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第47話 “呪い”を超えて――
しおりを挟むアウリンの話を聞いたユークは、言葉を失っていた。
何か言わなければと思うのに、口をついて出てくる言葉が見つからない。
(……どう返せばいいんだ……? アウリンにかけるべき言葉が、どこにも見当たらない……)
「……その……髪の色が違うだけで、そんなに大騒ぎになるなんて……正直、俺にはちょっと想像がつかないよ……」
ようやく絞り出したその言葉は、無難で、当たり障りのないものだった。
通常、髪の色が違う男女から生まれた子供は、どちらかの髪色で生まれてくる。
だから兄弟で髪色が違う子供も、わりと多く見かけるのだ。
「そうでしょうね。上級ジョブを多く輩出している貴族であっても、ゴルド王家のようにはならないらしいから」
アウリンも静かに答える。
「……そっか……」
ユークは気まずさを覚えながら、言葉を切った。
会話が終わってしまったような、そんな沈黙が二人の間に流れる。
(……ダメだ。これじゃ話が終わっちゃう。何か……何か話さないと)
沈みゆく夕日が、地平線を赤く染めていた。
ユークとアウリンは並んでその光景を見つめている。
「……ゴルド王家って、やっぱりすごいんだね……」
その言葉は、ただ空白を埋めるためのものだった。
アウリンも、それを察していたのか、軽く首を振る。
「ゴルド王家が、というよりは……開祖の“剣聖”さまの血が特別なのよ。他の家に血が分けられても、何代かは赤い髪の剣士系ジョブに目覚める子供が生まれるって話だから」
「へえ~、それは……本当にすごいんだね……」
ユークは相づちを打ちながらも、心の中にひとつの疑問が生まれ始めていた。
(血……? じゃあ、アウリンは――)
「『呪われた子』ってさ……」
ふいに発したユークの言葉に、アウリンの肩がピクリと跳ねた。
その目が、驚きと――恐れに染まる。
彼女の瞳が怯えで揺れているのを、ユークはまだ気づかない。
「剣聖の血を持ってるのに、その才能が現れなかったから、そう呼ばれたんだよね?」
「……ええ、そう……」
アウリンは小さく頷いたが、その声は震えていた。
それでもユークは、その震えの意味を読み取ることができなかった。
彼は顎に指を当てて考えながら、淡々と話を続ける。
「でも、それってさ……単に“剣聖の血”よりも、アウリンの魔法の才能のほうが強かっただけなんじゃない……かな?」
「え……?」
アウリンがぽかんと口を開けた。
彼女の表情には、驚きと混乱が交じっている。
「そんなわけないじゃない! “剣聖”さまの血よ!? あの血筋が、他の才能に負けるなんてあり得ないわ!」
アウリンが迫真の表情で反論する。
「でもさ、アウリンの師匠って、すごい人なんでしょ? その血を受け継いでるわけだし……しかも、誰にも教わらずに魔法を覚えたって、それってとんでもない才能なんじゃない?」
ユークの声は冷静だった。
それが逆に、アウリンの心をざわつかせる。
「えっ? い、いや、それは……」
言い返そうとするが、考えがまとまらない。
アウリンは目を泳がせながら、言葉を探していた。
「そもそも、メイドをやっていた私の母親は、師匠の才能を継ぐことができなかったのよ!?」
アウリンが、母親がメイドになった背景を語る。
「うん。でも……それとアウリンの才能は別の話でしょ?」
ユークの声には、揺るぎがなかった。
一拍置いて、彼は続ける。
「ほら、アウリンの師匠もそうだし、ジルバさんも……突然才能に目覚めた人って、たまにいるじゃない? たとえばさ、師匠の才能を受け継いだうえで、アウリン自身に特別な才能があったら――“剣聖の血”を超えるのって、ありえないかな……?」
その言葉は、希望にも似た仮説だった。
「はあ!? あるわけないでしょ! それに私の魔法の腕なんて、大したことないってば!」
アウリンは思わず声を荒げた。
自分を過大評価されることに、むず痒さと戸惑いがあった。
「じゃあ、他に隠された魔法の才能があるとか……」
ユークは気にする様子もなく、さらに話を進める。
「な、なによ!? じゃあ言ってみなさいよ、そういう才能ってどんなの!?」
「えっ? ええ!? えーっと……」
いきなり詰め寄られ、ユークはあたふたとしながら必死に頭をひねる。
「……ほら、たとえば……複数の属性を同時に使えるとか……?」
思いつきに近いその言葉は、あまりにも無茶な内容だった。
「そんなの、あり得るわけないでしょ!」
アウリンは両手を腰に当てて叫ぶ。表情には呆れを通り越した怒りが浮かんでいた。
「『力のある言葉』の中でも基本となる『属性』のワードは、一緒に使うことなんてできないのよ!?」
そして、彼女は軽く詠唱する――
「《土》《火》……ほら? 何も起こらないでしょ!?」
ユークのほうを向いて怒鳴るアウリン。
だが、ユークは細かく瞬きをしながら、視点を固定していた。
「……?」
アウリンが不思議に思ったそのとき――ユークが震える指先でアウリンの横を指さした。
「なによ、何かあるって……?」
そこには、空中で燃え盛る石が浮かんでいた。
「……は、はぁ!?」
信じられないものを見たというように、アウリンの声が裏返る。次の瞬間、魔力が尽きたのか、燃える石はふっと消えた。
「「…………」」
二人は目を見合わせたまま、言葉を失っていた。
「『火』『土』」
試しにユークが同じワードを唱えてみる。だが、何も起こらず、魔力だけが消費される。
「「…………」」
無言のまま、アウリンに視線が向けられる。促されるように、彼女ももう一度唱えた。
「《土》《火》」
そして――再び、空中に燃える石が現れた。
「「え、ええええええええっ!?」」
驚愕の声が、二人の口から同時に飛び出した。
未だ混乱から抜けきれないアウリンに、ユークが嬉しそうに声をかける。
「やっぱり君は“呪われた子”なんかじゃない。君のその髪は……祝福の証なんだよ!」
そう言って、ユークはそっとアウリンの髪に触れた。青く短いその髪に、指先が優しく沈み込む。
「っ……!」
アウリンの肩がぴくりと跳ねた。
「あっ、ご、ごめん……! 勝手に触って……」
慌てて手を引こうとするユーク。だが、その袖をアウリンが小さく引き留めた。
「待って……違うの。あの、その……もっと、触っても……いいのよ?」
か細く、震える声でそう言うと、アウリンは恥ずかしそうにユークを見上げた。
「……じゃあ、触るよ?」
ユークは微笑みながら、もう一度彼女の髪へと手を伸ばした。
アウリンは目を閉じ、心地よさそうに微かに息を漏らす。
「……んっ」
彼女の髪型を崩さぬよう、そっと、慎重に、撫でるように指を滑らせるユーク。
「……アウリン」
「……ユーク」
だんだんと、お互いの唇の距離が縮まっていく――。
その様子を、薄い壁を隔てた向こう側で聞き耳を立てている者がいた。ジオードだ。
「……ふん」
腕を組み、不機嫌そうに鼻を鳴らすジオード。
「あの~。いいんですか~、アウリン様のこと……」
控えめな声で問いかけたのは、従者の女性であるシリカだった。
ジオードは答えることなく、背を向けて歩き出す。
「行くぞ」
「ま、待ってください~!」
慌てて小走りで彼の背を追うシリカ。
その背中越しに、ジオードは誰にも届かぬ声で、ぽつりと呟いた。
「……少しは、認めてやってもいいかもしれんな」
そのジオードの言葉は、誰にも届くことなく虚空へと消えていった。
◆◆◆
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ユーク(LV.20)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
備考:なんかいつもよりアウリンが可愛くみえる。
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
アウリン(LV.20)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
備考:どうしよう、すごくドキドキしてる……
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