世界を救うキスをしよう～無職ニートはJKとの口付けをきっかけに悪役令嬢へ転生する～

豪邸と入学式

悪役令嬢は質問する

「早く眼前から消えてくれませんかねえ？貴方は庶民なので、このまま轢き殺しても……」

　運転手の紳士は紳士とは思えない性悪な顔で少女を脅していた。しかし真人が駆け寄ってきたから、急に口籠ってしまった。

「あの！そこの人！」

　倒れ込んでいた少女を再度凝視したが、やはりあの時のキスJKに違いなかった。西洋チックな街並みに全くそぐわない古ぼけた自転車を使っているようだった。ドレスを着ていたが、地面に叩きつけられたからかやたらと汚れていた。

「お嬢様！」

「お嬢様！一体何を……」

「名前と出身と、ここに俺を連れていた理由を教えて下さい！！」

　真人は少女の肩をガッチリと掴んで、じっと目を合わせた。それだけでも無職ニートには厳しい事なのだが、ここで聞き出すチャンスを逃すわけにはいかなかった。目を逸らすのをぐっと我慢して、返事を待った。

「名前は、ルミア……ルミア・サラチェ。出身は遠く離れた田舎街です……あの、もう一つは一体？？」

「ルミア……さん！とぼけないで下さい！あの私鉄の駅で、俺のことを呼び止めてきたじゃないですか！？それからこんなところに飛ばされてしまって……一体何が目的なんですか？？この身体の人は誰なんですか？？どうやった元いた世界に……」

「な、何の話ですか？？何の話ですか？？」

　ルミアさんは戸惑っている様子だった。最初はとぼけているのかと思ったが、頭を大袈裟にならない程度振って、本気で困っているアピールをしているから、真人の追及も少し緩めてしまった。

「お嬢様！！！今すぐ車に戻ってください！！！」

　そしてそれを見逃さず、メイドさんは真人の腕を引っ張ってリムジンに押し込んだ。あの細い腕のどこにそのパワーが隠れているのかわからなかったが、あっさりとドアの中へ戻されていった。その最中に、

「早く退いて下さい。庶民の癖に、我々の邪魔をしないで頂けませんか？」

　という捨て台詞を吐いていた。何だこいつら。どっちが悪い交通事故なのかはわからないけれど、庶民だなんだと捲し立てるなんて心証が悪かった。ルミアさんはそそくさと道を開けて、車は急発進した。

　自転車は壊れていないのだろうか？そもそもどういった事故なのだろうか？こちらに非はあるのだろうか？もしも非が有るのであれば、謝罪をしなければ……

「あの子は、王立魔法院学院の生徒ですか？」

　メイドさんは運転手へ向けて尋ねていた。運転手は重低音を響かせて答えた。

「そうだと見受けられます。申し訳ございません。荷物をたくさん載せており、ふらふらと走行しておりましたので、うっかりぶつかってしまいました」

「轢いたことを責めているのではありません。庶民など、轢かれてしまうこと自体痴がましい。車体に貧乏が染み込んでしまうというもの。問題はあの少女が、あることないこと触れ回ることですよ」

「まあ、庶民の出の者の妄言など、聞き流しておけばいいのでは？信じるものがそう多数居られるとも思いませんし」

「それもそうですね。私達とは家の格が違いますから」

　嫌な話をしているな。真人はそう思って眉を顰めていた。もしかしてこれはただの令嬢ではなく、悪役令嬢という奴じゃないか？価値観にしても庶民に対しての当たりにしても、典型的な悪役にしか思えなかった。今の自分、クアラローズ家だっけか？を客観的に見たならば、反吐が出るほど嫌いになるだろう。

「そしてお嬢様！！！」

　その後、真人は学院に着くまで散々に叱られてしまった。どうしてあの庶民と言葉をかわしたのか。何故命令を聞けないのか？先ほど言った私の忠告はなんだったのか？などなど。真人はそれに対して申し訳ない顔をしつつ、心ではこの家に対する不平不満をふつふつと溜め込んでいたのだった。

「聞いてますか！！」
「はい聞いてます！！」

　たまにこんなやりとりを挟みつつ、車は魔法院学院に到着したのだった。