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#3 まさかの延長戦
#1
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途端に胸の鼓動が尋常じゃない早さで加速し始めてしまった。
そればかりか、今の今まで怒りに支配されていたのに、そんなものなどどこかに吹き飛び、それらと入れ替わるようにして、恐怖心にも似た感情が何処からともなく浮上してくる。
それは、ゆっくりと焦らすようにして迫ってきた窪塚の表情が、この前初めて目の当たりにした、欲情を滲ませた雄を彷彿とさせるものだったせいだ。
そのなんとも言えない妖艶さを纏った窪塚の姿をまざまざと見せつけられたら、否が応でも、窪塚が男だということを意識させられるのは勿論のこと。
いくら怒りに任せて抗ったところで、女である以上、男である窪塚には到底力では敵わないのだから、そりゃ怖くもなる。
その上、窪塚のそういう姿を見慣れていないせいもあって、窪塚が見知らぬ男のように見えてしまうからなおさらだ。
無意識に瞼をギュッと強く閉ざしてしまってた私の頬に、そうっと優しく撫でるようにして手を添えてきた窪塚。
不覚にも、ビクッと肩を震わせてしまった私に向けて、窪塚から思いの外優しい声音が降り注いだ。
「そんなに怖がるなよ。ちょっと強引だったかもしんねーけど、嫌がる女を無理矢理襲ったりする趣味なんてないから安心しろ」
その声に閉ざしていた瞼をゆっくりと上げて見ると、声音同様の優しい表情を湛えた窪塚の端正な顔が待っていて、ホッとすると共に怖さに萎縮してしまってた身体の力までもが不思議とスッと抜けていくような心地がする。
けれども、こんな状況だ。
『安心しろ』なんて言われても、心から安心なんてできるわけがない。
「そ、そんなこと言って油断させておいて、結局はいいように弄ぼうって魂胆なんでしょッ! 分かってんだからッ! このクズ男ッ!」
負け犬の遠吠えの如く威勢のいいことをほざいたところで、どうにもならないと分かっていながらも、これくらいのことしかできないのだから、本当に女っていうのは無力な生き物だ。
ーー今度生まれてくるなら、絶対に男がいい。
なんて、胸の内でこっそりと、叶うかどうかも分からないことを独り言ちていると、即座に窪塚の声が割り込んできた。
「弄ぶって、酷い言われようだな。まぁ、確かに酷いことしたって自覚はあるけどな。でも、さっきも言ったと思うけどさ。この前、慰めてくれた高梨には本当に感謝してる。だから、高梨のことも慰めてやりたいと思ってるんだ」
『慰めてやる』と言われても。
ーーはて、失恋なんてした覚えもないし、何を慰めると言うのだろうか?
窪塚の言葉の意図が汲み取れないため、頭の中を疑問符に覆い尽くされていく私の元に再び窪塚の声が届いた。
「やっぱり、あれだろ? この前、藤堂が教授の娘と結婚を前提に付き合ってるって聞いて、それで落ち込んで、ヤケになって飲み過ぎたんだろ?」
それがまた、寝耳に水だったものだから、少々驚きはしたが。でも、以前から、大学病院に勤めている友人らからも、そういうこともよくあることだと、ちょくちょく聞かされていたので。
ーーへぇ、そうなんだ。
元彼ではあったが、浅い付き合いだったので、それ以上の感情なんて湧いてなどこなかった。
まぁ、でも、ここでそんなことを言ってしまえば、色々とややこしくなりそうだし、処女だとバレても困るのでなんとか誤魔化すことにする。
「もう藤堂の名前は出さないでくれる? 余計惨めになるから聞きたくないッ!」
女として見られなかったことを思い出すのが嫌っていうのは本当なので、別に嘘ではない。
「へぇ、やっぱりそうだったんだな。分かった。なら、俺が藤堂のことなんか忘れさせてやるよ」
それなのに、酷く得心したような呟きを零した窪塚が、これまた意外なことを口にした。
藤堂のことをちゃんと説明してないのだから、窪塚が勘違いをしてることに関してはしょうがないにしても。
そのことで窪塚に同情される謂れなんてない。
「よ、余計なお世話よッ!」
瞬時に、何もかもを跳ね返すようにピシャリと放った言葉も。
「今更そんな風に虚勢なんて張らなくてもいいんじゃないか? って言っても無理だよな、俺のこと嫌いなんだし」
何やら知った風な口ぶりで、そう言ってきた窪塚には、まったくといっていいほど、堪えてなどいないようだ。
それが悔しくて、窪塚のことを忌々しげに睨みつけている私に対し、窪塚が続け様に。
「でも高梨の場合、普段とセックスしてる時との差がありすぎて、そういうギャップが堪らないんだよなぁ」
窪塚は懲りもせずに、厭らしい笑みを湛え、あの夜のことを仄めかすようなことを口にする。
そればかりか、今の今まで怒りに支配されていたのに、そんなものなどどこかに吹き飛び、それらと入れ替わるようにして、恐怖心にも似た感情が何処からともなく浮上してくる。
それは、ゆっくりと焦らすようにして迫ってきた窪塚の表情が、この前初めて目の当たりにした、欲情を滲ませた雄を彷彿とさせるものだったせいだ。
そのなんとも言えない妖艶さを纏った窪塚の姿をまざまざと見せつけられたら、否が応でも、窪塚が男だということを意識させられるのは勿論のこと。
いくら怒りに任せて抗ったところで、女である以上、男である窪塚には到底力では敵わないのだから、そりゃ怖くもなる。
その上、窪塚のそういう姿を見慣れていないせいもあって、窪塚が見知らぬ男のように見えてしまうからなおさらだ。
無意識に瞼をギュッと強く閉ざしてしまってた私の頬に、そうっと優しく撫でるようにして手を添えてきた窪塚。
不覚にも、ビクッと肩を震わせてしまった私に向けて、窪塚から思いの外優しい声音が降り注いだ。
「そんなに怖がるなよ。ちょっと強引だったかもしんねーけど、嫌がる女を無理矢理襲ったりする趣味なんてないから安心しろ」
その声に閉ざしていた瞼をゆっくりと上げて見ると、声音同様の優しい表情を湛えた窪塚の端正な顔が待っていて、ホッとすると共に怖さに萎縮してしまってた身体の力までもが不思議とスッと抜けていくような心地がする。
けれども、こんな状況だ。
『安心しろ』なんて言われても、心から安心なんてできるわけがない。
「そ、そんなこと言って油断させておいて、結局はいいように弄ぼうって魂胆なんでしょッ! 分かってんだからッ! このクズ男ッ!」
負け犬の遠吠えの如く威勢のいいことをほざいたところで、どうにもならないと分かっていながらも、これくらいのことしかできないのだから、本当に女っていうのは無力な生き物だ。
ーー今度生まれてくるなら、絶対に男がいい。
なんて、胸の内でこっそりと、叶うかどうかも分からないことを独り言ちていると、即座に窪塚の声が割り込んできた。
「弄ぶって、酷い言われようだな。まぁ、確かに酷いことしたって自覚はあるけどな。でも、さっきも言ったと思うけどさ。この前、慰めてくれた高梨には本当に感謝してる。だから、高梨のことも慰めてやりたいと思ってるんだ」
『慰めてやる』と言われても。
ーーはて、失恋なんてした覚えもないし、何を慰めると言うのだろうか?
窪塚の言葉の意図が汲み取れないため、頭の中を疑問符に覆い尽くされていく私の元に再び窪塚の声が届いた。
「やっぱり、あれだろ? この前、藤堂が教授の娘と結婚を前提に付き合ってるって聞いて、それで落ち込んで、ヤケになって飲み過ぎたんだろ?」
それがまた、寝耳に水だったものだから、少々驚きはしたが。でも、以前から、大学病院に勤めている友人らからも、そういうこともよくあることだと、ちょくちょく聞かされていたので。
ーーへぇ、そうなんだ。
元彼ではあったが、浅い付き合いだったので、それ以上の感情なんて湧いてなどこなかった。
まぁ、でも、ここでそんなことを言ってしまえば、色々とややこしくなりそうだし、処女だとバレても困るのでなんとか誤魔化すことにする。
「もう藤堂の名前は出さないでくれる? 余計惨めになるから聞きたくないッ!」
女として見られなかったことを思い出すのが嫌っていうのは本当なので、別に嘘ではない。
「へぇ、やっぱりそうだったんだな。分かった。なら、俺が藤堂のことなんか忘れさせてやるよ」
それなのに、酷く得心したような呟きを零した窪塚が、これまた意外なことを口にした。
藤堂のことをちゃんと説明してないのだから、窪塚が勘違いをしてることに関してはしょうがないにしても。
そのことで窪塚に同情される謂れなんてない。
「よ、余計なお世話よッ!」
瞬時に、何もかもを跳ね返すようにピシャリと放った言葉も。
「今更そんな風に虚勢なんて張らなくてもいいんじゃないか? って言っても無理だよな、俺のこと嫌いなんだし」
何やら知った風な口ぶりで、そう言ってきた窪塚には、まったくといっていいほど、堪えてなどいないようだ。
それが悔しくて、窪塚のことを忌々しげに睨みつけている私に対し、窪塚が続け様に。
「でも高梨の場合、普段とセックスしてる時との差がありすぎて、そういうギャップが堪らないんだよなぁ」
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