姫プレイがやりたくてトップランカー辞めました!

椿原守

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85 俺の姫プレイと回復

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『なぁ、レン。お前ってさぁ~今、彼女いんの?』

「……は?」
「えっ……だから、彼女……」
「ちょっと待て。突然、まくらを投げたかと思えば、次は彼女……? お前の頭の中は一体どうなってるんだ?」
「うっ」

 それは確かに。大変ごもっともなお話デスネ。
 レンは俺を抱きしめたまま、ぐっと力を入れて押し潰し始めた。

「う……ぐぐ……」

 レンの胸板と腕のサンドイッチが痛い!
 痛い痛い! 潰される!
 
「ったく、お前は少し大人しくしてろ!」
「わ……かった! わかったから!」

 ギブギブギブ! 
 背中をバンバン叩いて、白旗を上げる。
 俺の返答を聞いて、ようやくレンがその拘束を解いた。
 レンは深いため息をつくと「チヒロ」と俺に声をかける。

「なに?」
「……今、俺に彼女はいない。これでいいか?」
「あ、う……うん」
 
 俺の目をじっと見つめて答えたレンの瞳に、雄の色が見えた。
 ドキリと心臓がひと跳ねする。

 俺はレンの後に続いて部屋を出た。
 リビングに移動し、レンに簡単に食べられそうなものを作ってもらい、それを食べる。

(……彼女、いないのか)

 夢に出てきたような美人な彼女はいない。
 じゃあ、想い人は……?

(なんでこんなに気にしてるんだろ……?)

 会社で彼女の有無を聞かれたから?
 自分という存在が迷惑かけてるかもって思ったから?

 ……どうにも泥沼に片足の指先をつけている気がしてならない。

 アバターレイプ未遂の時と同じく、またしても吊り橋効果が遺憾なく発揮されている。
 しかも、今回は仮想じゃなく現実世界。
 その効果は、とてつもなく大きい……と思う。

 ごちそうさまと食べ終わり、俺はコップに入ったミネラルウォーターを飲みながら、スマホのカレンダーを確認した。

(鍵交換は三日後かぁ……)

 そこで俺は「あ」思い出した。

 昨晩、俺は自宅マンションでゲロったんだった。
 雪森の知り合い──カズマにタオルである程度拭いてもらったとはいえ、その後洗濯をしたわけじゃない。

(……絶対、臭いとかしてそう……ううう……)

 幸い明日は土曜日で、会社は休み。
 熱が下がったら、土日のうちに部屋の片付けをしよう。

 部屋を片付けて、鍵交換したら、とっととレンの家から出て行こう。

(そうじゃないと、なんか……取り返しのつかない事態になりそうで怖い)

「まだ水飲むか?」
「あ、うん。じゃあ……少しだけ」

 空になったコップに、レンがミネラルウォーターを注いでくれる。
 俺はレンの横顔をちらりと盗み見た。

 今しがた自分で、この家を早く出て行こうと考えたくせに、もうレンとの暮らしも終わりが近いんだと思うと、なんだか寂しいような……離れがたい感情が浮かんでくる。

(いやいや、ダメだろ)

 メンタルがよわよわな状態で、優しくされるのは必要以上に心に沁みる。
 これ以上、ここにいるのはまずいと頭の中で警笛が鳴る。

 コトリと目の前に置かれた、水の入ったコップ。
 俺はそれを手に取り、じっと見つめた。

 勘違いという名の『水』がコップから溢れ出したら、もうそれを止められない気がする。
 その前に、一度冷静になるべきだ。

 あの日もそうだったけど、昨日の今日でこんな感情が芽生えるのは普通じゃない。

(昨日あんなことがあったばかりだぞ……?)

 コップの中の水を一気に飲み干し、俺は体温計を手に取った。
 熱を測ると37.4度。あと少しで平熱だ。

 俺は「よし!」と気合を入れて、部屋に戻った。

 **

 布団の横に置いたバッグに手を伸ばすと、中に入っているヘッドギアとリストを取り出した。
 カチャカチャと装着していると、部屋のドアがコンコンと音を立て、トモヤが顔を覗かせる。

「チヒロ。僕いまからちょっと家に──って何してるの!?」

 ギョッと驚いた顔をしたトモヤが、俺の手からヘッドギアとリストを取り上げる。

「なにってゲームだけど?」
「まだ完全に熱が下がってないのに!?」
「え? トモヤ……熱がちょっと下がって、元気出たらゲームってやらない……? ゲームやってたら、そのうち下がるじゃん?」
「普通はやらないよ! もう~これだからチヒロは目が離せない」
「でも、俺ずっとそうしてきたし……」
「これからは、やらないようにしようね」

 強制的に布団に寝かされる。
 トモヤがレンを呼んで、ヘッドギアとリストを預けていた。
 ああ……俺は手を伸ばしたが、トモヤにペチンと叩かれる。

「お・と・な・し・く寝ててね」
「……はい」
 
 <暁>のトモヤ様は厳しい……。

 トモヤが家を出た後で、レンに交渉したらヘッドギア返してくれるかな?
 チラッとレンの部屋の方角を見る。すると、トモヤが黒いオーラを放って俺の両耳を引っ張った。

「この耳は僕の言ったことを、ちゃんと聞いてたかなぁ?」
「痛い痛い痛い! 聞いてた聞いてた! ちゃんと聞いてたー!」

 レンにプレスされたと思ったら、今度はトモヤかよ! ギブギブギブ!!

 俺はトモヤの手をベシベシと叩いて、白旗を上げる。

 耳ちぎれる! 俺は熱のある病人様だぞ?
 もうちょっと手加減してもよくね!?

 仕方がないので、そのまま布団に転がり俺はふて寝した。
 その日の夜には、ようやく熱も下がり、身体の方は完全復活を遂げたのだった。
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