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紅葉黄葉
しおりを挟む一方、
パッカ、
パッカ、
パッカ、
パッカ、
我蛇丸と八木は早馬で日光街道を富羅鳥を目指し、ひたすらに駆け続けていた。
日本橋から富羅鳥まで千住宿、草加宿、越ヶ谷宿と十宿以上の宿場ごとに十匹以上も馬を取り替えて二人は富羅鳥へ辿り着いた。
馬の交替でいちいち手間を取ってしまったが日本橋から富羅鳥まで早馬ならわずか一時半(約三時間)だ。
鬼武一座の座長は膝栗毛の旅なので昨日の昼過ぎから夜を徹して歩き続けていれば富羅鳥へ着いている頃合いに違いない。
五十男とはいえ旅から旅への巡業で足はかなり鍛えられている。
富羅鳥の宿場で訊ねると、鬼武一座の座長と思しき五十男はほんの少し前に宿場を通ったばかりであった。
「なんとか追い付いた――」
我蛇丸はホッと吐息した。
早馬で汗ばんだ肌に風がひんやりと冷たい。
富羅鳥は江戸よりも一足早く秋が訪れていて、もう木々の葉が色付き、富羅鳥山は紅葉と黄葉の裾模様だ。
「ほおぉ――」
八木は富羅鳥山から空を仰ぎ見た。
チチッ、
バサバサ、
富羅鳥という名のとおり鳥がずいぶんと飛んでいる。
ちなみに羅という字は張り巡らした網のことである。
富羅鳥城は富羅鳥山を背にして聳え立ち、そのせいで富羅鳥山に暮らす者はいつでも富羅鳥城の後ろ姿しか見えなかった。
富羅鳥城に曲者を近付けまじと富羅鳥山を警護するのが富羅鳥の忍びのお役目なのだ。
「ここから先へは歩きが良かろうかと――」
我蛇丸と八木は富羅鳥山の峠の茶屋に馬二匹を預けて山奥の富羅鳥の忍びの隠れ里へ向かう。
我蛇丸が盆に江戸から富羅鳥山へ帰った時には前もって峠の茶屋に愛馬のアオが待っていたのだ。
「すまんの、我蛇丸。わしゃ、ちいとも気付かなんぢゃ」
峠の茶屋の爺さんも富羅鳥の忍びの者であるが、鬼武一座の座長と思しき五十男が通ったかどうかは見逃したらしい。
「八木殿はこのまま山道を来て下され。わしはここから山を突っ切る」
我蛇丸はザカザカと自然のままに生い茂った草むらへ入っていく。
「――えっ?突っ切るとは?」
八木がキョトンとして訊ねたが、
バサッ、
我蛇丸は答えもせず木の高い枝に飛び付いた。
「な、なるほど」
八木は目を見張りながら合点した。
バサッ、
バサッ、
我蛇丸は猿のごとく枝から枝へと飛び移って山の奥深く消えていった。
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