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アイルの叱責
「王子様? 顔色が悪いです。どうしたんですか?」
「ア……アレクサンドラ! これはいったいどういうことだ!? 君は私を騙したのか!」
「え? え? 何のことです? アタシは王子様を騙してなんかいませんよ?」
なにやら言い争いを始めた王子とアレクサンドラという少女。
背後に控える側近達は今にも泣きそうな顔で少女を見ている。
「とぼけないでくれ! 君はいつもカレンデュラ女公爵が自分を捨てたと嘆いていたではないか! 父親違いの姉ばかり贅沢な暮らしをしてずるいと言っていたろう? あれは嘘だったのか!」
「ええっ!? 嘘じゃありませんよ? だってお父様がそう言っていたもの! アタシは本当は公爵家のお嬢様として暮らすはずを、冷たいお母様に捨てられたんだって! ……王子様だって信じてくれたじゃないですか? そうですよね? ねえ、みんな?」
少女は背後の側近達に同意を求めようとするも、彼等は全員少女から目を背けた。関わりたくないとばかりに。
先程まで少女の騎士を気取っていたというのに、その変わり身の早さに呆れてしまう。
「……はあ、騒がしいこと。めでたき祭りの日に我が屋敷の前で招かれざる者が徒党を組み、皇女殿下に向かって威圧するなど、断じて許されることではありません。いかなる身分であろうと、礼を欠く者は客ではなくただの無作法者。これ以上騒ぐのであれば、こちらも強硬手段に出ます」
クロエの毅然とした声に王子と側近たちは口を噤む。だが、場の空気が凍りつく中でただ一人の少女だけがクロエをキッと見据えた。
「ひどいわ、お母様! 王子様たちはアタシのために言ってくれたのに……そうやって否定ばかりして! どうして……どうしてアタシを捨てたの? どうして、その”悪役令嬢”ばかりを可愛がるのよ! アタシだってお母様の娘なのに……こんなのひどい!」
皇女を指差し、再びハッキリと『悪役令嬢』だと断言する少女に周囲の空気が凍りついた。
クロエに見当違いの嘆きをぶつけるばかりか、皇女への度重なる無礼。王子は慌てて少女の口を塞ぐも時すでに遅し。婚約者と母親を愚弄されたことで怒りを露わにしたアイルが少女を睨みつけて低い声で告げる。
「貴様……一度ならず二度も我が婚約者を愚弄したな。それと、我が母が貴様を産んだ? 母上のような淑女から貴様のような阿婆擦れが産まれるものか! 戯言をぬかすな!!」
傍らの皇女を守るように抱き寄せ、アイルは少女たちに厳しい言葉を向ける。
叱責された少女は瞳からぶわっと涙を溢れさせた。
「ひ……ひどいわ、お兄様! どうしてそんな女を庇うのよ!? その女はアタシに嫌がらせをするような最低な女なのよ!」
「黙れ! それ以上我が婚約者を侮辱する言葉を吐くことは許さぬ。それと赤の他人に兄などと呼ばれる筋合いはない!」
アイルの叱責に「ひどい!」と叫んで泣きつく少女に、王子は一瞬たじろぐ。先ほどまでの親密さは影を潜め、彼は困惑したまま距離を取ろうとしていた。今になって自分のしたことがどれほどのものかを理解しても遅い。クロエは可哀想な者を見るような目を向けた後、騎士に命じた。
「第一王子殿下を除いた者達すべてを捕らえなさい」
一切の迷いも含まぬ声が場に落ちる。次の瞬間、屋敷の影や門の内側から、甲冑の擦れる音が響いた。控えていた騎士たちが一斉に姿を現し、整然と隊列を組んで前へ出る。その動きに無駄はなく、長年この家に仕えてきた者たちの練度がはっきりと表れていた。
「な……っ、待ってくれ、カレンデュラ女公爵! このまま大人しくこの場を去るから、今回だけはどうか見逃してくれ……!」
「いいえ、殿下。それはなりません。ここはわたくしの屋敷。礼を欠いた不届き者をどうするかはわたくしが決めます」
クロエが冷ややかに言い放つと、王子の顔には絶望が浮かんだ。
側近や少女ざわめくが、騎士たちはすでに間合いを詰め逃げ道を塞いでいる。剣は抜かれていない。それでも、その無言の圧だけで十分だった。
「大人しく従いなさい。これ以上、場を汚すことは許しません」
やがて騎士たちは王子を除いた者達を取り囲み、身柄を押さえる。
それを確認し、クロエは騎士に「第一王子殿下を王宮まで送って差し上げて」と命じる。
騎士は深々と頷き、絶望に項垂れる王子を丁寧に、しかし有無を言わさぬ態度で馬車まで連行した。
彼らの姿が消え、静かになったその場に祝祭の音楽が遠くから再び響いてきた。
「ア……アレクサンドラ! これはいったいどういうことだ!? 君は私を騙したのか!」
「え? え? 何のことです? アタシは王子様を騙してなんかいませんよ?」
なにやら言い争いを始めた王子とアレクサンドラという少女。
背後に控える側近達は今にも泣きそうな顔で少女を見ている。
「とぼけないでくれ! 君はいつもカレンデュラ女公爵が自分を捨てたと嘆いていたではないか! 父親違いの姉ばかり贅沢な暮らしをしてずるいと言っていたろう? あれは嘘だったのか!」
「ええっ!? 嘘じゃありませんよ? だってお父様がそう言っていたもの! アタシは本当は公爵家のお嬢様として暮らすはずを、冷たいお母様に捨てられたんだって! ……王子様だって信じてくれたじゃないですか? そうですよね? ねえ、みんな?」
少女は背後の側近達に同意を求めようとするも、彼等は全員少女から目を背けた。関わりたくないとばかりに。
先程まで少女の騎士を気取っていたというのに、その変わり身の早さに呆れてしまう。
「……はあ、騒がしいこと。めでたき祭りの日に我が屋敷の前で招かれざる者が徒党を組み、皇女殿下に向かって威圧するなど、断じて許されることではありません。いかなる身分であろうと、礼を欠く者は客ではなくただの無作法者。これ以上騒ぐのであれば、こちらも強硬手段に出ます」
クロエの毅然とした声に王子と側近たちは口を噤む。だが、場の空気が凍りつく中でただ一人の少女だけがクロエをキッと見据えた。
「ひどいわ、お母様! 王子様たちはアタシのために言ってくれたのに……そうやって否定ばかりして! どうして……どうしてアタシを捨てたの? どうして、その”悪役令嬢”ばかりを可愛がるのよ! アタシだってお母様の娘なのに……こんなのひどい!」
皇女を指差し、再びハッキリと『悪役令嬢』だと断言する少女に周囲の空気が凍りついた。
クロエに見当違いの嘆きをぶつけるばかりか、皇女への度重なる無礼。王子は慌てて少女の口を塞ぐも時すでに遅し。婚約者と母親を愚弄されたことで怒りを露わにしたアイルが少女を睨みつけて低い声で告げる。
「貴様……一度ならず二度も我が婚約者を愚弄したな。それと、我が母が貴様を産んだ? 母上のような淑女から貴様のような阿婆擦れが産まれるものか! 戯言をぬかすな!!」
傍らの皇女を守るように抱き寄せ、アイルは少女たちに厳しい言葉を向ける。
叱責された少女は瞳からぶわっと涙を溢れさせた。
「ひ……ひどいわ、お兄様! どうしてそんな女を庇うのよ!? その女はアタシに嫌がらせをするような最低な女なのよ!」
「黙れ! それ以上我が婚約者を侮辱する言葉を吐くことは許さぬ。それと赤の他人に兄などと呼ばれる筋合いはない!」
アイルの叱責に「ひどい!」と叫んで泣きつく少女に、王子は一瞬たじろぐ。先ほどまでの親密さは影を潜め、彼は困惑したまま距離を取ろうとしていた。今になって自分のしたことがどれほどのものかを理解しても遅い。クロエは可哀想な者を見るような目を向けた後、騎士に命じた。
「第一王子殿下を除いた者達すべてを捕らえなさい」
一切の迷いも含まぬ声が場に落ちる。次の瞬間、屋敷の影や門の内側から、甲冑の擦れる音が響いた。控えていた騎士たちが一斉に姿を現し、整然と隊列を組んで前へ出る。その動きに無駄はなく、長年この家に仕えてきた者たちの練度がはっきりと表れていた。
「な……っ、待ってくれ、カレンデュラ女公爵! このまま大人しくこの場を去るから、今回だけはどうか見逃してくれ……!」
「いいえ、殿下。それはなりません。ここはわたくしの屋敷。礼を欠いた不届き者をどうするかはわたくしが決めます」
クロエが冷ややかに言い放つと、王子の顔には絶望が浮かんだ。
側近や少女ざわめくが、騎士たちはすでに間合いを詰め逃げ道を塞いでいる。剣は抜かれていない。それでも、その無言の圧だけで十分だった。
「大人しく従いなさい。これ以上、場を汚すことは許しません」
やがて騎士たちは王子を除いた者達を取り囲み、身柄を押さえる。
それを確認し、クロエは騎士に「第一王子殿下を王宮まで送って差し上げて」と命じる。
騎士は深々と頷き、絶望に項垂れる王子を丁寧に、しかし有無を言わさぬ態度で馬車まで連行した。
彼らの姿が消え、静かになったその場に祝祭の音楽が遠くから再び響いてきた。
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