物語のようにはいかない

わらびもち

文字の大きさ
20 / 32

王妃は私を嫌っている

しおりを挟む
「いらっしゃい。よく来てくれたわね、レイチェル」

 女官に案内され、庭園に足を踏み入れた私を迎えてくれたのは嘘くさい笑みを貼り付けた王妃様だった。

「王妃様におかれましてはご機嫌麗しく。本日はお招きいただきありがとうございます」

「まあまあ、堅苦しい挨拶は抜きにしましょう。わたくし達の仲じゃない?」

 白々しく仲が良いと強調する王妃に心の中で「どんな仲だよ!」と突っ込んだ。
 少なくとも堅苦しい挨拶を抜きにする関係性ではない。

 以前からレイチェル自身も感じ取っていたことだが、この人はまず間違いなく
 笑顔を浮かべても目の奥が笑っていないし、何よりこちらを値踏みするような視線が不快だ。

(私の母が嫌いだから娘の私も嫌いなのか、陛下に大切にされていることが気に入らないのか、私の父に好意を抱いていたからなのか……。思いつくものが多すぎる……)

 国王の姪にあたるレイチェルが王妃とは最低限の交流しかしていない理由は単純に彼女がこちらを嫌っているからだ。幼少の頃から何となくそれを感じ取っていたし、また母もそれを分かっていたから家ぐるみで必要最低限しか関りをもたなかった。

 こちらを嫌う理由はその頃は分からなかったが、成長するにつれて判明された。
 そしてその数の多さに思わず呆れてしまったことを覚えている。

「座って頂戴。今お茶を運ばせるわ」

 庭園に面したガゼボに設置されている椅子に座ると、女官がお茶を運んできた。

「いいカモミールが手に入ったの。よい香りでしょう?」

 にっこりと微笑む王妃様に軽く殺意が湧いた。
 レイチェルはカモミールが苦手ということを知っていてわざとこういうことをする彼女の下卑た性根に吐き気がする。

(この香りが苦手なのよね……。でも、まあいいか。最初から飲む気もなかったし)

「ええ、とてもいい香りですね」

 こちらも負けじと微笑めば、王妃様は驚愕した顔を見せた。
 あらあら……淑女が感情を表に出すなどはしたないこと。

 前世の記憶が戻る前のレイチェルならば「こんなの飲めないわよ!」とキレていただろう。でも今はそんな淑女らしからぬことはしない。こちらが醜態を晒せば相手を喜ばせてしまうと分かっているから。

 いささか残念そうな表情の王妃はお菓子も勧めてきたが、こちらもレイチェルの嫌いなものオンパレードだ。甘いクリームがたっぷり乗ったケーキ、盛りに盛ったクリームタルト、食べにくいまでにクリームを挟んだビスケット。クリームが苦手なレイチェルへの嫌がらせ目的としか思えないラインナップ。

(意地の悪い姑みたいなムーブかまして……。食べ物で嫌がらせするなんて最低だわ)
 
 こんな偏ったラインナップを他の人も参加するお茶会で出したら恥をかくぞ、と内心呆れた。こんなクリームマニアしか喜ばない菓子をよくも出せたものだ。というかこれ、カモミールティーに合うのか? 

 まあ、何が盛られているかも分からないから元々お茶もお菓子も口をつけるフリをすると決めていた。こんなあからさまな嫌がらせをされるとは思っていなかったけど。

「美味ですこと。王妃様はこのような組み合わせを好むのですね」

 言外に『お前の出す茶と菓子の組み合わせ変(笑)』という意味を含ませたが伝わっただろうか?

 あ、伝わっている。一瞬、物凄い顔でこちらを睨んできたわ。

「ええ……まあ、貴女のために料理長に命じて特別に作らせたのよ」

 王宮の料理長にわざわざ嫌がらせメニューを作らせんなよ!?
 つくづく性根の悪い女だ。招待しておいて嫌がらせをするとか何がしたいの?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

相手不在で進んでいく婚約解消物語

キムラましゅろう
恋愛
自分の目で確かめるなんて言わなければよかった。 噂が真実かなんて、そんなこと他の誰かに確認して貰えばよかった。 今、わたしの目の前にある光景が、それが単なる噂では無かったと物語る……。 王都で近衛騎士として働く婚約者に恋人が出来たという噂を確かめるべく単身王都へ乗り込んだリリーが見たものは、婚約者のグレインが恋人と噂される女性の肩を抱いて歩く姿だった……。 噂が真実と確信したリリーは領地に戻り、居候先の家族を巻き込んで婚約解消へと向けて動き出す。   婚約者は遠く離れている為に不在だけど……☆ これは婚約者の心変わりを知った直後から、幸せになれる道を模索して突き進むリリーの数日間の物語である。 果たしてリリーは幸せになれるのか。 5〜7話くらいで完結を予定しているど短編です。 完全ご都合主義、完全ノーリアリティでラストまで作者も突き進みます。 作中に現代的な言葉が出て来ても気にしてはいけません。 全て大らかな心で受け止めて下さい。 小説家になろうサンでも投稿します。 R15は念のため……。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

ある国の王の後悔

黒木メイ
恋愛
ある国の王は後悔していた。 私は彼女を最後まで信じきれなかった。私は彼女を守れなかった。 小説家になろうに過去(2018)投稿した短編。 カクヨムにも掲載中。

〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。

藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」 憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。 彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。 すごく幸せでした……あの日までは。 結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。 それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。 そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった…… もう耐える事は出来ません。 旦那様、私はあなたのせいで死にます。 だから、後悔しながら生きてください。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全15話で完結になります。 この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。 感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。 たくさんの感想ありがとうございます。 次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。 このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。 良かったら読んでください。

〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?

詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
私の家は子爵家だった。 高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。 泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。 私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。 八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。 *文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*

処理中です...