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証拠ないの?
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「証拠……ないの?」
呆れた声で尋ねると、侍女長は焦った顔で首を横に振る。
「いいえ! 確か当時の請求書がまだ保管されていたはずです!」
「それって証拠になるの? 請求書だけでは幼馴染が注文した物かどうか分からないわよね?」
店からの請求書は品物名と金額しか記載されていない。
それだけでは幼馴染が注文したかどうかは分からない。
当時の奥方が注文した物と言われればそれまでだ。
「ええっと……あ、そうです! 商会のオーナーであれば当時の事を覚えているやもしれません。お嬢様方から注文を受けたのはオーナーですから」
「商会のオーナーが? 成程、それなら証拠というより証言になるかもね……」
そのオーナーとやらが当時の事を記憶していれば証言がとれる。
それにドレスの注文書が残っていればそこに体のサイズなども事細かに記入されているはずだ。体のサイズは人によって違う。同時期の注文でサイズにばらつきがあればそれが証拠となるかもしれない。
「それじゃ早速その商会のオーナーとやらに連絡をとるように手配を。確認が取れ次第旦那様の幼馴染と父親を尋問します。それでよろしいですね?」
「ああ、勿論だ。色々すまないな、システィーナ……」
つくづく頼りない夫だが、こちらが主導権を握れるのは悪くない。
これで無駄にプライドが高く反抗的な男だったら扱いが面倒だから。
*
「奥様、商会に問い合わせたところ当時のオーナーは既に引退していることが分かりました」
「あらそう。まあ何年も経っているし、そういうこともあるわね。それで?」
「はい、それで話を終えようとした先方にベロア家の名を出しました。すると二つ返事で先代のオーナーを連れてくると」
「それはよかったわ。で、いつ来るのかしら?」
「はい、早くて明日。遅くとも明後日までにはこちらにやってくるそうです」
専属侍女の言葉にシスティーナは満足そうに頷いた。
やはり実家の名を出すと話が早い。使えるものは何でも使わねば。
侍女の淹れたお茶を一口飲み、ふと思い出したように顔を上げる。
「そういえば先日邸に来た旦那様の幼馴染……名前を何と言ったかしら?」
「ダスター男爵家のアリー嬢です、奥様」
「そうそう、そのダスター男爵家。娘の非礼を詫びに来るかと思ったのに……一向に来ないわね?」
「そういえばそうですね。全く、この家は家臣教育がなっておりません。家臣が主家の夫人に礼を尽くさないなどベロア家では有り得ないことでした。こうも常識が違うものなのですね」
身分や血統が重んじられる貴族社会においてこのフレン伯爵家の家臣達の在り方はシスティーナを大層驚かせた。家臣が主人の奥方を侮るなど許されることではない。本来であれば娘の無礼をその日の内に父親が謝罪しに来るべきなのに、一向にそれがない。
不思議なのだが上の立場の者に無礼を働いて何故許されると思うのだろう?
そんなことを考えていると、ふと廊下の方が騒がしくなった。
「? 何かしら?」
「見て参ります。奥様はここでお待ちください」
専属侍女が扉を開けた時に廊下で騒ぐ大声が耳に届いた。
「ちょっと、レイの嫁は何処よ!? 昨日はよくも無駄に待たせてくれたわね!」
呆れた声で尋ねると、侍女長は焦った顔で首を横に振る。
「いいえ! 確か当時の請求書がまだ保管されていたはずです!」
「それって証拠になるの? 請求書だけでは幼馴染が注文した物かどうか分からないわよね?」
店からの請求書は品物名と金額しか記載されていない。
それだけでは幼馴染が注文したかどうかは分からない。
当時の奥方が注文した物と言われればそれまでだ。
「ええっと……あ、そうです! 商会のオーナーであれば当時の事を覚えているやもしれません。お嬢様方から注文を受けたのはオーナーですから」
「商会のオーナーが? 成程、それなら証拠というより証言になるかもね……」
そのオーナーとやらが当時の事を記憶していれば証言がとれる。
それにドレスの注文書が残っていればそこに体のサイズなども事細かに記入されているはずだ。体のサイズは人によって違う。同時期の注文でサイズにばらつきがあればそれが証拠となるかもしれない。
「それじゃ早速その商会のオーナーとやらに連絡をとるように手配を。確認が取れ次第旦那様の幼馴染と父親を尋問します。それでよろしいですね?」
「ああ、勿論だ。色々すまないな、システィーナ……」
つくづく頼りない夫だが、こちらが主導権を握れるのは悪くない。
これで無駄にプライドが高く反抗的な男だったら扱いが面倒だから。
*
「奥様、商会に問い合わせたところ当時のオーナーは既に引退していることが分かりました」
「あらそう。まあ何年も経っているし、そういうこともあるわね。それで?」
「はい、それで話を終えようとした先方にベロア家の名を出しました。すると二つ返事で先代のオーナーを連れてくると」
「それはよかったわ。で、いつ来るのかしら?」
「はい、早くて明日。遅くとも明後日までにはこちらにやってくるそうです」
専属侍女の言葉にシスティーナは満足そうに頷いた。
やはり実家の名を出すと話が早い。使えるものは何でも使わねば。
侍女の淹れたお茶を一口飲み、ふと思い出したように顔を上げる。
「そういえば先日邸に来た旦那様の幼馴染……名前を何と言ったかしら?」
「ダスター男爵家のアリー嬢です、奥様」
「そうそう、そのダスター男爵家。娘の非礼を詫びに来るかと思ったのに……一向に来ないわね?」
「そういえばそうですね。全く、この家は家臣教育がなっておりません。家臣が主家の夫人に礼を尽くさないなどベロア家では有り得ないことでした。こうも常識が違うものなのですね」
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不思議なのだが上の立場の者に無礼を働いて何故許されると思うのだろう?
そんなことを考えていると、ふと廊下の方が騒がしくなった。
「? 何かしら?」
「見て参ります。奥様はここでお待ちください」
専属侍女が扉を開けた時に廊下で騒ぐ大声が耳に届いた。
「ちょっと、レイの嫁は何処よ!? 昨日はよくも無駄に待たせてくれたわね!」
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