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プロローグのプロローグ
2話
しおりを挟むピピピ、ピピピ、ピピピ。
電子音が薄暗い部屋に鳴り響いている。枕元の不快な音楽を鳴らす時計のボタンをやや乱暴に叩くと瞬時にロフトのカーテンがジャーと開き朝日が流れ込んできた。
「………朝か」
一言呟いて、寝ぼけ眼でロフトの階段をおり出した。ボヤける視界に、まだ朝日は眩しく注がれる。
朝食の準備をしないとなんて考えているとだんだんと意識が覚醒に向かい、脳は記憶の中から両親にプレゼントされたメイドアンドロイドの存在を捻り出した。
「メイド、今何時?あとメシ」
少し前なら独り言だった俺の声は虚空に消えず、変わりにメイド服をきた少女型アンドロイドの声が響いた。
「お早う御座います、富永瑞木(トミナガ ミズキ)様、今日は4月1日火曜日、現在5時30分です。朝食はパンとコンソメスープ、ドリンクは牛乳を選択されました。あと寝癖をどうにかしたほうがいいかと。シャワーの用意は出来てます」
メイドの声と共に一部が鏡になった窓を見ると確かに酷い寝癖がついている。
シャワーがあるのなら使おうと鏡を消して洗面所に歩き出した。
風呂場を開ければもうミストで暖められ、シャワーの蛇口をひねれば暖かいお湯が適度な水圧で飛び出し、頭から足へと流れ落ちる。
ドアからまた少女の声が聞こえてきた。
「今日の予定ではJOSITの入隊式です、スーツを用意してあります」
「せめてシャワーの時くらいゆっくりさせてくれよ」
「残念ながら確認事項がまだ沢山ありますので」
「そーですか」
「朝は忙しいですので」
アンドロイドに朝は忙しいなんて言われるとは……。
しかし洗面台には既にタオルが置かれ、きていくスーツはビシッと整えられハンガーにかけられていた。
さすが、高かった"メイドアンドロイド"だけあるな…いやプレゼントで貰ったものだけど。
リビングのテーブルへ向かえば、トースターできつね色に焼いたような食パンがとろけたバターを纏い、湯気をホカホカとあげるコンソメスープに、ガラスコップに注がれた牛乳。
同じ会社の冷凍宅配朝食の筈なのに何で出来立て手作り朝食のなりをしているんですかね?
「解凍技術が違いますので、ただレンジで暖めれば言い分けじゃないですよ」
「今のロボットは感情まで読めるのか?」
「15年前にはできましたよ」
「……マジで?」
「マジです」
どうやら、俺のロボット知識は15年前に止まったらしい。
朝食を食べ終わり玄関に向かうと、鞄と"腕輪型デバイス"を持ってメイドが立っていた。
腕輪型デバイスを装着しながら靴を履いていると、
「分かっていらっしゃると思いますが次の路面電車は6時30分、最終駅の第2駅で首都圏環状チューブトレイン上りに乗り第4駅で降りて徒歩10分、到着時刻7時40分です」
「わかってる、傘はいらないんだな?」
「終日晴天の予報です」
「はいはい、他には?」
「特にありませんが」
「じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
鞄を受け取り、通路へでた。
磨きあげられた靴をカツカツと鳴らしながら通路を渡ってエレベーターホールに向かう。
目的地につけば、降りる為のエレベーターはスーツで黒く染まりつつあったがそこにするりと乗り込んだ。降りるときには人に押されそうになりながら路面電車のホームに向かい、腕輪デバイスの時計は6時28分。
ボケーとつっ立っている暇もなく駅員に既に窮屈になった電車に押し込まれた。この動作も最初は抵抗があったが6年間も続けて慣れたものだ。
そして電車は最終駅までその人の密度を高めながら進み、最終駅でその溜め込んだ質量を吐き出した。そのまま人の流れに添って"チューブトレイン"のホームにたどり着いた。
"首都圏大開発"の目玉の一つだったチューブトレインは、今では老朽化や旧式化の為に入れ替わる入れ替わると言われ続け、結局50年以上使われ続けられている…らしい。
らしいと言うのは"首都直下型地震"と"地獄の1年"を経験せず、首都圏大開発で新しくなった東京しか見たことのない若者の一人だからだ。
そんな下らない事を考える内に第4駅に着いたので降りて職場になる場所に歩き始める。
幅が25m程の歩道の両脇には高層ビルが規則正しく立ち、壁を形成していた。昔の東京には車道が地上にあったらしいが車道があれば、この息苦しくなるようなビルの壁から抜けられるのだろうか?
こうしている内に警視庁ビル前に着いた。
これが俺の職場になる場所か。
上を見上げていると、突然スーツの若者に尻を蹴られる。
「よう瑞木、ボサッとしてんなよ」
「イッテェ、お前、ここ警察庁前だぞ」
「軽い冗談だよ」
こいつは大沢想(オオサワ ソウ)。俺の候補生時代のバディで同じ部隊に配属された悪友だ。
「聞いたか?俺たち第六研修部隊、丸々同じ班らしいぜ」
「即戦力にしたいんだろ?何せJOSIT第2ブームで入ってきた人が定年だろ?同じ部隊の奴らの方がやり易いだろって配慮だろうけど」
「訓練中に2人がドロップアウトしたんだけどな」
「2人分欠員補充くれば問題なし」
そんな世間話をしながら受付に向かった。
「本日付でJOSIT本部第六捜査隊配属になりました、富永瑞木です」
「同じく大沢想です」
「入隊式に出席するためパスの発行をお願いします」
「了解しました、入隊試験合格通知書の提示をお願いします」
受付の女性に促され俺達は封筒の中の合格通知書を差し出した。
女性はそれを受けとると大きなスキャナーに書類を吸い込ませ慣れた手つきでパソコンを操作した。
「確認が取れましたので仮パスをデバイスに送信しました」
「ありがとうございます」
「会場は15階、第4多目的室となっています」
そういい終わると女性は目をパソコンに落とす。
俺達もエレベーターへと急いだ。
"メイドアンドロイド"
家事を人間の変わりにやってくれる存在です。
この作品では、人間サイズの人間型ロボットをアンドロイド。それ以外をロボットとします。
"腕輪型デバイス"
リアル世界の携帯にあたるガジェットです。超高性能スマートウォッチてきな?
チューブトレイン
内部が真空のチューブを走るリニアモーターカー。
作中では首都圏一体を環状線で走っています…え?東京湾?…入り口あたりある25Mの防波堤の上を走ってますよ。
"首都圏大開発"
首都直下型地震で壊滅的被害を受けた作中日本。この際首都圏を更地にして計画的に都市を建てようぜ。と言う計画。凄いのはホントに実現させたこと。
因みに目玉はチューブトレイン、東京湾大堤防、新東京空港、車道の地下化
"地獄の一年"
首都直下型地震で首都機能が消滅。国家維持の為に日本全体が頑張った一年間のこと。政治家の何割かは過労死した
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