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こんな予定じゃなかったのになんかこうなってしまった。

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えっちな漫画を描いて15年。
エロ漫画大好き、エロ漫画最高。
エロは人類の宝。

今は昔、江戸のこと、春画(所謂えっちな絵)は規制に規制、めっちゃ規制されまくった。
でも人々は負けなかった。
えっちな絵が見たかった。
なので、貸本屋が、こっそり貸し借りした。

その昔、たぶん夏目漱石とかの時くらい。
えっちな描写にめっちゃ厳しかった。
小説の中のえっちはめっちゃ、めっちゃめちゃくちゃ規制された。
でも人々は負けなかった。
めっちゃ回りくどいえっちシーンが増えた(たぶんみんな気づかないけど)


日本、いや人類の歴史は、えっちと規制の戦いの歴史だ。


たぶん、知らんけど。


えっちは最高だ。
だから規制されるのは反対だ。
何故なら、表現の幅が狭くなるから。


とは言いきれない時代な訳ですが。


「はぁ~? はちみんたんは処女だが!?」

「いや、若葉さん現実見ましょうよ」

「はちみんは処女膜から声出してるだろ!」

「つか、若葉さん童貞なのに処女と非処女の違いがわかるんすか?」

「……わ、わかるやい!!!!!!!」


あまりの悔しさに、爪を噛みました。


若葉誠司(35)
職業、成年向け漫画家。
ステータス、童貞。
趣味、ゲーム、動画視聴。


「あとね、若葉さん」
「なんだよ」
「処女膜って、膜じゃねーんすよ」
「……は? 何言ってんのwww膜って名前付いてんだから膜に決まってんじゃんwwwww」

大爆笑の漫画家先生、絶賛処女膜作画中です。
池澤くんは揺れる乳首のトーン仕上げ中です。


「俺、処女抱いた事あるんすよ」
「……おん」
「膜じゃねーんすよ」
「いやwwwそれは非処女に騙されてたんだよwww乙wwwwww」
「いや、あのね」
「……おん」
「膜じゃねーんす」
「…………おん」
「あとね」
「……おん」
「処女にも生理はありますし、非処女でもロナロナ入れてない子も多いです。だからVTuber?のはちみんちゃん?がロナロナ入れてないのは、非処女の証明にはならねーんすよ」
「…………それはw」
「若葉さん」
「……おん」
「一回女の子になりましょ」
「おんッ!?」


狂った提案をしてきた青年は、池澤一也(21)
職業、フリーター。
ステータス、非童貞、陽キャ、パリピ。
趣味、映画鑑賞、ギター、キャンプ等々……。

クラブ? あんま行かないよ、知り合いがイベントやる時くらいかな。って言うタイプの人間です。


この池澤、身長185センチでイケメンです。
清潔感のあるセットされた髪、毎日違う服、引き締まった体、目鼻立ちがはっきりとしていて堀が深く、よくよく見ると瞳が綺麗な灰色です。イギリス人のお祖母さまがいるのだとか。
普段はアパレルのバイトをしています。


この若葉、身長は170センチ、低くはない。
十年前に買ったアニメキャラのTシャツを3日前から着ている。髪は2ヶ月に一度、980円の店で切っている。
髭は生えにくい体質で童顔という事を鼻にかけ、何もして来なかった。
最近人気の出てきたような気がするエロ漫画家です。


ひょんな事から、池澤くんはこの若葉のアシスタントをすることになりました。
若葉の「絵が描ける人なら誰でもいいから!」と言う担当編集への泣きつきから、話が流れに流れ、何故か池澤くんに辿り着いたのです。


池澤くんは多趣味で、少しだけ絵も描きます。
元カノがイラストレーターだったので教えてもらったそうです。
漫画イラストとは無縁であったのに、何故か池澤くんに漫画アシスタントの話が回ってきたそうです。

「描けるかわかんないけど、やりますよ。フォトショとか触ったことあるんで」と単発のつもりでやってきた池澤くん。

案外飲み込みが良く、最初はちょっと色々上手く行かない事とかもあったけど、手も早くて、丁寧で、器用で、全然使えたので、そのまま何となく居着いています。

話を戻そう。

「おっ、おんなのこに、なる……?」
「若葉さん、女の子になった方が良いですよ」
「い、意味わからない」
「いや、特に深い意味とかはないですけど」
「ない!?」

そう、これはBL小説なので、男の子のままでないと困ります。女体化も少し考えたけど、そうなるとジャンルが複雑になるので、やめました


「自分が女の子になったと思って生活してみるんす」
「はい……?」
「おもしろそーっすよね」
「ファッ!?」


池澤くん、若葉で遊ぶ傾向にある。

「担当さんからもその辺どーとか言われたって、さっき愚痴ってたじゃないですか」
「ま、まあ……?」


30分前の若葉の発言がこちらです。
『編集がさぁ、女の気持ちがわかってないから、エロに深みがないとか言うんだけど、無理じゃね?w 俺男だし、男のぐっと来るところを詰め込むのがエロ漫画じゃんかwwwww』


「俺、SEXって究極のコミュニケーションだと思ってて」
「……うん」
「そこが足されたら、若葉さんの漫画、もっとエロくなると思うんですよ」
「う、うん……」
「見てみたいな~」
「い、いやだから?」
「女の子になりましょうよ」
「いや訳わかんねえって!!www」
「俺明日から一週間、若葉さんのこと徹底的に彼女だと思うんで、若葉さんもそのつもりで」
「ふあ゛っ!?!?」
「俺いまフリーだし」
「いやまずいですよ!!www」
「Hはしないんで、やってみましょ。
レポ漫画描いて良いんで」
「レポ漫画……」
「バズりますよ《エロ漫画家、彼女になってみたレポ》」
「バズる……」惹かれますね。
「そうそう」
池澤くんはにっこりと笑いました。
「とりま明日の締め切りがんばりましょーね」


こんな会話から恋人ごっこが始まったのです。







机の端に、コーヒーが置かれました。

「若葉さん、爪噛まないの」
「あっ、えっ……あー、まあ」これは若葉の癖でした。
「あんま無理しないで下さいね」
「う、うん……」
「徹夜って肌にも悪いじゃないですか」
「肌ってwww女じゃないんだからw」
「何言ってんすか、若葉さんも女の子でしょ」
「いや、キモ……」
「てか肌荒れとか気になりません? ふつう」
「いや……俺は別に…………」
「荒れてると嫌でしょ、痛いし、過ごしにくい」
「そんな事考えたことないわwww」
「若葉さんって、あんまり自分大事にしないもんね」
「えっ……?」
「そーゆうとこ、俺かなり心配」
「え゛っいや、あの……」
「スキンケアいっしょにしよ」
「えってか何その荷物」
「お泊まりセット♡」
「えっ」
「もうちょいで原稿終わりそうっすねー」


ついでに同棲ごっこも始まりました。







俺を彼女扱い……?
どうなんだ……?
キモいだけでは……???
そう思っていた若葉誠司(35)
これが案外悪くありませんでした。

「ねえ若葉さん、お風呂入れますから、入りましょ」
「え゛っ」
「狭いから一人ずつね」
「あっ……」
「上がったら、髪乾かしてあげよっか?」
「はぁ!?」なんてやりとりの後で本当に髪を乾かされたり、晩ご飯を食べに外に出たら何となく池澤くんの様子が違ったりするのです。

今まで味わったことのない、恐ろしいむずがゆさです。

洗顔させられ、やたらといい匂いのする化粧水も塗られましたし、パックもされましたし、乳液も塗られました。
髪は柔らかく解かれながら乾かされました。

言葉使いも、なんだか柔らかいというか……若葉の言語能力では描写不可です。
レポ漫画一日目にして描写不可とはこれ如何に。


寝る前、ベットの横に布団を引いて、池澤くんがゆっくりと言いました。

「若葉さん、好きとかってね、言葉以外でも伝えられるんですよ」

若葉誠司(35)はいやエスパーじゃないし、言わなきゃわからなくない? と思いました。

ていうか、女の子にはこういう感じなんだ?と悶々と眠りにつきました。









2日目。
締め切りから一夜明け、担当編集との打ち合わせの日です。
仕事部屋に籠もり、通話ソフトで担当編集と次の読み切りの打ち合わせと言う名の世間話をします(打ち合わせもします)


「……ということがあったんですよ」
『なるほどぉ、面白いですね!』
「そうなんすよwww」
『その手があったか……』
「えっ」
『良いじゃないですか!』
「えっ」
『じゃあ次はいちゃラブカップルもので行きましょう!』
「えっえっ……いや、あの」
『いやぁ、正直先生レイプしか描かないでしょ?』
「まあ、そりゃ」
『先生のいちゃらぶ読んでみたかったので、楽しみです!』
「あー……はは」
『そんな体張った取材までして作風広げようとしてくれていたなんて、本当に嬉しいですよぉ!
僕感激しちゃいましたぁ!』
「……へへへ、まあ」
『……実は、ここだけの話なんですけど、作家さんの整理しようかー……なんて動きがありましてね…………』
「ふぁ……!?」
『先生とは長い付き合いですし、何も言わなくても締め切り守るし、安定してるから、僕としても先生とお別れしたくなくて、影で色々ね、頑張ってたんです……』
「……!?」
『次で編集長に一発かましてやりましょう!』
「はい……」


二代目編集担当も、なかなか人の心がわからない奴です。


実質的にリストラ予告です。
ここで安定して一本頂けていた掲載枠をなくされるのは正直しんどいです。

何としてでも、なんとかしなくては。
いちゃらぶ、やってやろう、何せ若葉はエロ漫画のプロなのですから……。


と言うことを話すと、池澤くんは大爆笑、文字通り、腹を抱えての抱腹絶倒でした。

「面白すぎる」
「な、なんにも面白くない!」
「じゃあ若葉さん」とにやにやしながら池澤くんは言いました。
「ペース上げていきましょうか」そう悪戯っぽく言いながら、前日のスキンケアで艶々した若葉の頬に、つんっと指をさしました。

「ひぇっ」
「なんすか」
「イケメンこわい、そう言うことすんの?」
「みんなにはしません」
「えぇ?」
「若葉さんにだけだよ」
「え」
「ふはっ……引いた?」
「ち、ちょっとメモする、今の」


このままでは少女漫画になりそうですね。
しかしこの若葉は少女漫画とか読んだことないのでわかりませんでした。


「えー若葉さんはネイルとかしないんすか」
「し、しないよ」
「えーしたらかわいいのに」
「俺おとこ……」「女の子だよ」
「…………」
「若葉さんは、いま、女の子」
「……は、はい」
「ネイルとかかわいいのに、買ってもいい?」
「おれ……」
「女の子でしょ?」
「はい……」


三日、四日と過ぎていくうちにわかったことがあります。
池澤くんと若葉の大きな違い、それは自分を大切にしているかどうか、と言うところです。
例えば、池澤は朝、十何分もかけて珈琲を煎れます。
昼ご飯は自分でおいしい物を作ります。
たまに食べに行きます。
夜は夜で走ったり、映画を見たり、お酒を少しだけ飲んだりします。
何でそんなことするの? と若葉は聴きました。
コーヒーは缶でいいし、昼はカップ緬でいいし、眠るのは夜明けで良いです。


普段の若葉は朝寝ています。
昼に起きて、アニメや配信を観ながらカップラーメン等を食べます。
夜は動画を流しながらのネームや原稿、合間をぬってゲームとSNS。電子書籍で漫画を読んでシコってアナニーして明け方に眠りにつきます。


池澤くんは眉を寄せて笑って、これが俺の普通で、楽なの。と言っただけでした。









「ねえ、爪噛むのやめません?」と年下に爪を切られている若葉は、イケメンというのは自分と全てが違うのだと絶望していました。

「ただしイケメンに限る……」と呟かずにはいられないのです。

「その、たまに言う、イケメンに限るって、どーゆー意味ですか」
「えっ、あの、俺みたいなブサメンとか、キモオタは許されなくても、イケメンなら許されるよね(笑)みたいな……」
「あのねー、若葉さん」池澤くんはため息を吐きました。


「な、なに?」
「イケメンも、許されないことは許されませんよ」
「えっ、いやそれはイケメンの意見だろww」
「俺は、相手の人がどこまで許してくれるかなって見て、ちょっとずつ進んでるだけッスよ」
「え、だからww俺みたいな、ブサメンはどこまでも許されないっていうかwww」


「んー……なんて言えばいいのかな」とイケメンは自称ブサメンを見て言いました。


「結局、積み重ね?なんですよね」
「えっいやだから」
「この人やだなーって思われない努力をする、よーく人を見る、自分と周りを大事にする、これがたぶん若葉さんが言うイケメンへの道です」
「……はぁ?」
「まずは人の言葉を否定する癖から直せば良いと思います」
「……え?」
「若葉さん、すごく良い人だし、親切だし、優しいし、面白いから、一緒にいて俺は楽しい。もったいないッスよ」
「……そん、な…………」
そんなこと、人生で一度も言われたことありませんでした。
「若葉さん、自分の爪を齧るって、人間に噛みつくってこと」
「……いや、俺、じゃん」

池澤くんは、若葉に目を合わせて言いました。

「あのね、若葉さんも人間なんだよ」
「あ……う…………ぇ……」
「ごめんね」
「なん……」
「ちょっといじめた」と槍池くんは若葉さんを抱きしめます。

心臓が強く強く脈打ち、鼓膜の奥を揺らしました。恐ろしい人肌です。
柔らかくも小さくもない、固い大きな男の身体です。でも暖かくて、人間の心臓や呼吸の音がします。若葉の脳内は情報処理が追いついていませんでした。
ただ、女の子って幸せだなぁと思いました。








先日の約束通り、バイト帰りに池澤くんが買ってきたのは爪やすりとトップコートでした。


「友達がこれがいいって」と薬局の袋を下げていました。
「女?」
「女の子ですね」
「ふーん……本当に買ったんか」
「そりゃ、彼女の爪がかわいいと嬉しいですから」と池澤くんは笑います。
「へえ……」
「なんですか、その顔」
「いや、彼女にいつもこうなん?」
「他の女話は無しで」
「いや……」さっき自分も話してたじゃん。
「あー……ごめんね、ほらここ座って」
「いや……あの」
「こんなことするのは、若葉さんが初めてだよ」目が合いました。








その夜、遅くまで仕事部屋のスタンドライトが点いていました。
若葉の爪は透明とぅるとぅるでした。

「まだ、寝ないんすか?」と寝ていたはずの池澤くんが部屋の入り口で言いました。
「あ、ごめん、起こした?」と若葉さんは動かしていたペンを止めます。
「ううん、心配になって見に来ただけ」
「……プロットとネームまとめておきたくて」
「若葉さんの漫画って、面白いですよね」
「……ただのエロ漫画だけど」
「なんか、世の中への憎しみをぶつけた感じが、ゲージュツ感じる」
「……綺麗なものが壊れる瞬間が好きなんだよ」
「おもしろ、俺と逆ですね」
「え?」
「俺は、好きな人が綺麗になっていくのが好き」
「ええ……」
「だから、恋人が身支度してるの見るの好きなんですよね」
「……へえ」
「これも、ネタにしていいですよ。おやすみなさい」

スタンドライトは、若葉のとぅるとぅるの爪を丸く反射していたのでした。








5日目の朝。


「あれ、歯磨きしてる」
ふるおするよ

若葉は歯磨きをしていました。普段は放っておくと、出かけるまでしません。

「髭も剃るんですか」
「いや…………あー……剃るか」

普段は放っておくと、出かけるまでしません。

「てか風呂入りました?」
「まあ入ったけど」

普段は放っておくと(略)

「てか寝ました?」
「ね、ねて、ない……」
「じゃあ、朝ご飯食べにいきましょう」
「じゃあってなんだよ」
「それで、寝ましょう」
「……うん」

そして若葉は無○良品ヘビーユーザーが好みそうな、質素に見える健康志向の高級カフェに連れて行かれ、漫画二冊分価値があるの朝食を食べました。
おいしいけど、落ち着きません。
とりあえず写真撮って呟ったーに載せました。


スマホの画面をひょいっと覗かれ「若葉さんの写真てかわいーっすよね」と言われました。
「ど、どこが?」と聴くと、池澤くんは少し考えて「覚束ないところ」と答えました。


画面の端に写ったおしぼりの包みや、光源を気にしないがあまり常にセンターを確保するスマホの影、フィルターなどもかけないのでそこはかとなく薄暗い……などを大分オブラートに包んで言われました。


「かわいげあるよね」と締められ、馬鹿にされていると感じました。


送ったネームはまさかの一発おっけーでした。


「寝ましょっか、若葉さん」
「池澤くんは……」
「いっしょに寝ます?」
「えっ」
「俺と添い寝。たぶん、若葉さんもう出来るでしょ」
「えっ、いや、あの」
「嫌っすか?」
「嫌とかはないけど、たぶん、でも、あのー」
「じゃあ寝ましょうよ、俺の特技、長時間睡眠なんで」
「超次元サッカー……」
「ちょうじ……?」
「あっななんでもない」


二人は一緒のベットで寝ました。
五日目の午前11時のことです。
この時間も、この関係も、明後日には終わるんだな、そう思うと、少しだけ涙が出ました。
二つの体温が同じ寝床にあるのは、なんとも居心地が悪く、遠い夢のようなのでした。









二日後、約束した一週間。



「かのじょ、どーでした?」
朝、目が合って最初に言われた言葉でした。


「ん、え、なに……?」
漫画家にしては早く、社会人としては遅い、午前九時でした。
昨晩は夜が明け、結局朝の八時まで起きていました。
今日が来るのが寂しかったのです。

うつらうつらと寝ていたのですが、上手く寝付けず、つい珈琲を入れる良い匂いにつられて起きてしまったのです。


池澤くんは昨日と同じように丁寧に珈琲を淹れながら、ゆっくり問いかけました。


「ね、若葉さん。俺のこと、好きになりました?」


若葉は、疲労と眠気で機能しない脳みそでポロッと言ってしまいました。


「すきに、なっちゃったよ……」


すると、池澤くんは少し目を見開いて「本当?」と呟きました。


「ん……おやすみ……」
若葉は欠伸をして、寝床に戻っていきました。

そして入眠。
そして起床。

こんな寝ぼけ会話記憶に残るはずもなく。
寂しい今日、今日から二人は作家とアシスタント。きっと起きたら池澤くんもいないだろうと悲しくなりながら起き上がる若葉。
居間へ続く扉を開けると、誰もいない居間が……と思いきや。

「若葉さんおはよう」
「え、あれ、え、おは、よ……」

池澤くんの御イケ(注:イケメンの意)きらきらスマイルと午後の日差し。 


「え、なに……どしたの」
「若葉さん」
「な、ななに」
「恋人、延長します?」
「え、え、え……!?」
「だって、若葉さん俺のこと嫌じゃないでしょ」
「う、あ……」
「好きでしょ?」
「い、あ、え、あ……」
「今日ちょっと寂しかったでしょ」
「え、う…………」


若葉は小さく頷きました。
顔がどんどん熱くなっていくのを感じました。


「耳まで赤いね」
「…………。」
「若葉さん、俺さぁ、好きな人はどんな手を使っても落とすタイプなの」
「え……」
「良かったよ、一週間で落ちてくれて」
「えッッッッッ!?!?!?!!!!!!」









さて、クソ童貞が童貞ならば、池澤くんで陽キャなので、すぐにSEXします。

若葉誠司にはこれから人格崩壊エロ漫画語彙スケベSEXをしてもらいたかったのですが、これはラブラブパーフェクトコミュニケーションSEXです。

悔しいですが、続編に期待しましょう。

二人は真っ昼間からカーテンを引き、電気を点けて向かい合って布団に座っています。



「ね、誠司さん」
「なに」




若葉は俯き、前髪で顔を隠しています。
テンパっています。
何せ恋愛など生まれて初めてです。


「イヤ?」
「……いやじゃ、ないけど」
「うん」
「あの……えー、うん、あの、俺、キショいじゃない」
「なんで?」
「なんでって、あの、ほら…………俺、おれは」


若葉は息を飲みました。
その呼吸は肺に入ったままいつまでも引っかかって出て来ませんでした。
頭の奥が熱くて、今から自分が何を言うのかがわかりませんでした。
思ったよりもシリアス展開になってしまいました。


「聴いてるよ、誠司さん」

「……あ、おれ……俺、人に好かれたことないんだ」

「うん」

「家族にも仕事がバレてて、帰ってくるなって言われてる。バイトしても俺だけ飲み会呼ばれないし、同人仲間の中でもなんか浮いちゃって気まずい、自分より若い編集にも馬鹿にされてて、期待されてない」

「そっか」

気づけば涙が溢れてきました。
自分だけ話を聴いてもらえない、自分だけ誘ってもらえない、自分だけ。
何かがずれてる、何かがおかしい。
自分じゃ気がつけない歪みの連続は、若葉の心も蝕んでいたのです。

「人に好かれたことがないから、俺は恋愛が怖い」

言葉に出して初めて気づいたのでした。

「誠司さん、顔あげて」

池澤くんの声は優しく、思わず身体が引きましたが、顔も上げました。

「好きだよ。誠司さんが絵描いてるとこかっこいいし、漫画面白いし」

「……初めて見たプロの原稿がたまたま俺だったってだけだろ、陰で嗤ってんだ。
わかってんだよ、お前達のやり口は。
この後仲間内で、俺のこと笑うんだ…………もう、散々なんだよ、嫌なんだよ、お前らに……」

「俺も、誠司さんの見えない敵を俺に投影しちゃうのとことか、なーんか腹立つ言動とか、不潔なのもだらしないのも普通に嫌い」

「……ほらやっぱり」

「ねえ、俺も傷つく、そんな強くない」

「……だっ…………あ……ご、ごめん」

「…………あのね、なんにでも素直で、たーまに笑う顔が可愛くて、適当な俺の話も正面から受け止めて、考えてくれる。そんな誠司さんが好き」

「俺のために我慢してよ、怖いのも慣れないのも恥ずかしいのも全部」

「ワガママ……」

「センセイ、なにげに好きでしょ、オレに振り回されるの」

「ただしイケメン池澤くんに限る……」

「ふっ」
「へへ……」
「キスしたい、我慢してくれる?」
「……蛙化現象始まったらどうしよう」
「たき火を飛び越える」
「なにそれ」
「三島由紀夫」
「なに、それ……?」
若葉は漫画しか読んできませんでしたからね。
なんか有名な小説家とだけ今は説明しておきましょう。

「誠司さん」と池澤くんは目を瞑りました。

「えっ、え……えー、あー……」


そして二人はキスをしました。


次回、ラブラブパーフェクトコミュニケーションえっち編

もうちょっとだけ続くんじゃ。
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