PictureScroll 昼下がりのガンマン

薔薇美

文字の大きさ
216 / 297
第11弾 夕陽に向かって走れ

It is early to still give up(諦めるのはまだ早い)

しおりを挟む

 その週末。

 キャスト食堂では、

「あ~、明日は騎兵隊のオーディションの面接だわ。何、着てこようかしら?審査するほうだって身だしなみには気を遣っちゃうわよね」

 ゴードンがそわそわと鏡を覗き込んで鼻毛をチェックしていた。

 いよいよ明日は騎兵隊キャストのオーディションの面接審査なのだ。


「あ、もう明日の日曜、騎兵隊キャストの面接なんだ」

 ジョーが太田を見やる。

「再来週の日曜は実技審査ですからね。今からドキドキですよ」

 太田はタウンのキャストなので明日の面接審査は免除されて最終の乗馬の実技審査に挑むだけだ。

 すると、

「……」

 にわかに隣のテーブルの騎兵隊キャストのリーダーのマーティ、サブリーダーのヘンリーとハワード、アランが揃って難しい顔になった。

 騎兵隊キャストはみな気心の知れている太田を推しているが、いかんせん太田のパッとしない平凡なルックスがネックだと思っていた。

 選考するゴードンがとにもかくにもルックス重視だからだ。

「ゴードンさん?書類審査を通った候補者の中にこれといったイケメンいなかったんすよね?」

 勘の鋭いメラリーは騎兵隊キャストみなの表情から何か察したように念押しする。

「ほほほっ、ところがいたのよ。それも2人。イケメンの候補者がっ」

 ゴードンは勝ち誇り顔で高笑いするとファイルから出した写真をパシッとテーブルに叩き付けた。

 書類審査を通ったイケメン候補者2人の写真だ。

「――うお――っ?」

 ガンマンキャストはその写真を見るなり驚愕して唸った。

 まるで20代のレオナルド・ディカプリオのようなイケメンと、20代のブラッド・ピットのようなイケメンが写っている。

「まあ、身長は174㎝と176㎝で標準的なのよ。けど、このイケメンっぷりなら多少、背が足りないくらいはわたしも妥協するわ。それに、2人とも乗馬歴は3年以上なのよっ」

 ゴードンはこれでもかと畳み掛ける。

「――俺よりも背が高くて、ディカプリ似とブラピ似のイケメンで、乗馬歴3年以上――」

 太田は写真を凝視したままガクガクと震えた。

「この2人、何歳っすか?」

 メラリーが写真を睨み付けながら訊ねる。

「えっと、24歳と25歳よ」

 ゴードンは2人の履歴書をパラパラと再確認して答えた。

「――おまけに俺よりも若い」

 太田は今年27歳になるのだ。

 このイケメン候補者2人に勝てる要素は何1つない。

 身長172㎝で、平凡なルックスで、乗馬歴9ヶ月半で、満27歳の自分など逆立ちしても敵うはずがない。

(いや、そもそも逆立ちも出来ませんが――)

 騎兵隊キャストの採用はたった1人なのだから、オーディションはこのイケメン両者の戦いで自分などライバルというのもおこがましいではないか。

(――負けた――)

 太田は戦わずして完敗だと思った。


「……」
「……」

 トムとフレディはどんよりと陰鬱な顔になる。

 他人事でもオーディションが大の苦手の2人はショウの仲間の太田が騎兵隊キャストの夢敗れるのを目の当たりにするのはツライ。

「……」

 特に地味ぃなフレディはパッとしない平凡なルックスの男がどんなに努力しても生まれながらのイケメンには敵わないということを身を持って痛感していた。


「バッキー?あなた、これからヘアカットして来なさい」

 ふいにマダムが有無を言わせぬ口調で太田に命じた。

「――えっ?ヘアカット?でも、俺、明日の面接審査は免除ですが?」

 太田はキョトンとする。

「いいえ。ゴードンさんは面接で候補者のルックスをあなたのルックスと比較するわ。なるべく見た目の印象を良くしておくに越したことないのよ」

 マダムは今からでもやれるだけの努力はするべきと言うのだ。

「そうだな。お前、だいぶ髪がモサッとしてるしよ」

「うん。この際、バッサリ切ってイメチェン、イメチェン」

 ジョーとメラリーも太田にヘアスタイルのイメージチェンジを強く勧める。

「そう――ですね」

 太田は伸びっぱなしの前髪を引っ張って案じ顔をした。

 髪質が太く固く毛量も多いので頭でっかちのキノコみたいなヘアスタイルだ。

 ここのところ乗馬のレッスンと家庭教師のバイトで忙しくヘアカットもご無沙汰だった。

 ショウではバッキーの着ぐるみの中身なので自分の身なりにすっかり無頓着になっていたのだ。

「じゃ、駅前の1000円カットに――」

 そう太田が言い切らないうちに、

「ダメよ。いつものところじゃ変わり映えしないでしょ。わたしの行き付けの美容院を予約してあげるわ」

 マダムは太田のケータイをひったくって駅前の美容院に予約を入れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

処理中です...