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#7 寝ても醒めても
#11
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ちょうど一月前、初デートからの初めてのお泊まりの際に、これまた初めて窪塚の寝顔を拝んだのを入れると、今回が三度目のご対面となる。
一度目は、事故に遭遇して意識を失った私が窪塚のベッドで目を覚ましたときで、二度目は、窪塚の部屋で初めての朝を迎えて、窪塚と一緒に二度寝してしまったときのことだ。
ただのセフレでしかない私たちには、もうあんな風に一緒に部屋で過ごすことも、朝を迎えることも、もう二度とないんだと思っていた。
だからそのときのことを時間が経ってもちゃんと思い出せるように、しっかりと目に焼き付けていたのに。
まさか、三度目があるなんて、思いもしなかったし。こんな風に、また窪塚が運転する車の助手席に乗って、マンションにまで来ることになるなんて、思ってもみなかったことだった。
それなのに、今こうして、私の膝の上で寝落ちしてしまった窪塚の無防備な可愛らしい寝顔を誰にも邪魔されることなく眺めていられるなんて、本当に夢みたい。
幸いなことに、まだエンジンを切ったばかりで、車内の温度も快適な温度で保たれていて、もうしばらくはこのままでいられそうだ。
ーーもうずっとずっとずーっとこうしていられたらいいのになぁ。
そんなことを神にでも祈るような心持ちで密かに願いつつ、スヤスヤと気持ちよさそうに静かに眠り続けている窪塚のあどけない寝顔を堪能しながら、窪塚の頭をそうっと撫でていた時のことだ。
「……んんっ」
突如、くぐもった声を微かに漏らした窪塚が僅かに顔を顰めて身動ぎすると同時に、うっすらと目を開け、不思議そうにパチパチと何度か瞬いてから、ぼーっと覚束ない寝ぼけ眼で私のことを見上げてきた。
「……あ、あー、そっか。俺、寝落ちしてたのか。わりぃ」
ほんの数秒足らずで状況を把握したらしい窪塚がそう言ってくるなり、そのまま起き上がろうとしている。
医者という職業柄、睡眠不足なんて日常茶飯事で、短時間の仮眠でもすぐに動いたり、瞬時に頭を覚醒させる必要がある。
それらは常日頃から自ずと身についてしまった、いうなればスキルのようなものだ。
今日ほどそのことを恨めしいと思ったことはないかもしれない。
ーーあともう少しだけでいいからこうしていたい。
そんな想いに突き動かされてしまった私の手と口は無意識のうちに勝手に動いてしまう。
「眠いんでしょ? だったらもう少しこのままでいなさいよ」
今まさに起き上がろうとしている窪塚の肩をぐっと手で押しとどめるようにして引き留めてしまっていた。
まさか私がそんな行動に出るなんて夢にも思っていなかったのだろう窪塚は、虚を突かれたように瞠目したまま固まってしまっている。
ーーど、どうしよう。
勢いで引き留めちゃったけど、この後、どう言って取り繕えばいいのか、皆目見当がつかない。
このままでは窪塚のことを好きなことがバレてしまうんじゃないのかな。
そう案じて、焦れば焦るほどに、考えがまとまらないどころか、私の頭は混乱するばかりだ。
一度目は、事故に遭遇して意識を失った私が窪塚のベッドで目を覚ましたときで、二度目は、窪塚の部屋で初めての朝を迎えて、窪塚と一緒に二度寝してしまったときのことだ。
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だからそのときのことを時間が経ってもちゃんと思い出せるように、しっかりと目に焼き付けていたのに。
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「……んんっ」
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「……あ、あー、そっか。俺、寝落ちしてたのか。わりぃ」
ほんの数秒足らずで状況を把握したらしい窪塚がそう言ってくるなり、そのまま起き上がろうとしている。
医者という職業柄、睡眠不足なんて日常茶飯事で、短時間の仮眠でもすぐに動いたり、瞬時に頭を覚醒させる必要がある。
それらは常日頃から自ずと身についてしまった、いうなればスキルのようなものだ。
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ーーあともう少しだけでいいからこうしていたい。
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