嘘つき同期ドクターの不埒な純愛ラプソディ。【改稿版】

羽村 美海

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#6 不埒な純愛 

#7

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 私のことを見下ろしている窪塚の漆黒の髪は、丁寧に乾かしてくれた私の髪とは違いタオルドライしただけだったせいで、僅かに湿り気を帯びている。

 そのせいか、いつも以上に色香を放っているように見えてしまう。

 髪の毛については、気兼ねした私の『こっちは適当でいいから自分の髪を乾かしなさいよ』という言葉に対して、『面倒臭いからいい。女にとって髪は命ってよく言うだろ。いいからじっとしてろ』そう言って窪塚が聞く耳を持たなかったからだ。

 そういう、細やかな気遣いだけでなく、世話焼きでもあるらしい窪塚からすれば、取るに足らない些細なことなのかもしれない。

 けれど、窪塚のことを好きだと自覚してしまった今となっては、これまでの情事とは違って、そういう様々な要素がどんどん上乗せされて、こんな風にイチイチ過剰反応を示してしまうのだから、本当に困ったもんだ。

 おそらく、ここが毎日窪塚が寝起きしているベッドの上であることと、さっきの思わせぶりな発言の後だから余計だろう。

 そんなこともあって、これから淫猥なことに及ぼうとしているっていうのに、この期に及んで、今にも見えそうな胸元を少しでも隠そうと身体の前でクロスさせた腕までがさっきからふるふると小刻みに震え始めてしまった。

 尋常じゃない緊張感に襲われて、無意識に瞼までギュッと閉ざしてしまっている。

 そんな私の頭上から、窪塚が零した笑みと、僅かに揶揄いを含んだ声音が降り注いだ。

「もう何度も抱き合ってるってのに、そんなに緊張するなよ。こっちまで緊張するだろ」

 言葉の割には余裕そうな窪塚の声にムッとして睨みつけようとカッと目を見開いたその先には、思いの外優しい表情を湛えている窪塚の端正な顔が待ち受けていたために、思わず息を呑み見蕩れてしまう。それを。

「どうした? ポーッとして。もしかして俺に見蕩れてんの?」

 すかさず、窪塚に実に愉しそうに指摘されてしまい。

「バッカじゃないのッ! 誰がアンタなんかに見蕩れるもんですかッ! こういうことに不慣れな私と違ってアンタがあんまり余裕そうだから、さぞかしこういうことに慣れてるんだろうなって感心してただけだしッ」

 いつもの如く売り言葉に買い言葉で応戦したまではよかったのだが。

「バーカ、俺だって緊張ぐらいするっての。今だってそうだし、オペの前だと食いもんが喉通んねーくらいだし。オペの後は逆に神経が昂ってどうしよーもねーしな」

 窪塚からこれまた予想に反した言葉が返ってきたものだから、私は窪塚のことを瞠目することしかできないでいる。

 確かに、オペの後は気持ちが昂ぶるとかっていうのは窪塚本人に聞いてはいたが、それ以外は初耳だったからだ。

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