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ネットの仲間たち
秋葉原を歩こう
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「この街も色々変わったな。表通りはカフェのキャッチ、裏はジャンクのPC屋が古今様々な商品を並べてる。」
「で、今歩いてるのはオフィス街ですか。」
蕎麦屋を出たオレはコージの足取りを追って、灰色のビルの合間を歩いて行く。
「あ、そこ、オレの職場な。今度この街に来た食いに来いよ。スマイル奢ってやる。」
コージが顎で指した先には立ち食い蕎麦屋がある。今も中では数人の客が入っているのがみえる。
「あっちの通りはよ、どっちを通るにしても眩しいんだよ。アキバの雰囲気を楽しんでるわけでもねぇ、お目当てのお宝を探し歩いてるわけでもねぇ。オレはここへ、この街で仕事してる相手に、その昼飯を食わせに来てる。蕎麦屋のパートでも、背広組のお仲間みたいなもんだ。」
バイトじゃなくて、パートになる辺り、大人の哀愁を感じさせる。
「お前と一緒に歩けば、ちっとは雰囲気が変わると思ったがやっぱり華がねぇな。」
カラカラと笑うコージはそれでも少し楽しそうに見える。
「パーツに詳しければ、何処屋の誰それを紹介なんて、大人の自慢と貫禄を見せてやれるのに、それもねぇ。」
「コージとは、普通の友達でいいよ。鴨南蛮、美味しかったし。」
それは素直な感想だ。さっき奢って貰った蕎麦は、まだ腹を温めている。
「世間様はもう少し冬だろうからよ、風邪ひくんじゃねぇぞ。家帰ってゲームやるだけじゃ、ろくに歩かないしな。こうやって歩くのもいいだろ。」
「登下校で毎日歩いてるよ。まだ、一応学生だし。」
「そいや、それもそうか。失敬失敬。」
「そういう所、コージもオッサンだね。たぬきグランマさんみたいに世話焼きだったり。」
「たぬ婆さんも、歳なら歳で、元気で居てもらいてぇのは変わらねぇよ。」
ぶらぶらと歩く街で、すれ違う相手もそれほど多くない。どこかの店に入るでもない。
秋葉原という街にいるのに、ただ友達と歩くだけという感覚に、あまり悪い気はしなかった。
「ああでも、サウザンドさんや、ニアさんには会ってみてぇなぁ。」
「案外男かもしれないよ?」
「それならそれで、キラキラしてそうだろ、くたびれたオレと違ってさ。」
「サウザンドさんはあの寡黙でビシッとした所。時間をキッチリ決めて、規則正しさがある当たり、ヒトカドって感じがするだろ。MMOやってるオレ達みたいな人種でも、リアルも大事にしてますって感じでさ。でもその中に、ヌケてる部分があったり、不得意があったりする、不完全さ。ああいうのがいいんだよ。」
「そうですね。」
「ニアさんは、もう完全に天然・無知・無地系をやってるが、アレはキャラ作りだろ。ああいう人が実は、裏ではバリバリの完璧超人で、クールだったりするんだよ。」
「そうかもしれないね。」
「オレはなぁ!オフ会でそういう二人の、ゲーム内とリアルでのギャップを見てみたかったんだよ!タロウ、お前も分かるだろ?」
「もうあきらめろよコージ。次の機会を待とう。」
もしかしたら、そういう事もあと少しであったのかもしれないんだ。脈がないわけじゃない。
新しい仲間も増えるかもしれないし、また別の出会いに期待する時間は、まだあるだろうと思う。
「よし、またやるぞオフ会。お前も来い、タロウ。それと今日の自慢話だ。二人で駅前ビルの焼肉食ったことにしようぜ。」
「そういう嘘は好きじゃない。鴨南蛮を食べてオフィス街でダベって歩いたと報告するよ。」
「みんなでコラボテナントやカラオケ行きてぇなぁ!目的なしの観光ショッピングしてぇなぁ!」
自棄になって願望を垂れ流し始めたコージを見ているのは、なんとなく楽しい。
コージの表情も、ゲーム内でのうなだれた仕草と違って、頬が緩んでいるようにみえるし、会話が止まる事はない。何となく居心地がいい、ゲームと変わらない関係で。
リアルという新しいアバターで会話をしているだけのような感じはする。
それは、サウザンドさんが来なかったからこそ、でもあるのかもしれない。
変に気取ることもない、着飾ることもない関係。
「オレも仲間と一緒に、あの表通りを、メイドのキャッチを無視しながら肩で風を切って歩きてぇよぉ。」
コージのこういう嘆き、その口数の多さも、案外の楽しさの照れ隠しなのかもしれない。
「でも、たぬ婆さんがきたら、二人で介護だからな。」
「そもそも、皆、簡単に集まれる関東圏に住んでるとは限らないでしょ。北陸とか四国とか、北海道とか、沖縄とかだったり。関西でもけっこう大変だよ。」
「だよなぁ。」
「じゃ、オレ、末広町だから。気をつけて帰れよタロウ!またな。」
曇った空が薄暗くなり始めた四時過ぎ。
コージは後ろ手を降って背を向ける。秋葉原駅の電気街口前でその背中が小さくなっていくのをその場でぼんやりと見ていた。
「あ、あの!」
後ろから急に甲高い声をかけられる。
振り返ると、どこかで見た様な学生服をきた、小学生か中学生ぐらいの子供が立っていた。
今日、どこかで見たような気がする。
「お、お財布のお金が足りなくって、その、か、帰れなくなっちゃって。」
何か喋っているのを横目に、何処で見たのかを思い出す。
「あ、お蕎麦屋の。」
「お、お蕎麦も、電車代も、思ったよりも高くて。その、お金足りなくなっちゃって。」
目の前の女の子は目に涙をため始め、声も震えている。その姿に、早速周囲の注目を集めているような気がする。
交番は何処に会っただろうかあたりを見回す。こういう時に運賃を貸してくれるって話を思い出した。
「た、タロウさん、ですよ、ね?」
上目遣いに同意を求めてくる。
「黄色い毛糸帽子と、黄色いマフラーと、さっきの人はコージさんで、そのっ。」
「サウ、ザンド、ですっ。た、助けてください。」
そこまで一息に言うと、少女のその目から涙が一杯に溢れ出した。
「で、今歩いてるのはオフィス街ですか。」
蕎麦屋を出たオレはコージの足取りを追って、灰色のビルの合間を歩いて行く。
「あ、そこ、オレの職場な。今度この街に来た食いに来いよ。スマイル奢ってやる。」
コージが顎で指した先には立ち食い蕎麦屋がある。今も中では数人の客が入っているのがみえる。
「あっちの通りはよ、どっちを通るにしても眩しいんだよ。アキバの雰囲気を楽しんでるわけでもねぇ、お目当てのお宝を探し歩いてるわけでもねぇ。オレはここへ、この街で仕事してる相手に、その昼飯を食わせに来てる。蕎麦屋のパートでも、背広組のお仲間みたいなもんだ。」
バイトじゃなくて、パートになる辺り、大人の哀愁を感じさせる。
「お前と一緒に歩けば、ちっとは雰囲気が変わると思ったがやっぱり華がねぇな。」
カラカラと笑うコージはそれでも少し楽しそうに見える。
「パーツに詳しければ、何処屋の誰それを紹介なんて、大人の自慢と貫禄を見せてやれるのに、それもねぇ。」
「コージとは、普通の友達でいいよ。鴨南蛮、美味しかったし。」
それは素直な感想だ。さっき奢って貰った蕎麦は、まだ腹を温めている。
「世間様はもう少し冬だろうからよ、風邪ひくんじゃねぇぞ。家帰ってゲームやるだけじゃ、ろくに歩かないしな。こうやって歩くのもいいだろ。」
「登下校で毎日歩いてるよ。まだ、一応学生だし。」
「そいや、それもそうか。失敬失敬。」
「そういう所、コージもオッサンだね。たぬきグランマさんみたいに世話焼きだったり。」
「たぬ婆さんも、歳なら歳で、元気で居てもらいてぇのは変わらねぇよ。」
ぶらぶらと歩く街で、すれ違う相手もそれほど多くない。どこかの店に入るでもない。
秋葉原という街にいるのに、ただ友達と歩くだけという感覚に、あまり悪い気はしなかった。
「ああでも、サウザンドさんや、ニアさんには会ってみてぇなぁ。」
「案外男かもしれないよ?」
「それならそれで、キラキラしてそうだろ、くたびれたオレと違ってさ。」
「サウザンドさんはあの寡黙でビシッとした所。時間をキッチリ決めて、規則正しさがある当たり、ヒトカドって感じがするだろ。MMOやってるオレ達みたいな人種でも、リアルも大事にしてますって感じでさ。でもその中に、ヌケてる部分があったり、不得意があったりする、不完全さ。ああいうのがいいんだよ。」
「そうですね。」
「ニアさんは、もう完全に天然・無知・無地系をやってるが、アレはキャラ作りだろ。ああいう人が実は、裏ではバリバリの完璧超人で、クールだったりするんだよ。」
「そうかもしれないね。」
「オレはなぁ!オフ会でそういう二人の、ゲーム内とリアルでのギャップを見てみたかったんだよ!タロウ、お前も分かるだろ?」
「もうあきらめろよコージ。次の機会を待とう。」
もしかしたら、そういう事もあと少しであったのかもしれないんだ。脈がないわけじゃない。
新しい仲間も増えるかもしれないし、また別の出会いに期待する時間は、まだあるだろうと思う。
「よし、またやるぞオフ会。お前も来い、タロウ。それと今日の自慢話だ。二人で駅前ビルの焼肉食ったことにしようぜ。」
「そういう嘘は好きじゃない。鴨南蛮を食べてオフィス街でダベって歩いたと報告するよ。」
「みんなでコラボテナントやカラオケ行きてぇなぁ!目的なしの観光ショッピングしてぇなぁ!」
自棄になって願望を垂れ流し始めたコージを見ているのは、なんとなく楽しい。
コージの表情も、ゲーム内でのうなだれた仕草と違って、頬が緩んでいるようにみえるし、会話が止まる事はない。何となく居心地がいい、ゲームと変わらない関係で。
リアルという新しいアバターで会話をしているだけのような感じはする。
それは、サウザンドさんが来なかったからこそ、でもあるのかもしれない。
変に気取ることもない、着飾ることもない関係。
「オレも仲間と一緒に、あの表通りを、メイドのキャッチを無視しながら肩で風を切って歩きてぇよぉ。」
コージのこういう嘆き、その口数の多さも、案外の楽しさの照れ隠しなのかもしれない。
「でも、たぬ婆さんがきたら、二人で介護だからな。」
「そもそも、皆、簡単に集まれる関東圏に住んでるとは限らないでしょ。北陸とか四国とか、北海道とか、沖縄とかだったり。関西でもけっこう大変だよ。」
「だよなぁ。」
「じゃ、オレ、末広町だから。気をつけて帰れよタロウ!またな。」
曇った空が薄暗くなり始めた四時過ぎ。
コージは後ろ手を降って背を向ける。秋葉原駅の電気街口前でその背中が小さくなっていくのをその場でぼんやりと見ていた。
「あ、あの!」
後ろから急に甲高い声をかけられる。
振り返ると、どこかで見た様な学生服をきた、小学生か中学生ぐらいの子供が立っていた。
今日、どこかで見たような気がする。
「お、お財布のお金が足りなくって、その、か、帰れなくなっちゃって。」
何か喋っているのを横目に、何処で見たのかを思い出す。
「あ、お蕎麦屋の。」
「お、お蕎麦も、電車代も、思ったよりも高くて。その、お金足りなくなっちゃって。」
目の前の女の子は目に涙をため始め、声も震えている。その姿に、早速周囲の注目を集めているような気がする。
交番は何処に会っただろうかあたりを見回す。こういう時に運賃を貸してくれるって話を思い出した。
「た、タロウさん、ですよ、ね?」
上目遣いに同意を求めてくる。
「黄色い毛糸帽子と、黄色いマフラーと、さっきの人はコージさんで、そのっ。」
「サウ、ザンド、ですっ。た、助けてください。」
そこまで一息に言うと、少女のその目から涙が一杯に溢れ出した。
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