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うっさこ

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ネットの仲間たち

少女の正体を探って

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妹より少し上、か、同じぐらいの年頃の様に見える少女は、手に小さな財布を持ってモゴモゴとしている。

「サウザンド、さん?」

「そ、そうですっ。た、タロウさんっ、でっ、ですよね?」
鼻をすすり溢れる涙を拭って。必死そうに、こっちを見上げている。

「どこまで?」

「っ、なんっ、ですかっ?」

伝わらなかっただろうか?もう一度尋ねることにする。
「どこまで帰るの?電車賃はいくら?」

周囲の目は徐々に増え続けている。一方的な悪人にされてしまう前に、泣き止んで貰わないと、善意の無関係者に介入されて、面倒なことになりそうな気がした。

「きっ、北浦和までっ、です。」
聞き馴染みのある駅名だった。

「400円あれば足りるね。そこからバスに乗ったりは?電車賃だけで足りる?」

「たっ、足ります!帰れますっ!」
少女は表情を崩して、また涙を頬に伝わせながら、必死にコチラを見上げている。

財布を取り出して、小銭入れを確認する。幸いコージに鴨南蛮を奢ってもらって、来る時に切符代に崩した小銭がまるまる残っていた。
秋葉原でオフ会と心を弾ませて、奮発して持ってきたお金も手つかずで残っている。

仮に目の前の少女が、新手の「何か」だったとしても。400円で済むなら、とりあえずは問題ない。

「はい。」
新造みたいにピカピカな500円玉を手のひらに乗せて差し出す。

「50円、あればっ!足りますっ!」
「何があるかわからないから。」

小さい手が、オレの手のひらに触れて、500円玉を手に取る。
「あっ、ありがとっう、ごっざいます!」

しっかりとお金をその手で掴むと、少女はお辞儀をする。拍子に背負った革鞄の中身がカラカラと音を立てる。

そのまま少女は改札の切符券売機へと走っていく。周囲の目はそこでパラパラと散っていく。
彼女が無事切符を買えたのを見届けて、改札へと向かう。ICカードには今朝チャージを済ませてあったから、問題ない。



まぁ、そうなるだろうな、とは思っていた。
言葉に嘘がなければ、帰る方向が同じなのだから、同じ電車にのることになるのだ。
次に京浜東北線の下り路線に到着するのは「南浦和行き」ではなく「大宮行き」の普通電車だった。

少女はまだ泣き腫れた頬をそのままに、駅のホームに立っている。
そこから1ドア分だけ離れて、同じ車両になるだろう場所にオレは立っている。

妹の年齢ぐらいの子が、無事帰れるかという心配はちょっとあった。
友だちと遊んだり、出かけたりしないインドアな妹なら、埼玉から秋葉原まで来るのはかなりの冒険だろう。
オレだって、横浜まで行くような事があれば降車駅や電車賃が心配で落ち着かないだろう。

到着した電車のドアが開く。車両に彼女が乗り込むのを目で見送り、同じ車両に自分も乗り込む。
休日夕方なのもあり、車内はかなり混み合っていた。どうやら座れそうな席はない。

つり革を手に、なるべく彼女の方に背を向け、距離を取る。
少女はドアの脇の手すりをしっかりと掴んで、小さくなっている。

田端駅を過ぎた頃、どうやら座席に座れたようで、電車そのものに慣れていない訳ではなさそうだった。

友達とのお出かけや通学とも違う、遠くの駅まで一人で来た緊張感が一番大きかったのだろう。
もしかしたら、ある程度は生活圏に入ったのかもしれない。

彼女が椅子に座っているのを、つり革を掴みながら、横目で確認する。何をするでもない。じっと座っているだけだった。本を読んだり、膝の上の革鞄を覗き込んだりもしない。身体を強張らせたように、座っている。


赤羽を超えて、荒川の上を通過する。都内を出て埼玉に入ると、多くの埼玉人は恐らく共通の安心感を得るだろう。
オレもその例外ではなかった。イベントが終わって、家が近づいてくる感覚。都内という娯楽地を出る物寂しさよりも、安堵や開放感の方が勝るのだ。それは帰巣本能に似たものかもしれない。

少女もそうして、余裕が出てきたのか、顔を上げて窓の外を見ている。
どうやら「新手の何か」ではなかったと、オレはようやく確信を持てた。

だがとなるとやはり、あの少女が本当に「サウザンドさん」だった、と言う事でいいのだろうか。
未だにその確信は持てない。秋葉原の改札前での出来事を思い出す。

オレは今日、秋葉原の電気街口でコージとサウザンドさんが来るのを待っていた。
到着後は改札側を見ていたが、あの子を見かけた記憶はない。
となると、既に到着していたか、コージと合流し電気街口を離れた後に到着したことになる。

蕎麦屋の遭遇も偶然だとしたら奇跡的な確率だ。よく考えれば、あんな子が、一般的なチェーンの飲食店ではなく、蕎麦屋チョイスし入ってくるというのも、玄人感がありすぎる。
挙動からも、秋葉原に出入りするそんなプロの幼女という感じもしない。

やはり、サウザンドさんなのか。本当にサウザンドさんなのか。
まさかとは思うが、きっとオレよりも早く電気街口入りして、コージと合流した後からずっと付かず離れずついてきていたのだろうか。

思ったよりも高い「普通のお蕎麦屋さんのお蕎麦」に、帰りの電車賃がなくなってしまうなんてアクシデントがなければ、オレたちに声をかけることもなく、帰っていたのだろうか。

そこまで思考した時、「南浦和駅」の降車ドアが丁度閉じた所だった。
乗り換えるのを忘れて、瞬間、慌てる。しかし、まぁ、この際だ。



電車が浦和駅を発つと、次の駅が北浦和であることを伝える。
サウザンドさんであるらしき少女は椅子から立ち上がると、開くドアの前にたって手すりに掴まる。
オレはその後姿を見る。帰り先が北浦和駅というのも、どうやら本当の事の様だ。秋葉原駅での一件を思い出す。

電車が停まり、ドアが開く。秋葉原駅で見せたような戸惑いはその足取りから感じさせなかった。
迷うような雰囲気もなく、駅の上り階段へと向かっていく。オレもその後ろを少し離れて歩く。

2階の改札を抜けて、少女は東口側へと曲がる。どうやらここでお別れのようだった。
無事に最寄り駅にたどり着いただろうことを見届けて、少女に背を向けて西口側へと曲がる。


記憶の通りなら、埼玉大学方面へとバスで行けば、多分、家に近くに辿り着けるだろう。
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