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転生したらまさかのゴキブリだった
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ぼんやりとした光が差し込む、ここは狭い部屋?
それとも細い通路?
視界に入ったのは巨大な床。
なんだこれは?どこなんだ?
そのとき後ろから声がした。
「ちょっと、あんたこの家の公介さんだろ?」黒光りする生き物がこっちを見ていた。
ゴキブリだった。
「えっ⁉︎」
時間はかかったが理解ができた。
いいや、時間はかからなかった、自分の手足を見ればすぐわかる。
私はゴキブリになっていた。
「まぁ、びっくりするわなあ、今から説明するから落ち着いて聞いてくれや…」
そう言うと、そのゴキブリは話し始めた。
話は簡単で、私はどうやら昨年の3月に死んだらしい、もう一年以上が過ぎている、そしてゴキブリに転生したようだ。
私は目の前のゴキブリに「あなたも転生ですか?」そう聞いた。
「ああそうだ、かなり古い頃からだがな、生きていたら多分200歳ぐらいだな、わしは源吉だ、源でいいよ。公さん、そう呼ばせてもらうよ」そう言いながら、そのゴキブリがタバコを吸っていた。
「はい」「源さん、タバコ…ですか?」私が聞くと
「死んでもこれだけはやめられなくてねー」源さんは笑って言った。
「源さん、この家、私が住んでいた家ですよね」
「ああそうじゃよ」
源さんの言葉に私は決心した。
「私、家族に会ってきます」
源さんは慌てて、私の手を掴んで「公さん、アンタ正気か?今その格好で出て行っても『お父さん、おかえり』とは誰も言わないだろ」
「スリッパで叩かれるか、殺虫剤だぞ」
私は頭を抱えた。
「あんたの気持ちは分かるがのう…」
源さんは私の肩に手を置いて落ち着くように言った。
しばらく原さんと二人で壁にもたれて座っていた。
すると聞こえた!
「お母さん、式場行ってくるね」美桜の声だ。
「ええ、気をつけてね」由紀子の声だ。
「源さん、今の声、娘の美桜と妻の由紀子なんだ」
源さんは「知っとるよ。あと息子の幸太もな、それと来月は美桜の結婚式だ」
そうだ、美桜の結婚は、私が死ぬ前から決まっていたんだ。
私は全てを理解することができた。ただ呆然としていた。
すると源さんが「公さん、どうだ、飲みに行かないか?」
私が驚いて「飲みに??」聞き返すと、源さんは笑って、ついて来い、そんな顔で歩き出した。
細い入り組んだ隙間を、するすると抜けて外に出た。
源さんから、外に出たときの注意を受けた。
外に出たら、道の真ん中は歩かないこと。
いざとなったら飛んで逃げること。
そして飛び方を教えてもらった。
源さんの案内で行ったのは、近くの屋台だった。
ここでまた、注意があった。
食べるときは屋台に引っ付いて食べること、これは踏まれないためだ。
ビールを飲むときは必ず、倒れた缶にすること、缶を立てておく人がいるが、立てた缶に入ると出られなくなる。
説明を聞けば聞くほど、私は自分が情けなくなった。
私も以前は、会社帰りに仲間と一緒に飲んだ、屋台にも行ったりした。
だが、今の私はゴキブリだ…。
「転生」聞いたことのある言葉だが、どうしてよりによってゴキブリ…。
すると源さんが「公さん、今あんたが考えていること、分かるよ。わしも思ったさ、なんでゴキブリだ…せめて人間の身近な犬とか猫になりたかった…ってな」
「だが、今は気楽でいいと思っているよ」
源さんは笑った。
そして源さんは言った、「昔、知り合いで猫に転生した人がいてな、初めは良かったらしい、だが、転生した者は死なないからな、長生きしすぎるって、化け猫だの、不吉な猫だって大騒ぎさ、次の日『出ていくことにしたよ』って言ってどこかに行ってしまったよ」
そして源さんは、ビールを「ゴクリ」と一口飲んで、「その点、わしらはその心配はない。
どのゴキブリを見ても人間には同じに見えるからな、それによく見てみろよ、この黒光り、なかなかだぜ」私は源さんの言葉を受け入れるしかないのか…いや、なかなか自分をゴキブリと認めるのは難しい。
私はこの日、人生初のやけ酒を飲んだ。
どれだけ飲んだか、どうやって帰ったかも覚えていない。
源さんが連れて帰ってくれたようだ。
次の日、薄暗い床下で目を覚ました。
「源さん、おはようございます」私が言うと「公さん、もう昼過ぎだぜ」と、源さんは笑っていた。
薄暗い床下は源さんが住んでいる部屋らしい。
食料もいくらか貯めてあって、部屋は綺麗だった。
源さんはきれい好きなようだ。
「公さん、外を見てみなよ、美桜が外に出ているよ」
私もすぐに隙間から外を見ると、美桜が庭掃除をしていた。
「美桜…」そう思っていると、一人の男が美桜に近づいてきた。
「こんにちは、こちらのお嬢さんですか?私、こういう者ですが…」
どうやら、セールスマンだ。
美桜がどんなに断っても、奴は帰らない。
「おい、やめろ、美桜が困っているだろ!」
私が言うと、源さんが「そこで言っても無駄だ、いくぞ公さん」そう言って源さんは飛び出した。
私も飛び出し、その男を目掛けて飛びついた。
男は「わーっ、なんだ、あっ、ゴキブリ」
男は私をはらいのけた。
そのはずみで、私は男の足元に落ちてしまった。
「こいつ~」
男が私を踏みつけようとしたとき、「やめろー」そう言って源さんが男の顔に飛びついた。
男は、「なんだ、ゴキブリどんだけいるんだよ!」
そう言って逃げて帰った。
源さんが「公さん、大丈夫か?」そう言ってきてくれたときには、もう美桜の姿はなかった。
仕方ない、今の私の姿はゴキブリなんだから…。
その夜、美桜は母親と幸太に昼間の話をしていた。
美桜は「お母さん、この家、ゴキブリ多いのかなぁ、『一匹いたら千匹いると思え』なんて言うでしょ…」心配そうに言っていた。
それを聞いた幸太が「でも、ゴキブリに助けられたんだろ、それに、もしかしてお父さんがゴキブリになって助けに来たのかもしれないよ」と笑った。
美桜は「えーっ、お父さんゴキブリなの…」
私は源さんと顔を見合わせた。
「幸太はなかなか鋭いなぁ」と源さんは笑っていたが、私の頭からは美桜の言葉が離れなかった。
「公さん、分かるよ。わしも似たようなことがあってな…」源さんがふと、寂しそうな顔をした。
「源さんも?」私が聞くと、
「ああ、孫が鞠つきをして遊んでいたとき、その鞠が近くの池に落ちてな、わしがどうにかしようと思って、飛んで行って鞠に飛び乗ったんじゃよ、そしたら孫がそれ以上に泣き出してな、大切な鞠に虫が乗った、と言って大泣きされたよ…」
源さんは遠くを見るようにして苦笑いしていた。
私は源さんに言った。
「源さん、源さんは生きていたら二百歳ぐらいって言っていたけれど、私が子供の頃からずーっといたんですよね、源さんは私のご先祖様なんですね」
「そうだな、公さんが子供の頃からいたよ、もちろん先祖っていうことになるな」
私は源さんと話していくうちに、源さんがいてくれて良かった。
ゴキブリだったから、さっきの男も追っ払えた。
多分ゴキブリで良かったんだ。
私は自分にそう言い聞かせた。
そこで私は源さんに相談をした。
息子の幸太が以前ラーメン屋のバイトで理不尽な扱いを受けたことを話した。
残業代の未払い、残業してるのに定時でタイムカードを切るように指示される、休憩時間がない。
すると、源さんが「わかった、公さん行くぞ」そう言って出かけた。
「ここじゃな」源さんが立ち止まったのは、あのラーメン屋の前だった。
だがラーメン屋は閉店していた。
「俺たちの出番はなかったな」源さんはそう言うと閉まった自動ドアにへばりついて中を見た。
私も源さんの側まで行って中を見た。
店の中は、がらーんとしていた。
仕方ない、何もできないまま帰った。
私が源さんと出会って、早いもので、一カ月が過ぎた。
明日は美桜の結婚式だった。
私は、また源さんと飲みにでた。
「源さん、花嫁の父なんて寂しいねぇ」
「それも、花嫁の父がゴキブリなんて…聞いたこともないよ、なっ、源さん…」
「源さん、私はねえ…」今度は涙が止まらなくなった。
私は一人ぐちったり、泣いたりしていた。
源さんは傍で「ああ、公さん分かるよ、だが公さん、明日は美桜の結婚式に行くんじゃろ、そろそろ帰らないと明日結婚式に行けないぞ」
源さんに諭されて帰ることにした。
結婚式、美桜は純白のウエディングドレスを着ていた、綺麗な花嫁だった。
私から見た美桜はちょっとした雪山みたいだった。それでも美桜は可愛い綺麗な花嫁だ。
私と源さんから見ると、美桜に限らず全てが大きい。
沢山の大きな靴が、私と源さんの目の前を行き交う。
踏まれないように隙間に隠れた。
バージンロードは私の代わりに幸太が歩いていた。
バージンロードを歩く美桜と幸太を見ていると私は胸がいっぱいになった。
幸太が誇らしかった、幸太ありがとう。
ウエディングケーキ入刀では、思わず美桜の近くまで行っていた。
「公さん、前に出過ぎたら見つかるぞ…」
源さんの声も届かなかった。
ファーストバイトでは、私も拍手をしようとして、ガサガサしてしまい、「あっ、ゴキブリだ」近くにいた子どもが声を上げた。
周りは「ゴキブリだ捕まえろ…」
「あっちに行ったぞ…」とんでもない騒ぎになってしまった。
しまった!隅っこに追いやられた。
そのとき「ゴキブリこっちにもいるぞぉ」
源さんだ、私を助けるためにおとりになってくれた。
「公さん、飛べ!」源さんの声が聞こえた。
私と源さんは、また部屋の隙間に隠れた。
源さんは、両手にウエディングケーキのクリームをいっぱい付けてきた。
ファーストバイトのスプーンに残っていたクリームらしい。
「公さん、おめでとう。美桜のウエディングケーキだ、食べよう」そう言って源さんの手についたクリームを二人で食べた。
「美桜、美味しいよ。こんな美味しいケーキ初めてだよ…美桜…」
結婚式の帰り、私は源さんに言った。「源さん、さっき飛んで逃げたとき、美桜と目があった気がするんだよ」
源さんは、ちょっと笑って「本当かい?だけど…わしらはゴキブリだからな…」と、期待を持たせる言い方はしなかった。
事実ゴキブリだし、せっかくの結婚式を騒がせてしまった。
その日の夜も私は源さんと飲みに出た。
私は、美桜と一度は死という形で別れているのに、今は娘を嫁にやった寂しさが押し寄せてきた。
だが、「旦那と仲良く幸せになれよ」と言う気持ちが強い。
どう思っても、美桜には届かない…。
所詮私はゴキブリだ。
今更のように、私は自分の手足を再確認してしまった…。
一週間ほどして美桜が新婚旅行から帰ってきたとき、美桜たちが居間で話をしているのが聞こえた。「結婚式のときにゴキブリがいたでしょ、あのゴキブリが飛んだとき…私ゴキブリと目が合った気がするの…」と言った。
美桜の言葉を聞いて、私と源さんは驚いて顔を見合わせた!
由紀子が「ゴキブリの目、分かるの…?」不思議そうに言った。
幸太が「やっぱりお父さんじゃないの?結婚式に参加したかったんだよ」そう言って笑った。
美桜と由紀子が「でも、ゴキブリじゃなくても…ねぇ…」と、やや不満そうに言った。
だが、その後美桜が「でも…もしも、お父さんがゴキブリになっているのなら、それでも良いって思えてきた…」
「しつこいセールスマンを追い払ってくれたり、私の結婚式に来てくれたり、だからお父さんがゴキブリならそれでもいい」
そして美桜は「お父さん、聞こえる?ありがとう。でも無理したらダメだよ、危ないからね」
私は美桜の言葉に涙が止まらなかった。
そして源さんが「公さん、良かったな、本当に良かった」そう言って源さんも泣いていた。
私は、転生してゴキブリになったが、初めは受け入れることができなかった。
だが、今はゴキブリで良かったと思っている。
ゴキブリになったから、ご先祖の源さんに出会えた。
源さんは私が泣くと、「公さん、最近泣いてばかりだぞ、そんなに泣いてたら脱水してしまうぞ。わしらは体が小さいんだからな」と笑った。
そして「公さん、水分補給に行くか…」源さんはそう言って、細い入り組んだ隙間をするすると抜けて外に出た。
そして二人で屋台へ出かけた。
それとも細い通路?
視界に入ったのは巨大な床。
なんだこれは?どこなんだ?
そのとき後ろから声がした。
「ちょっと、あんたこの家の公介さんだろ?」黒光りする生き物がこっちを見ていた。
ゴキブリだった。
「えっ⁉︎」
時間はかかったが理解ができた。
いいや、時間はかからなかった、自分の手足を見ればすぐわかる。
私はゴキブリになっていた。
「まぁ、びっくりするわなあ、今から説明するから落ち着いて聞いてくれや…」
そう言うと、そのゴキブリは話し始めた。
話は簡単で、私はどうやら昨年の3月に死んだらしい、もう一年以上が過ぎている、そしてゴキブリに転生したようだ。
私は目の前のゴキブリに「あなたも転生ですか?」そう聞いた。
「ああそうだ、かなり古い頃からだがな、生きていたら多分200歳ぐらいだな、わしは源吉だ、源でいいよ。公さん、そう呼ばせてもらうよ」そう言いながら、そのゴキブリがタバコを吸っていた。
「はい」「源さん、タバコ…ですか?」私が聞くと
「死んでもこれだけはやめられなくてねー」源さんは笑って言った。
「源さん、この家、私が住んでいた家ですよね」
「ああそうじゃよ」
源さんの言葉に私は決心した。
「私、家族に会ってきます」
源さんは慌てて、私の手を掴んで「公さん、アンタ正気か?今その格好で出て行っても『お父さん、おかえり』とは誰も言わないだろ」
「スリッパで叩かれるか、殺虫剤だぞ」
私は頭を抱えた。
「あんたの気持ちは分かるがのう…」
源さんは私の肩に手を置いて落ち着くように言った。
しばらく原さんと二人で壁にもたれて座っていた。
すると聞こえた!
「お母さん、式場行ってくるね」美桜の声だ。
「ええ、気をつけてね」由紀子の声だ。
「源さん、今の声、娘の美桜と妻の由紀子なんだ」
源さんは「知っとるよ。あと息子の幸太もな、それと来月は美桜の結婚式だ」
そうだ、美桜の結婚は、私が死ぬ前から決まっていたんだ。
私は全てを理解することができた。ただ呆然としていた。
すると源さんが「公さん、どうだ、飲みに行かないか?」
私が驚いて「飲みに??」聞き返すと、源さんは笑って、ついて来い、そんな顔で歩き出した。
細い入り組んだ隙間を、するすると抜けて外に出た。
源さんから、外に出たときの注意を受けた。
外に出たら、道の真ん中は歩かないこと。
いざとなったら飛んで逃げること。
そして飛び方を教えてもらった。
源さんの案内で行ったのは、近くの屋台だった。
ここでまた、注意があった。
食べるときは屋台に引っ付いて食べること、これは踏まれないためだ。
ビールを飲むときは必ず、倒れた缶にすること、缶を立てておく人がいるが、立てた缶に入ると出られなくなる。
説明を聞けば聞くほど、私は自分が情けなくなった。
私も以前は、会社帰りに仲間と一緒に飲んだ、屋台にも行ったりした。
だが、今の私はゴキブリだ…。
「転生」聞いたことのある言葉だが、どうしてよりによってゴキブリ…。
すると源さんが「公さん、今あんたが考えていること、分かるよ。わしも思ったさ、なんでゴキブリだ…せめて人間の身近な犬とか猫になりたかった…ってな」
「だが、今は気楽でいいと思っているよ」
源さんは笑った。
そして源さんは言った、「昔、知り合いで猫に転生した人がいてな、初めは良かったらしい、だが、転生した者は死なないからな、長生きしすぎるって、化け猫だの、不吉な猫だって大騒ぎさ、次の日『出ていくことにしたよ』って言ってどこかに行ってしまったよ」
そして源さんは、ビールを「ゴクリ」と一口飲んで、「その点、わしらはその心配はない。
どのゴキブリを見ても人間には同じに見えるからな、それによく見てみろよ、この黒光り、なかなかだぜ」私は源さんの言葉を受け入れるしかないのか…いや、なかなか自分をゴキブリと認めるのは難しい。
私はこの日、人生初のやけ酒を飲んだ。
どれだけ飲んだか、どうやって帰ったかも覚えていない。
源さんが連れて帰ってくれたようだ。
次の日、薄暗い床下で目を覚ました。
「源さん、おはようございます」私が言うと「公さん、もう昼過ぎだぜ」と、源さんは笑っていた。
薄暗い床下は源さんが住んでいる部屋らしい。
食料もいくらか貯めてあって、部屋は綺麗だった。
源さんはきれい好きなようだ。
「公さん、外を見てみなよ、美桜が外に出ているよ」
私もすぐに隙間から外を見ると、美桜が庭掃除をしていた。
「美桜…」そう思っていると、一人の男が美桜に近づいてきた。
「こんにちは、こちらのお嬢さんですか?私、こういう者ですが…」
どうやら、セールスマンだ。
美桜がどんなに断っても、奴は帰らない。
「おい、やめろ、美桜が困っているだろ!」
私が言うと、源さんが「そこで言っても無駄だ、いくぞ公さん」そう言って源さんは飛び出した。
私も飛び出し、その男を目掛けて飛びついた。
男は「わーっ、なんだ、あっ、ゴキブリ」
男は私をはらいのけた。
そのはずみで、私は男の足元に落ちてしまった。
「こいつ~」
男が私を踏みつけようとしたとき、「やめろー」そう言って源さんが男の顔に飛びついた。
男は、「なんだ、ゴキブリどんだけいるんだよ!」
そう言って逃げて帰った。
源さんが「公さん、大丈夫か?」そう言ってきてくれたときには、もう美桜の姿はなかった。
仕方ない、今の私の姿はゴキブリなんだから…。
その夜、美桜は母親と幸太に昼間の話をしていた。
美桜は「お母さん、この家、ゴキブリ多いのかなぁ、『一匹いたら千匹いると思え』なんて言うでしょ…」心配そうに言っていた。
それを聞いた幸太が「でも、ゴキブリに助けられたんだろ、それに、もしかしてお父さんがゴキブリになって助けに来たのかもしれないよ」と笑った。
美桜は「えーっ、お父さんゴキブリなの…」
私は源さんと顔を見合わせた。
「幸太はなかなか鋭いなぁ」と源さんは笑っていたが、私の頭からは美桜の言葉が離れなかった。
「公さん、分かるよ。わしも似たようなことがあってな…」源さんがふと、寂しそうな顔をした。
「源さんも?」私が聞くと、
「ああ、孫が鞠つきをして遊んでいたとき、その鞠が近くの池に落ちてな、わしがどうにかしようと思って、飛んで行って鞠に飛び乗ったんじゃよ、そしたら孫がそれ以上に泣き出してな、大切な鞠に虫が乗った、と言って大泣きされたよ…」
源さんは遠くを見るようにして苦笑いしていた。
私は源さんに言った。
「源さん、源さんは生きていたら二百歳ぐらいって言っていたけれど、私が子供の頃からずーっといたんですよね、源さんは私のご先祖様なんですね」
「そうだな、公さんが子供の頃からいたよ、もちろん先祖っていうことになるな」
私は源さんと話していくうちに、源さんがいてくれて良かった。
ゴキブリだったから、さっきの男も追っ払えた。
多分ゴキブリで良かったんだ。
私は自分にそう言い聞かせた。
そこで私は源さんに相談をした。
息子の幸太が以前ラーメン屋のバイトで理不尽な扱いを受けたことを話した。
残業代の未払い、残業してるのに定時でタイムカードを切るように指示される、休憩時間がない。
すると、源さんが「わかった、公さん行くぞ」そう言って出かけた。
「ここじゃな」源さんが立ち止まったのは、あのラーメン屋の前だった。
だがラーメン屋は閉店していた。
「俺たちの出番はなかったな」源さんはそう言うと閉まった自動ドアにへばりついて中を見た。
私も源さんの側まで行って中を見た。
店の中は、がらーんとしていた。
仕方ない、何もできないまま帰った。
私が源さんと出会って、早いもので、一カ月が過ぎた。
明日は美桜の結婚式だった。
私は、また源さんと飲みにでた。
「源さん、花嫁の父なんて寂しいねぇ」
「それも、花嫁の父がゴキブリなんて…聞いたこともないよ、なっ、源さん…」
「源さん、私はねえ…」今度は涙が止まらなくなった。
私は一人ぐちったり、泣いたりしていた。
源さんは傍で「ああ、公さん分かるよ、だが公さん、明日は美桜の結婚式に行くんじゃろ、そろそろ帰らないと明日結婚式に行けないぞ」
源さんに諭されて帰ることにした。
結婚式、美桜は純白のウエディングドレスを着ていた、綺麗な花嫁だった。
私から見た美桜はちょっとした雪山みたいだった。それでも美桜は可愛い綺麗な花嫁だ。
私と源さんから見ると、美桜に限らず全てが大きい。
沢山の大きな靴が、私と源さんの目の前を行き交う。
踏まれないように隙間に隠れた。
バージンロードは私の代わりに幸太が歩いていた。
バージンロードを歩く美桜と幸太を見ていると私は胸がいっぱいになった。
幸太が誇らしかった、幸太ありがとう。
ウエディングケーキ入刀では、思わず美桜の近くまで行っていた。
「公さん、前に出過ぎたら見つかるぞ…」
源さんの声も届かなかった。
ファーストバイトでは、私も拍手をしようとして、ガサガサしてしまい、「あっ、ゴキブリだ」近くにいた子どもが声を上げた。
周りは「ゴキブリだ捕まえろ…」
「あっちに行ったぞ…」とんでもない騒ぎになってしまった。
しまった!隅っこに追いやられた。
そのとき「ゴキブリこっちにもいるぞぉ」
源さんだ、私を助けるためにおとりになってくれた。
「公さん、飛べ!」源さんの声が聞こえた。
私と源さんは、また部屋の隙間に隠れた。
源さんは、両手にウエディングケーキのクリームをいっぱい付けてきた。
ファーストバイトのスプーンに残っていたクリームらしい。
「公さん、おめでとう。美桜のウエディングケーキだ、食べよう」そう言って源さんの手についたクリームを二人で食べた。
「美桜、美味しいよ。こんな美味しいケーキ初めてだよ…美桜…」
結婚式の帰り、私は源さんに言った。「源さん、さっき飛んで逃げたとき、美桜と目があった気がするんだよ」
源さんは、ちょっと笑って「本当かい?だけど…わしらはゴキブリだからな…」と、期待を持たせる言い方はしなかった。
事実ゴキブリだし、せっかくの結婚式を騒がせてしまった。
その日の夜も私は源さんと飲みに出た。
私は、美桜と一度は死という形で別れているのに、今は娘を嫁にやった寂しさが押し寄せてきた。
だが、「旦那と仲良く幸せになれよ」と言う気持ちが強い。
どう思っても、美桜には届かない…。
所詮私はゴキブリだ。
今更のように、私は自分の手足を再確認してしまった…。
一週間ほどして美桜が新婚旅行から帰ってきたとき、美桜たちが居間で話をしているのが聞こえた。「結婚式のときにゴキブリがいたでしょ、あのゴキブリが飛んだとき…私ゴキブリと目が合った気がするの…」と言った。
美桜の言葉を聞いて、私と源さんは驚いて顔を見合わせた!
由紀子が「ゴキブリの目、分かるの…?」不思議そうに言った。
幸太が「やっぱりお父さんじゃないの?結婚式に参加したかったんだよ」そう言って笑った。
美桜と由紀子が「でも、ゴキブリじゃなくても…ねぇ…」と、やや不満そうに言った。
だが、その後美桜が「でも…もしも、お父さんがゴキブリになっているのなら、それでも良いって思えてきた…」
「しつこいセールスマンを追い払ってくれたり、私の結婚式に来てくれたり、だからお父さんがゴキブリならそれでもいい」
そして美桜は「お父さん、聞こえる?ありがとう。でも無理したらダメだよ、危ないからね」
私は美桜の言葉に涙が止まらなかった。
そして源さんが「公さん、良かったな、本当に良かった」そう言って源さんも泣いていた。
私は、転生してゴキブリになったが、初めは受け入れることができなかった。
だが、今はゴキブリで良かったと思っている。
ゴキブリになったから、ご先祖の源さんに出会えた。
源さんは私が泣くと、「公さん、最近泣いてばかりだぞ、そんなに泣いてたら脱水してしまうぞ。わしらは体が小さいんだからな」と笑った。
そして「公さん、水分補給に行くか…」源さんはそう言って、細い入り組んだ隙間をするすると抜けて外に出た。
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そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
悪役令息の継母に転生したからには、息子を悪役になんてさせません!
水都(みなと)
ファンタジー
伯爵夫人であるロゼッタ・シルヴァリーは夫の死後、ここが前世で読んでいたラノベの世界だと気づく。
ロゼッタはラノベで悪役令息だったリゼルの継母だ。金と地位が目当てで結婚したロゼッタは、夫の連れ子であるリゼルに無関心だった。
しかし、前世ではリゼルは推しキャラ。リゼルが断罪されると思い出したロゼッタは、リゼルが悪役令息にならないよう母として奮闘していく。
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