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お見合い相手がまさかの推し⁉
①
人生何が起こるかわからない……とはよく言うけれど、それは本当に突然のことだった。
四月吉日。麗らかな春の昼下がり。
伯母の晴子曰く、今日はお日柄も良く、見合い日和にもってこいの爽やかな晴天に恵まれていた。
都心でも名だたる老舗ホテルとして知られている帝都ホテル。気品溢れるラウンジには、見合いに臨む杏璃同様、艶やかな振袖や上品な装いで着飾った女性の姿があちらこちらで見受けられる。
品よく姿勢を正している女性の正面には、クラシカルなスーツ姿の男性が腰を据え、にこやかな表情を浮かべて談笑に花を咲かせていた。
一般的に、静かに過ごすのがマナーであるラウンジは、見合いのために設計されているのかと思うほどに、隣の席との間隔がゆったりととられている。
会話の内容までは聞こえなくとも、笑い声が時折耳に流れ込んでくる。
(本当にお見合いだったんだぁ。ど、どうしよう? 緊張してきちゃった……)
結婚どころか、見合いですら現実味のまったくなかった杏璃だったが、リアルな見合い現場を目の当たりにした途端、緊張感に襲われてしまっていた。
それもこれも、せっかくのお見合いなんだから、と伯母に問答無用で着付けられてしまった振袖のせいだ。
きつく締められた帯のせいで、さっきから窮屈で仕方ない。
成人式で一度だけ袖を通して以来タンスの肥やし化していたものだ。
今の季節にピッタリな、薄桃色の振袖を見下ろしながら、ロイヤルミルクティーが注がれているカップに手を伸ばした。緊張を誤魔化そうと思ったのだ。だが手にしたところで、すぐ隣で控えていた伯母のスマートフォンがブルブルと震えだした。
「あら、お着きになったのかしら。はい。高邑杏璃の伯母の晴子でございます」
どうやら見合い相手の付き添い人からのようだ。
おそらく相手が到着したという報せなのだろう。
そう察した杏璃の緊張感は最高潮に達しつつあった。
次の瞬間、伯母の口から飛び出した大きな声に仰天した杏璃は危うくカップを取り落としそうになったが、なんとか難を逃れた。
「……え⁉ 来られない? 『見合いどころじゃなくなった』って……そ、それは、一体どういうことですのっ」
(もしかして、お見合いが破談になったのかな? だったら嬉しいけど。どうなんだろう……)
「そうですか。わかりました。ではそのように伝えますわね。ええ、ごきげんよう」
逸る気持ちを抑えつつ、杏璃は通話中の晴子の様子を静かに見守っていた。
ついさっきまで緊張感に苛まれておかしくなりそうだったのも忘れて、期待に胸を膨らませていた。だが杏璃の予想は、晴子からの思いがけない言葉によって呆気なく覆されることとなる。
通話を終えた晴子の話によると。
「実はね。先方は、以前から杏璃のことをご存じだったようで、この縁談に乗り気だったそうなの。けれど、スキャンダルが報じられて今日は来られないらしいのよ。でもこれまでも、もちろん今回も、まったく身に覚えがないんですって。おそらく相手にされなかった腹いせだろう……ですって。それを必ず証明してみせるから、日を改めて見合いの席を設けてほしい。そう仰っているのだけれど、どうかしら?」
噂とは違ってとても誠実な好青年であるらしく、家柄も見目も申し分のない掘り出し物だという。
そこに見合い写真で見た相手の姿が脳裏に浮かんでくる。
今をときめく人気俳優だけあって、目鼻立ちのはっきりとした華やかなイケメンだった。
残念ながら……杏璃が理想とする王子様キャラとは違い、彫りが深く凜々しい容貌は、王子を護衛する騎士を彷彿とさせる。
そんなイケメンが杏璃との縁談話を進めようとしていたなんて、驚きでしかない。
一方で、動揺しまくっていた。
スキャンダルが虚偽だと証明されれば、予定通りお見合いさせられた挙げ句に、結婚まで一直線に違いないからだ。
四月吉日。麗らかな春の昼下がり。
伯母の晴子曰く、今日はお日柄も良く、見合い日和にもってこいの爽やかな晴天に恵まれていた。
都心でも名だたる老舗ホテルとして知られている帝都ホテル。気品溢れるラウンジには、見合いに臨む杏璃同様、艶やかな振袖や上品な装いで着飾った女性の姿があちらこちらで見受けられる。
品よく姿勢を正している女性の正面には、クラシカルなスーツ姿の男性が腰を据え、にこやかな表情を浮かべて談笑に花を咲かせていた。
一般的に、静かに過ごすのがマナーであるラウンジは、見合いのために設計されているのかと思うほどに、隣の席との間隔がゆったりととられている。
会話の内容までは聞こえなくとも、笑い声が時折耳に流れ込んでくる。
(本当にお見合いだったんだぁ。ど、どうしよう? 緊張してきちゃった……)
結婚どころか、見合いですら現実味のまったくなかった杏璃だったが、リアルな見合い現場を目の当たりにした途端、緊張感に襲われてしまっていた。
それもこれも、せっかくのお見合いなんだから、と伯母に問答無用で着付けられてしまった振袖のせいだ。
きつく締められた帯のせいで、さっきから窮屈で仕方ない。
成人式で一度だけ袖を通して以来タンスの肥やし化していたものだ。
今の季節にピッタリな、薄桃色の振袖を見下ろしながら、ロイヤルミルクティーが注がれているカップに手を伸ばした。緊張を誤魔化そうと思ったのだ。だが手にしたところで、すぐ隣で控えていた伯母のスマートフォンがブルブルと震えだした。
「あら、お着きになったのかしら。はい。高邑杏璃の伯母の晴子でございます」
どうやら見合い相手の付き添い人からのようだ。
おそらく相手が到着したという報せなのだろう。
そう察した杏璃の緊張感は最高潮に達しつつあった。
次の瞬間、伯母の口から飛び出した大きな声に仰天した杏璃は危うくカップを取り落としそうになったが、なんとか難を逃れた。
「……え⁉ 来られない? 『見合いどころじゃなくなった』って……そ、それは、一体どういうことですのっ」
(もしかして、お見合いが破談になったのかな? だったら嬉しいけど。どうなんだろう……)
「そうですか。わかりました。ではそのように伝えますわね。ええ、ごきげんよう」
逸る気持ちを抑えつつ、杏璃は通話中の晴子の様子を静かに見守っていた。
ついさっきまで緊張感に苛まれておかしくなりそうだったのも忘れて、期待に胸を膨らませていた。だが杏璃の予想は、晴子からの思いがけない言葉によって呆気なく覆されることとなる。
通話を終えた晴子の話によると。
「実はね。先方は、以前から杏璃のことをご存じだったようで、この縁談に乗り気だったそうなの。けれど、スキャンダルが報じられて今日は来られないらしいのよ。でもこれまでも、もちろん今回も、まったく身に覚えがないんですって。おそらく相手にされなかった腹いせだろう……ですって。それを必ず証明してみせるから、日を改めて見合いの席を設けてほしい。そう仰っているのだけれど、どうかしら?」
噂とは違ってとても誠実な好青年であるらしく、家柄も見目も申し分のない掘り出し物だという。
そこに見合い写真で見た相手の姿が脳裏に浮かんでくる。
今をときめく人気俳優だけあって、目鼻立ちのはっきりとした華やかなイケメンだった。
残念ながら……杏璃が理想とする王子様キャラとは違い、彫りが深く凜々しい容貌は、王子を護衛する騎士を彷彿とさせる。
そんなイケメンが杏璃との縁談話を進めようとしていたなんて、驚きでしかない。
一方で、動揺しまくっていた。
スキャンダルが虚偽だと証明されれば、予定通りお見合いさせられた挙げ句に、結婚まで一直線に違いないからだ。
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