どうして許されると思ったの?

わらびもち

文字の大きさ
18 / 136

証拠ないの?

しおりを挟む
「証拠……ないの?」

 呆れた声で尋ねると、侍女長は焦った顔で首を横に振る。

「いいえ! 確か当時の請求書がまだ保管されていたはずです!」

「それって証拠になるの? 請求書だけでは幼馴染が注文した物かどうか分からないわよね?」

 店からの請求書は品物名と金額しか記載されていない。
 それだけでは幼馴染が注文したかどうかは分からない。
 当時の奥方が注文した物と言われればそれまでだ。

「ええっと……あ、そうです! 商会のオーナーであれば当時の事を覚えているやもしれません。お嬢様方から注文を受けたのはオーナーですから」

「商会のオーナーが? 成程、それなら証拠というより証言になるかもね……」

 そのオーナーとやらが当時の事を記憶していれば証言がとれる。
 それにドレスの注文書が残っていればそこに体のサイズなども事細かに記入されているはずだ。体のサイズは人によって違う。同時期の注文でサイズにばらつきがあればそれが証拠となるかもしれない。

「それじゃ早速その商会のオーナーとやらに連絡をとるように手配を。確認が取れ次第旦那様の幼馴染と父親を尋問します。それでよろしいですね?」

「ああ、勿論だ。色々すまないな、システィーナ……」

 つくづく頼りない夫だが、こちらが主導権を握れるのは悪くない。
 これで無駄にプライドが高く反抗的な男だったら扱いが面倒だから。

「奥様、商会に問い合わせたところ当時のオーナーは既に引退していることが分かりました」

「あらそう。まあ何年も経っているし、そういうこともあるわね。それで?」

「はい、それで話を終えようとした先方にベロア家の名を出しました。すると二つ返事で先代のオーナーを連れてくると」

「それはよかったわ。で、いつ来るのかしら?」

「はい、早くて明日。遅くとも明後日までにはこちらにやってくるそうです」

 専属侍女の言葉にシスティーナは満足そうに頷いた。
 やはり実家の名を出すと話が早い。使えるものは何でも使わねば。

 侍女の淹れたお茶を一口飲み、ふと思い出したように顔を上げる。

「そういえば先日邸に来た旦那様の幼馴染……名前を何と言ったかしら?」

「ダスター男爵家のアリー嬢です、奥様」

「そうそう、そのダスター男爵家。娘の非礼を詫びに来るかと思ったのに……一向に来ないわね?」

「そういえばそうですね。全く、この家は家臣教育がなっておりません。家臣が主家の夫人に礼を尽くさないなどベロア家では有り得ないことでした。こうも常識が違うものなのですね」

 身分や血統が重んじられる貴族社会においてこのフレン伯爵家の家臣達の在り方はシスティーナを大層驚かせた。家臣が主人の奥方を侮るなど許されることではない。本来であれば娘の無礼をその日の内に父親が謝罪しに来るべきなのに、一向にそれがない。

 不思議なのだが上の立場の者に無礼を働いて

 そんなことを考えていると、ふと廊下の方が騒がしくなった。

「? 何かしら?」

「見て参ります。奥様はここでお待ちください」

 専属侍女が扉を開けた時に廊下で騒ぐ大声が耳に届いた。

「ちょっと、レイの嫁は何処よ!? 昨日はよくも無駄に待たせてくれたわね!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)

兄にいらないと言われたので勝手に幸せになります

毒島醜女
恋愛
モラハラ兄に追い出された先で待っていたのは、甘く幸せな生活でした。 侯爵令嬢ライラ・コーデルは、実家が平民出の聖女ミミを養子に迎えてから実の兄デイヴィッドから冷遇されていた。 家でも学園でも、デビュタントでも、兄はいつもミミを最優先する。 友人である王太子たちと一緒にミミを持ち上げてはライラを貶めている始末だ。 「ミミみたいな可愛い妹が欲しかった」 挙句の果てには兄が婚約を破棄した辺境伯家の元へ代わりに嫁がされることになった。 ベミリオン辺境伯の一家はそんなライラを温かく迎えてくれた。 「あなたの笑顔は、どんな宝石や星よりも綺麗に輝いています!」 兄の元婚約者の弟、ヒューゴは不器用ながらも優しい愛情をライラに与え、甘いお菓子で癒してくれた。 ライラは次第に笑顔を取り戻し、ベミリオン家で幸せになっていく。 王都で聖女が起こした騒動も知らずに……

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

処理中です...