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甘い時間
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「レイチェル様……あの、よければ今後は“レイチェル”と呼び捨てにしても構いませんか?」
私の髪を指に絡めながらリヒャルトが照れ臭そうに問いかける。
その姿は成人した男と思えないほど愛らしい。
こんな状態でなければ胸が甘く疼いていたはずだ。
彼によって散々貪られて啼かされて息も絶え絶えの状態では胸をときめかすことも億劫で仕方ない。
「ああ……はい、構いませんよ……」
もう声もガラガラに枯れている。
振り絞るように声を出す私を彼は満足そうに眺めていた。
「声、ガラガラですね。散々可愛い声で啼きましたものね?」
満面の笑みを浮かべる彼に殺意が湧く。何でそんなに嬉しそうなんだこのやろう。
「……リヒャルト様のせいなのですから、お水の一つでも持ってきてください」
自分でも可愛げが無いと分かっているが悪態の一つでもつかないと気が済まない。
だが、彼は意外にも嬉しそうな顔を見せた。
「そうですね、僕のせいです! それとレイチェル、僕の事もリヒャルトと呼び捨てにしてください」
「は、はあ……分かりました」
何がそんなに嬉しいのか彼はキラキラと瞳を輝かせた。
悔しいがそんな彼を愛しく思ってしまう。
ベッドから起き上がった彼はサイドテーブルに置いてある水差しを手に取った。
そう、執務室で話をしていたはずの私達は何故か今ベッドの上にいる。
私がソファーの上で致すことを嫌がったため、リヒャルトがここまで運んできたのだ。
よりにもよってお姫様抱っこで。
その姿で執務室から寝室までの廊下を歩いたものだから、まあ使用人から生暖かい目で見られた。
もう今日から彼等の顔が恥ずかしくて見られないよ!
「はい、お水ですよ」
「ああ、ありがとうございます……」
グラスに注がれた水を受け取ろうとするが、彼にそれを片手で制される。
その行動に首を傾げると、彼はイイ笑顔を浮かべた。
「飲ませてあげますから貴女はそのままで」
「はい? 水くらい介助無しで飲めますよ?」
「いえ、介助ではなく口移しで飲ませるという意味です」
「さらりと何とんでもないことを言っているのです?」
破廉恥なことを言い出した夫からグラスを奪い取ってやった。
まるで何かが覚醒したかのように彼は事あるごとに私とイチャつこうとする。
それが嬉しくないわけではない。ただ恥ずかしいのだ。
こんな綺麗な顔で迫られるのは心臓に悪いし、心の準備も出来ていない。
だから初手からこんなグイグイと来るのは止めてほしい。
「ああ……僕が口移しで飲ませてあげたかったのに……」
「しないで結構です! だいたい……それをすればまた貴方の欲に火がついてしまうのでは?」
「鋭いですね、レイチェル。流石は僕の妻です」
「その謎の上から目線は何なのですか……?」
意味不明な上から目線発言だが、不覚にも“僕の妻”という部分にドキッとした。
分かり切っていたことだが、私がこの人の妻なのだと自覚すると体中に多幸感が満ちてゆく。
我ながらなんて単純な女なのだろう。つい先ほどまで離縁するとグズグズ泣いていたのに、ちょっと愛されただけでこれだ。結局はこの人のことが好きだということの証じゃないか。
いや、それよりもこれは愛されたという部類に入るのだろうか?
溺愛といえばそうだけど、なんだか私の知る溺愛とは違う気がする。
「ところでレイチェル、先ほどの王妃様の話で少し気になるところがあったのですが……」
「はい? 何でしょうか?」
グラスに入った冷たいレモン水を飲みながら答えた。
前にこれと同じものを飲んだ時は悲しみで心が張り裂けそうだったのに、今は幸せに満たされている。
それがなんだかくすぐったくて、誤魔化すように私はゴクゴクと勢いよく飲み干した。
「肝心の第二王子殿下自身は王妃様の企みをどう思っていらっしゃるのです? いくら王妃様が乗り気でも、本人が拒否していれば成り立たないと思うのですが……」
「いや、実は第二王子殿下も存外乗り気ではあります。本人が拒否してくれたらこんな面倒くさいことにならなかったのですよね」
結婚前は王妃様によって第二王子と二人きりにさせられたことが何度かある。
その度に王子はレイチェルを手慣れた様子で口説いてきた。
それこそ貴公子らしく甘く蕩けるような口説き文句を駆使してきたのだが、当のレイチェルはこれっぽっちも靡かなかった。何故かというと王子の外見がレイチェルの好みではないからだ。
驚くほど面食いのレイチェルの好みはリヒャルトのように線の細い儚げ美青年だ。
第二王子も美青年ではあるが、どちらかといえば逞しく精悍な見た目でレイチェルの好みとはかけ離れている。
好みじゃないからと美青年の口説き文句を華麗にスルーできるレイチェルを心の底から尊敬する。正直、私だったらいちいち反応してしまいそうだ。
「ふうん、成程。まあ、第二王子殿下の気持ちも分かります。名門公爵家の伴侶の座も垂涎ものですが、貴女のような極上の美女を好きにできるとなれば……男なら誰でも堪らなくなります」
極上の美女!? いきなり褒めるのは止めて! 照れるから!
確かにレイチェルの外見は物凄くいい女だよ。顔は華やかだし、細いくせに巨乳というけしからん体だし。リヒャルトと並んで遜色ないし。
「王子殿下は聡明で頼りがいのある貴公子と聞きます。きっと、外見しか取り柄の無い僕よりも何倍もいい男なのでしょう。それでも僕は貴女を奪われたくない。どうか……僕だけの貴女でいてくれますか?」
そんな切ない眼差しで言われたら誰でも了承しちゃうよ!
もちろん私だってそうだよ! ああ~もう、とにかく顔がいい!
私の髪を指に絡めながらリヒャルトが照れ臭そうに問いかける。
その姿は成人した男と思えないほど愛らしい。
こんな状態でなければ胸が甘く疼いていたはずだ。
彼によって散々貪られて啼かされて息も絶え絶えの状態では胸をときめかすことも億劫で仕方ない。
「ああ……はい、構いませんよ……」
もう声もガラガラに枯れている。
振り絞るように声を出す私を彼は満足そうに眺めていた。
「声、ガラガラですね。散々可愛い声で啼きましたものね?」
満面の笑みを浮かべる彼に殺意が湧く。何でそんなに嬉しそうなんだこのやろう。
「……リヒャルト様のせいなのですから、お水の一つでも持ってきてください」
自分でも可愛げが無いと分かっているが悪態の一つでもつかないと気が済まない。
だが、彼は意外にも嬉しそうな顔を見せた。
「そうですね、僕のせいです! それとレイチェル、僕の事もリヒャルトと呼び捨てにしてください」
「は、はあ……分かりました」
何がそんなに嬉しいのか彼はキラキラと瞳を輝かせた。
悔しいがそんな彼を愛しく思ってしまう。
ベッドから起き上がった彼はサイドテーブルに置いてある水差しを手に取った。
そう、執務室で話をしていたはずの私達は何故か今ベッドの上にいる。
私がソファーの上で致すことを嫌がったため、リヒャルトがここまで運んできたのだ。
よりにもよってお姫様抱っこで。
その姿で執務室から寝室までの廊下を歩いたものだから、まあ使用人から生暖かい目で見られた。
もう今日から彼等の顔が恥ずかしくて見られないよ!
「はい、お水ですよ」
「ああ、ありがとうございます……」
グラスに注がれた水を受け取ろうとするが、彼にそれを片手で制される。
その行動に首を傾げると、彼はイイ笑顔を浮かべた。
「飲ませてあげますから貴女はそのままで」
「はい? 水くらい介助無しで飲めますよ?」
「いえ、介助ではなく口移しで飲ませるという意味です」
「さらりと何とんでもないことを言っているのです?」
破廉恥なことを言い出した夫からグラスを奪い取ってやった。
まるで何かが覚醒したかのように彼は事あるごとに私とイチャつこうとする。
それが嬉しくないわけではない。ただ恥ずかしいのだ。
こんな綺麗な顔で迫られるのは心臓に悪いし、心の準備も出来ていない。
だから初手からこんなグイグイと来るのは止めてほしい。
「ああ……僕が口移しで飲ませてあげたかったのに……」
「しないで結構です! だいたい……それをすればまた貴方の欲に火がついてしまうのでは?」
「鋭いですね、レイチェル。流石は僕の妻です」
「その謎の上から目線は何なのですか……?」
意味不明な上から目線発言だが、不覚にも“僕の妻”という部分にドキッとした。
分かり切っていたことだが、私がこの人の妻なのだと自覚すると体中に多幸感が満ちてゆく。
我ながらなんて単純な女なのだろう。つい先ほどまで離縁するとグズグズ泣いていたのに、ちょっと愛されただけでこれだ。結局はこの人のことが好きだということの証じゃないか。
いや、それよりもこれは愛されたという部類に入るのだろうか?
溺愛といえばそうだけど、なんだか私の知る溺愛とは違う気がする。
「ところでレイチェル、先ほどの王妃様の話で少し気になるところがあったのですが……」
「はい? 何でしょうか?」
グラスに入った冷たいレモン水を飲みながら答えた。
前にこれと同じものを飲んだ時は悲しみで心が張り裂けそうだったのに、今は幸せに満たされている。
それがなんだかくすぐったくて、誤魔化すように私はゴクゴクと勢いよく飲み干した。
「肝心の第二王子殿下自身は王妃様の企みをどう思っていらっしゃるのです? いくら王妃様が乗り気でも、本人が拒否していれば成り立たないと思うのですが……」
「いや、実は第二王子殿下も存外乗り気ではあります。本人が拒否してくれたらこんな面倒くさいことにならなかったのですよね」
結婚前は王妃様によって第二王子と二人きりにさせられたことが何度かある。
その度に王子はレイチェルを手慣れた様子で口説いてきた。
それこそ貴公子らしく甘く蕩けるような口説き文句を駆使してきたのだが、当のレイチェルはこれっぽっちも靡かなかった。何故かというと王子の外見がレイチェルの好みではないからだ。
驚くほど面食いのレイチェルの好みはリヒャルトのように線の細い儚げ美青年だ。
第二王子も美青年ではあるが、どちらかといえば逞しく精悍な見た目でレイチェルの好みとはかけ離れている。
好みじゃないからと美青年の口説き文句を華麗にスルーできるレイチェルを心の底から尊敬する。正直、私だったらいちいち反応してしまいそうだ。
「ふうん、成程。まあ、第二王子殿下の気持ちも分かります。名門公爵家の伴侶の座も垂涎ものですが、貴女のような極上の美女を好きにできるとなれば……男なら誰でも堪らなくなります」
極上の美女!? いきなり褒めるのは止めて! 照れるから!
確かにレイチェルの外見は物凄くいい女だよ。顔は華やかだし、細いくせに巨乳というけしからん体だし。リヒャルトと並んで遜色ないし。
「王子殿下は聡明で頼りがいのある貴公子と聞きます。きっと、外見しか取り柄の無い僕よりも何倍もいい男なのでしょう。それでも僕は貴女を奪われたくない。どうか……僕だけの貴女でいてくれますか?」
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