ぎしていたせいで、私の反応は、数十秒は遅れてしまっていたのだろう。
私を置き去りにして、二人の話は既に落ち着いていたようだった。
「いやぁ、まさか知らないなんてさぁ。同期だし、当然知ってると思ってたよ。本当にごめんね」
「いえ。高梨とは結構長い付き合いだし、言いふらしたりするような人間じゃないってことは知ってるので。気にしないでください」
「鈴ちゃん先生が親戚なもんだからさぁ、うっかりしてたよ」
「あぁ、そういえば、そうらしいですね」
ついさっきまで頭を下げていたはずの窪塚と入れ替わるように、今度はおじさんの方が謝っていたようだ。
それから、これまたおじさんにより、私との関係性もバラされていたようだったこと。
そのことをなぜか窪塚は既に知ってた風な口ぶりだったことも。
もう窪塚の父親のことしか眼中にない私は、そんなこともなにもかも頭の隅に追いやって、いきなり大きな声をあげてしまうのだった。
「ちょっ、ちょっと窪塚ッ! あんたの父親って、あのッ、神のッーー」
あろうことか、窪塚の父親の名前を暴露しかけた私のことを二人がギョッとしたように凝視した眼と、私の吃驚眼とがかち合うこと、おそらく数秒。
その次の瞬間には、私の口は血相変えて迫ってきた窪塚のゴッドハンドによって見事に封じ込まれていたのだった。
さすがは『神の手』と呼ばれている天才外科医の息子だけあって、実に見事な仕事っぷりだった。
ただでさえこの前のことがあって、顔を合わせるのが嫌で接近を避けてたっていうのに。
あの夜以来の急接近、急密着に、私の心臓は尋常じゃないスピードでフル稼働を始めてしまっている。
現在の状況を詳細に説明すると。
大きな柱の側面に背を向けていた私は、窪塚の身体に正面から覆い被さるようにして側面に押しやられて、口を大きな掌で覆われている私は、ギロリと睨みを利かせた切れ長の漆黒の双眸に見据えられて動くことさえままならない有様だ。
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