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第11弾 夕陽に向かって走れ
It is early to still give up(諦めるのはまだ早い)
しおりを挟むその週末。
キャスト食堂では、
「あ~、明日は騎兵隊のオーディションの面接だわ。何、着てこようかしら?審査するほうだって身だしなみには気を遣っちゃうわよね」
ゴードンがそわそわと鏡を覗き込んで鼻毛をチェックしていた。
いよいよ明日は騎兵隊キャストのオーディションの面接審査なのだ。
「あ、もう明日の日曜、騎兵隊キャストの面接なんだ」
ジョーが太田を見やる。
「再来週の日曜は実技審査ですからね。今からドキドキですよ」
太田はタウンのキャストなので明日の面接審査は免除されて最終の乗馬の実技審査に挑むだけだ。
すると、
「……」
にわかに隣のテーブルの騎兵隊キャストのリーダーのマーティ、サブリーダーのヘンリーとハワード、アランが揃って難しい顔になった。
騎兵隊キャストはみな気心の知れている太田を推しているが、いかんせん太田のパッとしない平凡なルックスがネックだと思っていた。
選考するゴードンがとにもかくにもルックス重視だからだ。
「ゴードンさん?書類審査を通った候補者の中にこれといったイケメンいなかったんすよね?」
勘の鋭いメラリーは騎兵隊キャストみなの表情から何か察したように念押しする。
「ほほほっ、ところがいたのよ。それも2人。イケメンの候補者がっ」
ゴードンは勝ち誇り顔で高笑いするとファイルから出した写真をパシッとテーブルに叩き付けた。
書類審査を通ったイケメン候補者2人の写真だ。
「――うお――っ?」
ガンマンキャストはその写真を見るなり驚愕して唸った。
まるで20代のレオナルド・ディカプリオのようなイケメンと、20代のブラッド・ピットのようなイケメンが写っている。
「まあ、身長は174㎝と176㎝で標準的なのよ。けど、このイケメンっぷりなら多少、背が足りないくらいはわたしも妥協するわ。それに、2人とも乗馬歴は3年以上なのよっ」
ゴードンはこれでもかと畳み掛ける。
「――俺よりも背が高くて、ディカプリ似とブラピ似のイケメンで、乗馬歴3年以上――」
太田は写真を凝視したままガクガクと震えた。
「この2人、何歳っすか?」
メラリーが写真を睨み付けながら訊ねる。
「えっと、24歳と25歳よ」
ゴードンは2人の履歴書をパラパラと再確認して答えた。
「――おまけに俺よりも若い」
太田は今年27歳になるのだ。
このイケメン候補者2人に勝てる要素は何1つない。
身長172㎝で、平凡なルックスで、乗馬歴9ヶ月半で、満27歳の自分など逆立ちしても敵うはずがない。
(いや、そもそも逆立ちも出来ませんが――)
騎兵隊キャストの採用はたった1人なのだから、オーディションはこのイケメン両者の戦いで自分などライバルというのもおこがましいではないか。
(――負けた――)
太田は戦わずして完敗だと思った。
「……」
「……」
トムとフレディはどんよりと陰鬱な顔になる。
他人事でもオーディションが大の苦手の2人はショウの仲間の太田が騎兵隊キャストの夢敗れるのを目の当たりにするのはツライ。
「……」
特に地味ぃなフレディはパッとしない平凡なルックスの男がどんなに努力しても生まれながらのイケメンには敵わないということを身を持って痛感していた。
「バッキー?あなた、これからヘアカットして来なさい」
ふいにマダムが有無を言わせぬ口調で太田に命じた。
「――えっ?ヘアカット?でも、俺、明日の面接審査は免除ですが?」
太田はキョトンとする。
「いいえ。ゴードンさんは面接で候補者のルックスをあなたのルックスと比較するわ。なるべく見た目の印象を良くしておくに越したことないのよ」
マダムは今からでもやれるだけの努力はするべきと言うのだ。
「そうだな。お前、だいぶ髪がモサッとしてるしよ」
「うん。この際、バッサリ切ってイメチェン、イメチェン」
ジョーとメラリーも太田にヘアスタイルのイメージチェンジを強く勧める。
「そう――ですね」
太田は伸びっぱなしの前髪を引っ張って案じ顔をした。
髪質が太く固く毛量も多いので頭でっかちのキノコみたいなヘアスタイルだ。
ここのところ乗馬のレッスンと家庭教師のバイトで忙しくヘアカットもご無沙汰だった。
ショウではバッキーの着ぐるみの中身なので自分の身なりにすっかり無頓着になっていたのだ。
「じゃ、駅前の1000円カットに――」
そう太田が言い切らないうちに、
「ダメよ。いつものところじゃ変わり映えしないでしょ。わたしの行き付けの美容院を予約してあげるわ」
マダムは太田のケータイをひったくって駅前の美容院に予約を入れた。
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