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苦い薬
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「とりあえず……一年経ったら離縁してもいいわよね」
朝食をとった後、疲れた体を再びベッドに沈めて私はそう呟いた。
リヒャルトが望むのなら夫婦関係を続けると約束はしたが、それを一生続けるとは言っていない。
屁理屈だとは分かっているが、こちらを好きでもないし大切にもしてくれない相手と一生を共にしたくない。
おまけにこれから今までの仕返しをされるのかと思うと気が重い。
確かに新婚早々一年も放置したレイチェルが悪い。
だけど、その償いとして自分の一生を使う必要はないのではないか。
彼にした行いに対して同等の償いを、というのであればこちらも一年彼からの冷遇を我慢すればいい。
「はあ…………気が重い……」
あんなに綺麗な男性から夫婦関係を続けたいと、閨を共にしたいと言われ勘違いをした。
実は彼がレイチェルのことを愛していたという、物語でお決まりのパターンかと。
自分を嫌いだと思っていた相手が実は自分のことを好きで、重たいほどの愛を受ける溺愛生活になるのかと期待してしまった。現実はそんなに甘くないというのに、異世界転生したことでそういう上手い話もあると勘違いをしてしまったのだ。
勝手に勘違いをして勝手に裏切られたと嘆いているだけなのは十分に分かっている。
それにこれでは結婚式でのレイチェルと同じだ。
しかし、私はレイチェルのように自分の望む対応じゃなかったとその怒りをリヒャルトにぶつけるつもりはない。
彼の恨みも甘んじて受け入れるつもりだ。といっても一生ではなく、彼が冷遇された期間と同等の年数の間だけ。
それが過ぎたらきちんと話し合って離縁しようと思う。
もちろん無駄に時間を使わせてしまった分だけの慰謝料だって払う。
それでもう終わりにしたい……。
こちらを好きでもない相手とずっと夫婦でいるなんて私には無理だ。
「あ、そうだ……アレ飲まなくちゃ……」
アレとはマーサに頼んで用意してもらった薬湯のこと。
私は匂いからして苦いその薬を手に取り、一気に飲み干した。
「うええ……苦い。それに臭いわ。何使ってんのよこれ……」
この苦くて臭い薬湯はこの世界の避妊薬だ。前世のものとは違いかなり飲みにくいうえに量が多い。
こんな不味い物を大きめのカップ一杯分飲み干さなければ効果がないとか拷問だ。
これから毎回閨の後にこれを飲まなければならないかと思うと辛い。
だが、離縁する相手の子を妊娠するわけにもいかないので我慢するしかない。
「……………………我慢?」
私が我慢すればいい、という考えに疑問を覚えた。
果たしてその我慢はリヒャルトの為になるのだろうかと。
もし自分が彼の立場なら妻が嫌々抱かれていたと知れば相当ショックを受けると思う。
そう考えると、私の行動は再び彼を傷つけるだけのものだ。
嫌だけどそれでリヒャルトの溜飲が下がるなら……などとまるで悲劇のヒロインぶった思考が気持ち悪い。
「今のままじゃお互い不幸になるだけだわ。やっぱりもう少し話し合わないと……」
思えば昨日の話し合いはリヒャルトの勢いに押されて彼の希望をそのまま受け入れてしまった。それが彼への贖罪になると思ったから。
確かに私……というよりレイチェルは彼にひどいことをした。それは間違いない。
そのことについて、償う方法も含めてもう少し話し合って妥協案を見つけた方がいいのではないかと思う。
よし早速リヒャルトの元へ話し合いに行こう、と思いベッドから起き上がったところで寝所の扉が乱暴に開かれた。
「レイチェル様…………!!」
「え? リヒャルト様? どうなさったのですか……?」
息を切らしながら寝所に入ってきたリヒャルト。
その鬼気迫った様子に驚いていると、彼はおもむろに頭を下げた。
「卑怯な真似をして申し訳ありませんでした!」
「え? え?」
いきなり謝罪され困惑する私と頭を下げたままの夫。
訳が分からないのでとりあえず頭を上げてもらい、詳しく話してもらうため椅子へと座らせた。
朝食をとった後、疲れた体を再びベッドに沈めて私はそう呟いた。
リヒャルトが望むのなら夫婦関係を続けると約束はしたが、それを一生続けるとは言っていない。
屁理屈だとは分かっているが、こちらを好きでもないし大切にもしてくれない相手と一生を共にしたくない。
おまけにこれから今までの仕返しをされるのかと思うと気が重い。
確かに新婚早々一年も放置したレイチェルが悪い。
だけど、その償いとして自分の一生を使う必要はないのではないか。
彼にした行いに対して同等の償いを、というのであればこちらも一年彼からの冷遇を我慢すればいい。
「はあ…………気が重い……」
あんなに綺麗な男性から夫婦関係を続けたいと、閨を共にしたいと言われ勘違いをした。
実は彼がレイチェルのことを愛していたという、物語でお決まりのパターンかと。
自分を嫌いだと思っていた相手が実は自分のことを好きで、重たいほどの愛を受ける溺愛生活になるのかと期待してしまった。現実はそんなに甘くないというのに、異世界転生したことでそういう上手い話もあると勘違いをしてしまったのだ。
勝手に勘違いをして勝手に裏切られたと嘆いているだけなのは十分に分かっている。
それにこれでは結婚式でのレイチェルと同じだ。
しかし、私はレイチェルのように自分の望む対応じゃなかったとその怒りをリヒャルトにぶつけるつもりはない。
彼の恨みも甘んじて受け入れるつもりだ。といっても一生ではなく、彼が冷遇された期間と同等の年数の間だけ。
それが過ぎたらきちんと話し合って離縁しようと思う。
もちろん無駄に時間を使わせてしまった分だけの慰謝料だって払う。
それでもう終わりにしたい……。
こちらを好きでもない相手とずっと夫婦でいるなんて私には無理だ。
「あ、そうだ……アレ飲まなくちゃ……」
アレとはマーサに頼んで用意してもらった薬湯のこと。
私は匂いからして苦いその薬を手に取り、一気に飲み干した。
「うええ……苦い。それに臭いわ。何使ってんのよこれ……」
この苦くて臭い薬湯はこの世界の避妊薬だ。前世のものとは違いかなり飲みにくいうえに量が多い。
こんな不味い物を大きめのカップ一杯分飲み干さなければ効果がないとか拷問だ。
これから毎回閨の後にこれを飲まなければならないかと思うと辛い。
だが、離縁する相手の子を妊娠するわけにもいかないので我慢するしかない。
「……………………我慢?」
私が我慢すればいい、という考えに疑問を覚えた。
果たしてその我慢はリヒャルトの為になるのだろうかと。
もし自分が彼の立場なら妻が嫌々抱かれていたと知れば相当ショックを受けると思う。
そう考えると、私の行動は再び彼を傷つけるだけのものだ。
嫌だけどそれでリヒャルトの溜飲が下がるなら……などとまるで悲劇のヒロインぶった思考が気持ち悪い。
「今のままじゃお互い不幸になるだけだわ。やっぱりもう少し話し合わないと……」
思えば昨日の話し合いはリヒャルトの勢いに押されて彼の希望をそのまま受け入れてしまった。それが彼への贖罪になると思ったから。
確かに私……というよりレイチェルは彼にひどいことをした。それは間違いない。
そのことについて、償う方法も含めてもう少し話し合って妥協案を見つけた方がいいのではないかと思う。
よし早速リヒャルトの元へ話し合いに行こう、と思いベッドから起き上がったところで寝所の扉が乱暴に開かれた。
「レイチェル様…………!!」
「え? リヒャルト様? どうなさったのですか……?」
息を切らしながら寝所に入ってきたリヒャルト。
その鬼気迫った様子に驚いていると、彼はおもむろに頭を下げた。
「卑怯な真似をして申し訳ありませんでした!」
「え? え?」
いきなり謝罪され困惑する私と頭を下げたままの夫。
訳が分からないのでとりあえず頭を上げてもらい、詳しく話してもらうため椅子へと座らせた。
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