魔法少女は華麗に舞い散る

Cecil

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不思議な少女

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月と出会った日から、数日が経っていた。
 週末と言う事もあり、西の魔法少女達も聖の家に集まっていた。
 人間代表という訳ではないが、事情を知っている明里も参加している。

全員が集まる前に少しでも、月の事を知りたかったのだが、自分の事を含めて殆ど何も覚えていないのか、それとも話したくないのか月は出会った時に話していた事以外は、殆ど新しい情報はくれなかった。

「結局は何もわからないって事で、それでいいのかい?」
「ええ、自分の年齢も何処で生まれたのかもわかっていないわね。ただ面白いと言うか不思議な事は、話してわね」
「どんな事ですか? 」
 美代子は、月がお気に入りなのか自分の膝の上に乗せながら、月が話していた内容を聖に聞く。
「とても信じられないんだけど、彼女は生まれた時には、排泄器官も性的な器官も持ち合わせていなかったって、後から付け足されたって話してたのよ」
 俄には信じられない内容だった。

男性であれ女性であれ、生まれた時には排泄器官も性的な器官も持ち合わせている。
 それが常識であった。
 中には、遺伝子異常等が理由で持ち合わせずに生まれて来る子供もいるのかもしれないが、聖は聞いた事がなかった。
 会った日に、魔法少女としての証である刻印を確認する為に、彼女を裸にして自らの目で隈なく確認した。
 その時に、しっかりと排泄器官も性的な器官も存在している事を、確かに確認した。

聖の話しを聞いていた美代子が、月にもう一度だけ確認してもいいですか? と脱がせてもいいですか? と膝の上に座る月に確認を取る。
 いいよと月が応じてくれたので、美代子は月の洋服を脱がせて、美代子から順番に月の身体を再確認する。
 全員で確認したが、やはり尿道も膣口も確かに存在している。
「ありますわね」
「こうなってるんだ」
「私も初めて見ました」
 陽菜と莉絵の二人は、違う意味で興奮しているので、ここあが自分のを見た事はないの? と二人に質問する。
「な、ないですから! 」
 と二人は見事にハモリながら答えた。

陽菜と莉絵の興奮はさておき、確かに月には人間の女の子と同じで、しっかりと尿道も膣口も存在していた。
「あの、月ちゃん。後から付け足されたと言うのは本当ですか? とてもそうは見えなかったもので」
 美代子が申し訳なさそうに、疑う訳ではないが、俄には信じられないと、もし魔力で生み出したのが本当だとしても、最初から必要な器官は備わってる筈で、後から付け足す必要がわならなかった。

「本当だよ。最初はなかったんだけど、月も人間を知る為には必要だよねって、それで人間が普段している事を経験する為にって」
 人間が普段している事。
 食事を取る。
 排泄行為で、不要な物を排出する。
 子供から大人まで、日常的に行なっている行為である。
 性的な事に関しては、人によるのでここでは排除するとして、何故月を作り出した魔法少女は、急にそんな事を思いついたのか、何故後で付け足したのか、美代子は考えるがあまりにも、美代子の常識からかけ離れている為に、答えは導き出せなかった。

「人間の三代欲求を知って欲しかったって、そう言う事なのかも」
 明里の言葉に、全員が明里に注目する。
「正解かはわからないけれど、人間は食欲、性欲、睡眠欲って欲求があるし、食欲と睡眠欲は、とても大事でしょ」
 だから、最初にその二つを覚えさせる為に、敢えて性的な器官は無しにした。
 少しずつ月が人間の女の子と変わらぬ生活を送れる様になったから、性欲も経験させようと考えたのではと、そして男性はペニスがあるが、男性とは違い女性は尿道と膣口が近くにある。
 その為に、最初に尿道だけ作るよりは後で纏めて作ろうと考えたのではと、自論を全員に述べる。
「明里お姉ちゃんは、月の話しを信じてくれるの? 」
「もちろんよ。月ちゃんって存在が、そもそも私には不思議な存在なんだから」
 明里が信じてくれた事が、余程嬉しかったのか月は、満面の笑みを浮かべている。

明里の話しから、聖と美代子の優秀組は二人で議論を交わしている。
 その他のメンバーは、難しい事は二人に任せて、月の魔力が何故これほど強大なのか、彼女が何処でいつ生まれたのかを、月本人に聞いてみるが、結果は芳しくない。
 やはり殆ど何も覚えていない様だ。
「難しいですね。月さんは、何も覚えていませんし」
「そうだにゃ。せめて、目覚めた場所の手掛かりがあれば、そこを訪れて探すんだけど」
「そうですね。月ちゃんが生まれた場所の手掛かりさえあれば」
「確か、色々な機械があったって言ってたから研究所じゃない? 今は廃墟になってるかもだけど」
 研究所。その可能性はあるが、そうなると魔法少女から研究員になった人物を探せばいいのだが、魔法少女はこの街に大半集まっている。

魔法少女が、この街に集まっている理由は簡単だ。
 ダークメアが、何故かこの街にばかり集まるからである。
 他の街や都市には現れない。
 その為に、魔法少女一家はこの街で何代にも渡って生活をしているのだ。
「月ちゃんが、いつ生まれたのかはわからないけど、ずっと眠ってたって言ってたから。もしかしたら私達が生まれる前の可能性もありますよね」
 陽菜は、今はダークメアはこの街にしか現れないけど、昔は違ったのでは? もしかしたらあちこちに現れていたのではと、思い付いた事を述べる。

可能性はあると、その場の全員が陽菜の意見に同意した。
「聖さん。ダークメアと魔法少女の歴史を知る事は出来ないんですか?」
 陽菜の質問に、自分達が知ってる事なら話せるけど、それ以外はと聖だけじゃなくて、陽菜以外の全員が困り顔である。
「教えてください。私は、本当に何も知らないから、どうしてダークメアが存在するのか、どうして魔法少女しかダークメアと戦えないのか。どうして魔法少女だけが、こんな辛い事をしなくてはいけないのか」
 陽菜は、理不尽だと、どうして魔法少女と呼ばれる少女達だけが、命を危険に晒してまで、あんな恐ろしい化け物と戦わなくてはいけないのか、どうして?
 その理由を陽菜は知りたかった。

陽菜の意見に明里も同意する。
「教えて、私は七海を失ってから考えてたの。どうして、魔法少女になれる女の子とそうじゃない女の子がいるのかって」
 明里は、ずっと悔しい思いを胸にこの一年を七海を失ってからの一年を、過ごしながら考えていたのだ。
 もし自分が魔法少女だったのなら、もし自分に七海の様な力があれば、七海を死なせずに済んだのではないか、助けられたのではないか、七海の苦しみを魔法少女としての苦労をもっと理解出来たのではないかと、だから教えてと全員に頭を下げる。
「あ、明里さん。頭を上げてください。七海さんが死んだのは、私が弱かったからで」
「いいえ。私に力がなかったから、ただの弱い人間の女の子だったから、だから七海を死なせてしまった」
 明里の悔しそうな瞳にその場の全員が、明里は心から七海を愛していたのだと、愛すべき七海を救えなかった事を、ずっと後悔していたのだと知った。

月は余程気に入ったのか、スマホでアニメの動画を観ているので、美代子が月の隣りに座って、月を見守る事にして、聖達は自分達の知ってる魔法少女とダークメアの事を、陽菜と明里に話し始めた。

千年前に、突如として人々の前にダークメアと呼ばれる悪魔が現れた。
 最初は、ただ捕食されるだけで、抵抗する術など何も持ち得ていなかった。
 そんな人々の前に現れたのが、魔法少女と呼ばれる存在である。
 どの様にして、魔法少女が誕生したのかは不明だが、魔法少女によって人々の生活は平和を取り戻した。
 だが、千年経ってもダークメアは居なくなる事はなかった。
 魔法少女は、母から子へと、その魔力が受け継がれて、今でも魔法少女と呼ばれる少女達は、自分の命を危険に晒しながら、ダークメアと戦っている。

聖達が知り得る知識なんて、その程度でしかなかった。
「前に陽菜に話したけど、それ以上の事は知らないのよ」
「ありがとうございます。ダークメアが何故生まれるのか、そして千年前にどうやって魔法少女が誕生したのか、それを知れば解決策もあると思いますし、月さんの事もわかるかもしれませんね」
 陽菜の中では、魔法少女が生まれた理由については、一つの考えがあった。
 自分と同じである。
 女神様が現れて、魔法少女を誕生させたのだろうと考えていた。
 しかし、ダークメアが生まれた理由については、皆目検討もつかない。

「本当に、現代の魔法少女は可愛らしくて、ひ弱で、浅はかで可愛いわ」
 月が急に話し始めた。
 しかし、明らかに月の声ではない。
 全員が、月の横にいた美代子も驚きを隠せない。
「月ちゃん? 」
 美代子は、月ちゃんよね? と月を見つめている。
「初めましてね。現代の可愛らしい魔法少女の皆さん」
 やはり月の声ではない。
 雰囲気も、子供の月とは違い妖艶であり、妖艶さの中に強力な魔力を感じる。

「貴女は誰ですか? 」
 陽菜が勇気を出して、月の顔をしてる月ではない人物に問い掛ける。
「人に名前を聞くなら、自分からって教わらなかったかしら? パイパン少女ちゃん」
 どうして知ってるの? と思いながら陽菜は、朝比奈陽菜ですと自己紹介する。
「陽菜ちゃんね。貴女可愛いわ。気に入ったから、私の名前教えてあげる。私はアマルテア」
 アマルテアなんて名前の魔法少女は、陽菜を含めた全員が聞いた事がなかった。

「アマルテアさん。一ついいかしら? 」
 明里がアマルテアと名乗った人物に、前島明里ですと、普通の人間ですと自己紹介してから、質問をと確認する。
「貴女は、人間なのね。まあいいわ。何かしら? 」
「ありがとう。貴女は、今は月を介して話してますね。貴女は魔法少女ですか?」
「ええ、貴女達が魔法少女とダークメアの話しをしてたから、つい出しゃばってしまったわ」
「貴女も魔法少女なら、何か知ってるのではないですか? 魔法少女の事もダークメアの事も」
「知りたかったら、月の事も、魔法少女の事もダークメアの事も、知りたいならこの子が生まれた場所を探しなさい」
 もし辿り着いたなら、その時は姿も見せるし、知ってる事は話してあげると、アマルテアは陽菜と明里を見つめて、二人共可愛らしくて好みだわと、今度手合わせしてねと言うと、月の中から消えてしまった。

「お姉ちゃん達どうしたの? 月を見て」
「な、何でもないんですよ」
 どうやら、元の月に戻ったようだと全員が、ホッと胸を撫で下ろす。

「アマルテアって、何者なのかにゃ?」
「わからないけど、月の身体を奪う位だから強力な魔法少女なのは、それだけは間違いないわね」
 知識のない陽菜が、魔法少女でも難しいんですか? と魔力が強ければ出来たりしないんですか? と疑問をぶつける。
「無理ね。普通の人間なら可能かもしれないけど、魔法少女同士で相手を乗っ取るのは不可能よ」
「そうなんですか? 」
「新米ちゃん。魔法少女の魔力は、それぞれ違うから、違う魔力が入り込むと拒絶反応が起きる可能性があるんだよ。治癒とかで少量の魔力なら問題ないけど」
 治癒などで、僅かな量の魔力を供給するのなら問題はないが、相手を乗っ取ると言う事は、相手の魔力も含めた全てを屈服させると言う事である。

精神面を屈服させても、魔力は難しい。
 その魔法少女が生まれながらに持ってる魔力の質を変えたり抑える事は、いくら強い魔法少女でも不可能と言われている。
「だから、あのアマルテアが月にゃんを乗っ取ったのが、一瞬で乗り移ったのがありえないんだよ」
 あり得ないのだが、現実である。
 全員が目の前で、月がアマルテアと名乗った魔法少女に変わったのを見てる。
 信じたくはないが、現実だ。
「実は二重人格とかはないですか? 」
 可能性はあるが、確率は低いわねと魔力が全然違ったからと、全員が否定した。
 まだ相手の魔力を読む事が出来ない陽菜には、わからないが陽菜以外の魔法少女はあれが二重人格だとは、絶対に認められなかった。

「取り敢えずは、アマルテアが言ってた様に、月ちゃんの生まれた場所を探しましょう。私も協力するから」
 明里の言葉に全員が同意して、今は月の事を知る事を優先すると決めた。

「あら、アマルテア。何か機嫌がいいじゃない」
「ちょっと面白い事があってね。あと二人もお気に入り見つけたからさ」
「月を使って、現代の魔法少女に接触したのはわかったけど、もうお気に入りを見つけたの? 」
「アマルテアって、本当に手が早いって言うか貪欲だよね。女の子とエッチな事するのには」
「いいじゃないの。私の楽しみの一つなんだし、沢山の時代の女の子とエッチしたけど、今度はこの時代の女の子としたい」
 どの時代の女の子も良かった。
 この時代はどうかな? とアマルテアは妖艶に微笑む。

「アマルテアは仕方ないわね」
「そうそう。一人普通の人間が混じってて、お気に入りなんだけど、良かったらアリエルにあげるよ。アリエル好みの魔法少女にしちゃえば」
「あら、人間なの? 魔法少女じゃないの? それなら頂こうかしら」
「アリエルに火がついたし、普通の人間を魔法少女にするなんて、あの駄女神の仕事なのに」
「ネレイドちゃん。私達には、その力があるんですから、使わないと、そしてネレイドちゃんも、好みの女の子を見つけて調教したらいいのに」
「あたしは、普通でいいです。エッチも女の子もノーマルが好きだし」
 それは残念ねと、アリエルと呼ばれた少女が微笑む。

アリエルは、アマルテアから明里の容姿を聞くと、早速明里の事を調べ始めた。

普通の人間の女の子である明里に、魔の手が伸び始めた事に、誰も気付いていない。
 明里本人すら、自分の身に起きる事を知らずに月の事を必死に調べていた。
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