姫プレイがやりたくてトップランカー辞めました!

椿原守

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34 俺の姫プレイとお手伝い 1

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「あー……死にたい」

 炎都の酒場でテーブルに突っ伏す俺。
 俺の正面では、サヨがお茶を飲んでいる。

「うっとおしいぞ。うつけ」
「サヨぉ~だって~」
「もう過ぎたことじゃ。クヨクヨするでない」


 コラボカフェ開催終了から一ヶ月。
 いつものように酒場の個室で、俺はサヨと話をしていた。
 その時、ひょんな事から、話題がコラボカフェの事になった。

「あの時、なぜすぐに店を出たのじゃ?」とサヨが言うので、何故そんな事を聞くのか? と問い返した。
 すると、サヨがウインドウを出し、ゲリラ配信のアーカイブを見せてきた。

 藤田プロデューサーの「景品あげちゃおうかな」発言を今、初めて知った俺の行動は冒頭に至る。


 何故だ……何故、俺はあの時、そそくさと店を出てしまったんだ。
 もう絶望しかない。死のう。キャラクターデリートしよう。

 酒場から一歩も動けない。
 うじうじとした俺に、サヨは深い溜め息をついた。

「そぉおおんなに欲しいのなら、運営に連絡したらどうじゃ?」
「アカツキは俺です! CD下さい! って今更言うのか?」
「いつまでもグチグチとしておるのなら、いっそ潔く聞いてまいれ。そして、散るがよい」
「散る前提かよッ!」
「もう切り替えるのじゃな。いつまでも続けるようだったら、妾はもう行くぞ」
「うっ……もともと、サヨが俺に言ってきた事だろ~? あー……知らないままなら良かったのに」

 今更あれこれ言ったところで変わらない。
 変わらないのだが、景品CDを逃したという事実が大きすぎた。

「そもそも、お主はお情けでCDを貰ったとしても、さほど喜ばなかったと思うぞ?」
「んー? どういうこと?」
「何じゃ? まだ分からぬのか? ……まぁ良い。その内、分かるじゃろう」
「??……どういうこと?」
「秘密じゃ。近々、トモヤが教えてくれるわ」
「トモヤが……?」

 フフッと意味深な笑みを浮かべるサヨ。
 何だろう?


「ところでうつけ。斯様かようなイベントが始まるのを知っておるか?」

 サヨがウインドウを開いて、運営の告知ページを見せてきた。
 運営が、また新たなるイベントを近々開催するようだ。
 だが、俺はあまりソレには興味が湧かなかった。
 頬杖をつき、顔をしかめながら、つぶやく。

「うーん……ゲームで『結婚』ねぇ……?」

 ***


 運営は、DFO五周年記念の目玉として、プレイヤー同士が結婚出来るウエディングイベントを開催すると発表した。
 季節性イベントとは異なり、こちらは常時開催のイベントにするようだ。
 少子化が進む日本において、歯止めになるキッカケになれば良いという意図が、あるとか無いとか。
 サヨから聞いた話なので、真意のほどは不明である。

(ゲーム内で結婚かぁ……)

 俺は炎都の街中をぷらぷらと歩きながら、結婚イベントの事を考えていた。

 正直な感想としては、トラブルが起きるイメージしか無い。
 むしろトラブルしか起きないと思っている。

 好きなゲームがキッカケで、お付き合いが始まったり、結婚に至るのは大いに賛成だ。
 それは自由にやって欲しい。

 ただ、俺個人としては、遊びゲームに恋愛を持ち込まれたくない。
 運営がそれを推さないで欲しいという気持ちでいっぱいだ。

(俺が……考えすぎなのかねぇ~?)

 小さな子どもが、おままごとで遊ぶように、DFOのウエディングイベントも、その延長だと思えばいいのだろうか?
 実際、ゲーム内で結婚をしたからといって、役所に婚姻届が提出される訳でも無い。
 ゲームの中で、ただ疑似体験が出来るだけだ。

(もっと、気楽に捉えても……いいのかな?)

 そんな事をつらつらと考えていると、ドンッ! と人にぶつかってしまった。
 またか! また、俺はぶつかるのか!

「すみません!」
「わわわっ! ごめんなさい!」

 俺と同じサイズのアバター少年が、ペコリとお辞儀をする。
 ふわふわのクセ毛で白に近い金髪、青い瞳。
 見た目は、完全に天使である。

(うわぁー可愛い……)

 顔をまじまじと見て感心する。
 こんな顔も作れるんだなぁ。

「あの……?」と声をかけられ、俺はハッとする。

「あっ! ごめんなさい! えっと……それじゃあ……」

 さようなら~と歩き出そうとした時、ガシッと腕を掴まれた。
 振り返ると少年が泣きそうな顔で、俺に懇願してくる。

「あのっ! すみません! ボクのクエスト、手伝ってくれませんか……!?」

 ***


 少年の話を聞くと、お互いのクエストを交互に手伝うという事で、野良パーティーを組んでいたのだが、他のプレイヤー達は自分のクエストが終わると、パーティーをサッサと解散。
 クエストがまだ残っている少年を残して、転移広場から消えて行ったのだと言う。

「ボク……フレンドも少ないし……レベルも皆より低いから、同じくらいのレベル人と相互でやれたらなって思ってたんですけど……まさかこんな事になると思って無くて……」

 ジワリと少年の目に、涙が浮かんでいる。

「回復薬も全部、パーティーリーダーに渡してたし……もう、お金も無くて……」

 少年の話を聞きながら、俺は眉間にシワを寄せた。

 正直、気分が悪い。
 オンラインゲームである以上、アバターの先にいるのは人間だ。
 皆が皆、良いヤツではない事くらい知っている。
 ただ、俺の目の前いる人間が被害にあったと聞いて、不快な気持ちが隠せなかった。

「すみません。見ず知らずの人に、こんな話……」

 少年がしゅん……と更に小さくなった。
 少年が悪い訳じゃない。俺は少年の両肩にポンと手を置いた。

「いいよ。クエスト手伝う。私はチロ、君は?」
「ボクはユキ。ユキっていいます」

 ホッとしたユキ君が微笑む。
 うんうん。このゲーム、悪いヤツもいるかもしれないけど、良いヤツもいるからね!
 ゲームは楽しく遊んでなんぼでしょ!
 さて、あと二人ほどパーティー組んでくれる奴が必要だな。

(……トモヤなら来てくれそうかなぁ?)

 現在、俺のフレンドは、レン、トモヤ、サヨ、マサトの四人である。
 トモヤ経由で誰か引っ張れるかなと思い、俺はウインドウを立ち上げる。
 メッセージを打っていると、突然声をかけられた。

「あれ~? こんな所にチヒロ妹がいる~!」
「あれ~? こんな所に妹のチロがいる~!」

 二人の男が、俺の後ろに立っている。
 <エクソダス>の双子、セイヤとレツヤだ。

 中の人間まで双子なのかは知らないが、二人はいつも共に行動している。
 アバターの顔や体型も全く同じ。
 唯一違うのは、髪の分け目と髪の色くらいだ。

 セイヤは右分けで、紺の髪色。
 レツヤは左分けで、紅の髪色。

 前髪を顎のラインまで伸ばして、片目を隠している。
 本人達曰く「「邪眼を隠しているんだ」」とのことだ。
 ちなみにアバターを作る時、目の設定項目に『邪眼』は存在しない。

「何なに? どうしたの~?」
「何なに? どうかした~?」

 ひょこりとウインドウを覗き込まれた。
 おいコラ、勝手に見るな。

「クエストの手伝いか。楽しそうだね」
「クエストの手伝いか。面白そうだね」

「「オレたちが手伝う!!」」
「絶対嫌だ! お断り!」
「「なんで?」」
「<エクソダス>に関わりたくない」

 レンの野郎がコラボカフェ以降、少しおかしくなった。
 本気でゲームすると言っていたのに、何か変になったんだ。
 だから、コイツらに関わるとレンに遭遇する確率も高くなりそうで、もの凄く嫌だ。

「んん? チロりん、オレ達が<エクソダス>って知ってるの?」
「んん? チロりん、オレ達、会ったことないのに知ってるの?」

 はっ! しまった! そうだった!!
 チヒロでは会ったことあるけど、チロは初遭遇だった!
 脳みそフル回転で言い訳を探す。
 えーっとえーっと。

 冷や汗流しながら考えてると、隣のユキ君が口を開いた。

「<エクソダス>って、あの<エクソダス>ですか? じゃあ……お二人は、セイヤさんとレツヤさん……? ボク見たことあります! にゃる美さんの配信に出てましたよね!?」

 目をキラキラさせ、頬を赤くして、興奮しているユキ君。
 そんな反応に満更でもない二人は、腰に手を当て、フフンとふんぞり返った。

「当たり。オレがセイヤ」
「当たり。オレがレツヤ」
「お二人がボクのクエスト手伝ってくれるんですか? わぁ~! 凄いなぁ~!」

 ユキ君は<エクソダス>のファンだったのか。
 ならば、二人に手伝ってもらうか?
 かなり……かなり、気は進まないが。

「ユキ君。じゃあ、二人に手伝って貰いますか?」
「チロさん……いいんですか?」
「………うん」
「「やったね! ユッキー!」」
「チロさん、セイヤさん、レツヤさん! ありがとうございます! よろしくお願いします!」

 ユキ君のふわふわとした白金の髪が、ペコリと揺れた。
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