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うっさこ

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ネットの仲間たち

その夜のログインにて

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「ではなにか。男二人、示し合わせて集まって、鴨南蛮を食べて、ダベって歩いて帰ったと。」
ボルドーで、オレとたぬきグランマさんのリアカーにワインとブランデーを積み込みながら、今日の報告会が行われていた。

大陸運時代onlineでは、今日の報告を今か今かと、ニアさんとたぬきグランマさんがログインして待っていた。

追って定時の21時にログインしたサウザンドさんを待って、酒造取引量スキルを増やすための淡々とした積み込み作業が行われている。オフ会の報告は文字通り、その作業の酒の肴になった。

「失格ダメダメやり直しじゃ。馬鹿共め。男二人なら二人できゃっきゃウフフとメイド喫茶に入る気概ぐらい持たねばの!」

「嫌ですよそんなの。どうやって楽しめばいいかわからないですし。」

「そこでオドオド、ドギマギ、アタフタした赤裸々な体験報告からしか、ワシの肥えた目耳は多幸感を得られないのじゃ。何じゃその淡白な、うすーい味のオフ会報告は。」

それならそれで、自身も参加すればよかったじゃないか、と思わないでもない。けれど、当事者であるコージはまだログインしてこない上に、オレ自身もその驚くほどタンパクで薄味な体験報告に対する批判に、共感せざる得ない部分がある事を納得していた。

「カモナンバンって美味しいんですか?」
ニアさんの興味は明後日を向いている。こちらに対しても、どう対応していいか困る。

「まぁ、美味しかったですよ。コージが奢ってくれたし。」

「そういう甲斐性は男同士ではなく、おなごに対してするもんじゃろがっ!コミュに飢えた男同士で愛の無いイチャイチャをしよってからに!」

仕草で言葉で地団駄を踏みながらも、たぬきグランマさんはリアカーに酒類を詰め込んでいる。

ふと目を向けると黙々と一人、サウザンドさんはオレのリアカーにワインを積み込んでいる。
会話にも積極的に参加してくる気配はない。

「サウザンドさん。」
「はい。なんですか?」
反応は早い。よそ見をしているとかそういう事でもないようだ。しかし。

「オレのリアカー、もう満杯です。たぬきグランマさんの方に。」
「あ、ごめんなさい。」
注意力は散漫になっている様子である。

「その分でこっちも満載じゃな。出発するぞー。」
たぬきグランマさんがリアカーを持ち上げる。こっちもリアカーを持ち上げて郊外へと移動を始める。

「私もいつか、カモナンバン食べてみたいです。食べれますか?」
「どうじゃろうの。オフ会に参加してコージの奴にねだってやれば、喜んで食わせてくれるじゃろう。」
偵察職のニアさんが隊列の前に出る。隣町までとは言え、山賊が出ない場所でもない。
ニアさんはトボケながらも、やることはしっかりとやっているから、どこまでが冗談かまるで判らない。



「お疲れ様でした。」
そう述べて、ログアウトを押す。結局、コージはその日ログインしてこなかった。
まぁ、そういう日もあるのかもしれない。或いは日中をオフ会に空けたので、夜勤になってしまったのだろうか。

ゲームを閉じると、IMインスタントメールアプリに着信があるのが目に入る。
送り主は、サウザンドさんからだった。

『サウザンド:今日は本当にありがとうございました。お借りした500円は必ずお返しします。』
どうやら本当に、あの少女はサウザンドさんだったらしい。しかし、どうやって返すつもりなのだろう。
流石に二人で会うというのは、抵抗も、心配もあった。

『タロウ:気にしなくていいですよ。無事に帰れたのであれば何より。』
寝てしまっているだろうが、返信だけしておく。自分の妹ぐらいの子から借金を取り立てるような構図も、心苦しさがあった。

『ニア:明日はいつ、ログインしますか?』
入れ違う様に、いつも通り、ニアさんからIMが送られてくる。

『タロウ:日曜日なので昼過ぎかな。ニアさん、ちゃんと寝てくださいね。』
キャラが強い廃人もいれば、ニアさんの様にコミュ廃人勢もいるのだと、なんとなく思うことが増えてきた。
ゲームでのモチベーションがコミュニケーションに極振りされている人種も、いるものなのかもしれない。

実際、ニアさんはそんなにゲームキャラとしての成長をしているわけでもない。
勿論、ゲーム下手という訳ではなく、役割をおろそかにすること無く、器用にこなしてくれるのだが、その中でも、何事にも、話しかける事や、話に参加することが優先されている。

コミュ中毒、という言葉が一瞬よぎる。

『ニア:明日も楽しみにしています。』
いつも通りの返事が、直ぐに返ってくる。


そういえば今更ながら、明日はバレンタインデーだった事を、思い出す。
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